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AIの進展でコンポーザブル・インフラストラクチャの採用が拡大

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IDCは2025年10月28日、AIインフラ市場に関する最新分析を発表しました。新たに四半期ベースへと強化された「Worldwide AI Infrastructure Tracker」によると、アジア太平洋地域(日本・中国を除く、APeJC)のAIサーバおよびストレージ市場は今後5年間で急成長を遂げ、市場は2029年までに200億ドル規模へ成長すると予測しています。

AI Infrastructure Investments Surge Across Key APeJC* Markets Fueling a Wave of AI and GenAI Innovation

同地域では、AIモデルの学習や推論処理の増大に加え、エッジからコアまでのデータ統合需要が高まっており、AIサーバ市場は年平均成長率(CAGR)15.1%、AIストレージ市場は7.6%の成長が予測されています。背景には、生成AIの本格導入、データ主権への対応、そしてオンプレミス型AI基盤の進展があります。

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出典:IDC 2025.10

今回は、このIDCの分析をもとに、APeJCにおけるAIインフラ市場の成長要因と変化の方向性、そして今後の展望について取り上げたいと思います。

企業インフラは「コンポーザブル」へ 

IDCによると、AIを活用する企業の間では、柔軟性とスケーラビリティを備えた「コンポーザブル・インフラストラクチャ(Composable Infrastructure)」の採用が広がっています。

これは、CPUやGPU、ネットワーク、ストレージなどのリソースをモジュール化し、AIワークロードに応じて動的に構成を切り替える設計思想です。こうした構成により、企業はAIモデルの学習や推論を迅速に展開できるだけでなく、生成AIのような複雑なアプリケーションにも柔軟に対応できるようになるといいます。

また、生成AIを運用段階へ移行する企業が増える中、RAG(Retrieval-Augmented Generation)Model Context Protocol(MCP)といった新技術の導入が進んでいます。これらはAIモデルがリアルタイムで外部データやシステムと連携するための仕組みであり、企業が独自データを活かした精緻な応答や業務自動化を実現するうえで重要な役割を果たしています。結果として、クラウド依存を減らし、より制御性の高いオンプレミス環境への回帰を促す動きも強まっています。

パブリッククラウドからハイブリッド・オンプレミスへ

これまでAI導入の主流はパブリッククラウドでした。しかしデータ主権、レイテンシ、コスト最適化などの観点から、クラウド一辺倒の構成を見直す企業が増えているといいます。

政府・教育・通信・小売といった産業分野では、AIによる意思決定支援やサービス自動化を進めるうえで、データの保管場所と利用範囲を自社で制御することが求められています。これにより、プライベートクラウドやハイブリッド構成、さらにはデータセンター内でAIモデルを運用するオンプレミス展開が再評価されています。

IDCはこうした動きを「AIインフラの戦略的再構築」と位置付けています。オンプレミス型のAIサーバは、クラウドコストの変動を抑えつつ、カスタマイズ性とセキュリティを両立できるため、今後のAI市場で新たな成長領域となると見ています。

AI成功の鍵はストレージのモダナイゼーションに

AIが生み出すデータ量の爆発的増加に対応するため、企業のストレージ環境のモダナイゼーションが急務となっています。AIモデルの学習や推論では、構造化・非構造化を問わず膨大なデータを高速に読み書きする必要があります。

このため、従来のストレージシステムではボトルネックが生じやすく、AI活用の成果を十分に引き出せないリスクがあります。IDCは、今後のAI基盤では「高スループット・超低遅延・高信頼性・スケーラブルなストレージ」が不可欠になると指摘しています。

特に、エッジ領域から中央データセンターまでデータをシームレスに統合する「エッジ・トゥ・コア」型の設計が重要視されており、AI推進におけるストレージの位置づけは単なる補助的要素から中核的基盤へと変わりつつあります。

IDCアジア太平洋地域リサーチディレクターのシンシア・ホー氏は次のように述べています。

アジア太平洋地域(日本と中国を除く)の企業インフラ市場は、AIを核とした変革の波に乗り、2029年までに約200億ドル規模に達する見込みです。企業はAIを単なる技術導入として捉えるのではなく、明確なビジネス成果とガバナンスを意識した"持続可能なAI"の構築が求められています。

今後の展望

APeJC地域では今後、AIと生成AIの実装が企業経営の中心課題となり、AI専用サーバの導入や高性能ストレージへの投資が一層加速する見通しです。特に2026年以降は、AIモデルのライフサイクル管理(MLOps)やセキュアなデータ連携の仕組みが整備され、AIインフラ市場は"第二の成長局面"へ入るとみられます。

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