2030年に固定無線アクセス(FWA)の世界の通信トラフィックは1ゼタバイトへ
ABI Researchは2025年10月16日、固定無線アクセス(FWA: Fixed Wireless Access)市場に関する最新予測を発表しました。ABI Researchによると、世界のFWAサービス収益は2023年から2030年にかけて年平均18.8%で成長し、2030年には1,110億ドル(約17兆円)に達する見通しです。また、同期間のデータトラフィック量は18.7%の成長を続け、年間1ゼタバイト(ZB)に到達するとのことです。
FWA Data Traffic Growth will Outpace Subscriber Growth, Reaching 1 Zettabyte Worldwide by 2030
この成長を牽引しているのは、各国通信事業者による5G FWAサービスの急速な展開です。モバイルネットワークを活用した固定通信の形態であるFWAは、光ファイバーの敷設が難しい地域に高速通信を提供できることから、「デジタルデバイド(情報格差)」の是正に寄与する技術として注目されています。
ABI Researchのアナリスト、ラルビ・ベルキット氏は「5G FWAの導入は、加入者数と収益の両面で高い成長を続けている。通信事業者はこれを5Gネットワークの新たな収益源として位置付けている」と述べています。
今回は、このFWA市場の成長要因、地域別の動向、そして今後の通信ビジネスの展望について取り上げます。
加入者は2億3,000万件へ 主役は5G FWA
ABI Researchの分析によると、FWAの加入者数は2030年に2億3,300万件に達する見通しです。そのうち81%を5G FWAが占め、現在主流の4G FWAから急速にシフトが進むと予測されています。
特に米国では、T-MobileとVerizonがFWA接続目標を当初の2倍に引き上げるなど、積極的な顧客獲得競争が進んでいます。また、インドではReliance Jioが5G FWAを展開してわずか2年足らずで約500万世帯をカバーするまでに拡大しており、新興国市場でも急速な普及が見られます。
FWAは光回線に比べて設置期間が短く、初期コストも低いことから、住宅地や地方都市におけるブロードバンド拡充の切り札とされています。
一方で、平均収益単価(ARPU)は地域によって大きく異なり、アジア太平洋地域では加入者数が多いものの、北米市場ほどの収益性は期待できません。ABI Researchは「北米が今後最も高い収益成長を示す」と見ています。
CPEの進化と新しい収益モデル
FWA市場の拡大を支えているのが、5Gカスタマープレミス機器(CPE: Customer Premises Equipment)の進化です。CPEとは、家庭やオフィスで5G信号を受け取りWi-Fiへ変換する装置を指します。近年は高効率アンテナや低遅延チップを搭載した新型CPEの登場により、接続品質や通信速度が大幅に向上しています。
ベルキット氏は「CPEの技術革新が加入者拡大と収益成長の両方を加速している」と指摘します。さらに今後は、単に通信速度を競う従来型モデルから脱却し、「サービス価値を中心とした収益化」へとシフトが進む見込みです。たとえば、在宅勤務支援やクラウドゲーム、遠隔医療など、用途別の付加価値型サービスが展開される可能性があります。
通信事業者にとっては、5Gネットワーク投資の回収と新たな収益機会の創出が両立できるモデルとしてFWAが注目されています。とりわけ、固定回線が普及していない市場では「第1の家庭向けブロードバンド」としての地位を確立しつつあります。
地域別の動向と課題
地域別では、アジア太平洋が圧倒的な加入者数を誇る一方、北米は高ARPUによって収益面で優位に立つ構図となっています。欧州では規制整備や周波数再編が進む中、都市部の高速通信需要に応える手段としてFWAの導入が進行中です。
一方で、課題も浮かび上がっています。特に発展途上国では、周波数帯の確保やCPEコストの負担が普及のボトルネックとなる場合があります。また、トラフィックの急増に伴い、ネットワークのバックホール(基幹通信網)強化も不可欠です。
とはいえ、5Gスタンドアロン(SA)化やミリ波帯の活用が進めば、通信品質と容量の両立が可能になり、これらの課題は徐々に解消されると見込まれています。
今後の展望:6G時代の橋渡しとしてのFWA
2030年に向けたFWA市場の拡大は、5Gインフラ投資を有効活用しながら「無線による固定通信」という新たなカテゴリーを確立することで、6G時代への橋渡し役を果たすことが期待されています。
一方、ABI Researchは、「FWAはもはや一時的な補完手段ではなく、持続的なブロードバンド戦略の中心に位置付けられつつある」とも指摘しています。
将来的には、FWAがクラウドゲートウェイやエッジAI処理拠点と連携し、家庭や地域単位での「分散型デジタルネットワーク」の基盤となる可能性もあります。特に、スマートホームや地方DX、自治体クラウドなど、地域社会のデジタル化を支える基盤としての役割が広がることが期待されます。
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