こんばんは。初登場の中村 有紀です。

初登場、初投稿ながらになんで最初から若干悲しい感じの投稿なのか。ともあれ、どうぞ本編をご覧下さい。

駅に着いた。 財布の中身を見ると、700円弱しかない。 社会人3年目。なぜ私はこんなに貧乏なのだろう。

いきつけの店でつけてもらおうかとも考えたが、空腹には耐えられず、500円あればお腹いっぱい食べられる吉野家で済ますことにした。これから当分、お世話になるかもしれない。そう思うとあの吉野家が、急に神々しく見えてきた。さすが吉野家、同じ匂いのする同志達が早くも処狭しと、丼に顔を突っ込んでいるではないか。

「牛すき定食。」

と、吉野家の中では割に高めのメニューをチョイス。

「牛すき定食で~~~す。」

嬉々としながら目の前の餌にがっつく。食べ始めると同時に、隣りに疲れたサラリーマンのおじさんが座る。ほどなく、私と同じものがおじさんにも届く。するとおっさん、ごにょごにょと店員に何かを言っているではないか。何かと思ってイヤホンを片耳外してみると、

「いくらなんでも、愛想があるだろ。 これはないよ、ねーちゃん。」

と言いながら、味噌汁の椀を箸で突付いている。味噌汁に具が入っていないとごねていたのだ。仕事で疲れていたこともあってか、

「おじさん、まぁまぁ。」

と、思わず肩を叩いてしまった。 数秒後、ものすごい後悔が私を襲ったわけだが。

しらっとした空気が店内に漂う。

「あ、あー、すみません。」

とりあえず速攻謝る。 悪いことをしていないので謝る必要は全くないのだが、その辺りがやっぱりチキンな私。するとおじさん、

……う、うん。ごめんな。」 と言って、またおとなしく食べだす。程なく気が付いた。

おっさん、泣いてる?!

再び、イヤホン片耳外す。

「ねーちゃんなぁ、ねーちゃんよぉ、おっさん、今日、会社辞めたんだよ。」

おっさん、めっちゃ泣いてるよ。泣きながら牛すき定食、食べてるよ。なんだ、この少年漫画のギャグみたいな展開。でもまぁ、なんていうか、性格なんだな。聞いちゃうわけですよ。「何でさ。」ってね。

そこからのおっさんの話しはすごかった。おじさんはITエンジニアらしく、私にはよくわからないIT用語を 連ねていたのだが、でも、その辛さは真っ直ぐに私に伝わってきた。

「もう、やっぱだめだな。おっさんは若い人たちの中には入れないだよ。

 どんなにサイトで勉強しても(@ITのこと ? )覚える気があっても体がついていかない。

 一つ覚える間にみんなは3つも4つも覚えてく。俺は一体なんなんだって言っても周りは黙って俺を見るだけだ。こう見えてもおっさんな、娘るんだよ。どうしよう、これから。」

おじさんは悔しい、悔しいとひとしきり泣いていて泣いた後で、

「ごめんな。聞いてくれてありがとう。」

そう言った。

「さっきからずっとねーちゃんは音楽聴いてるな。 音楽好きか?」

というから、自分たちの作った曲を聴いてもらうと、泣き止んだおっさんが、再び泣き始めた。

「デビューしたらおっさんが真っ先にCD買ってやる。」

とでっかい声で言ってくれたのが、嬉しかった。

先に席を立ったおっさんは、

「明日は晴れるといいなぁ。」

と言って、店を出て行った。嵐の去った店で、店長らしき人がやってきて、

「ご迷惑をおかけしました。」 と頭を下げた。何をもって迷惑なのかわからないが。

続いて私も店を出る。先ほどまでの、バケツをひっくり返したような雨は止んでいる。私はiPODのチャンネルをおっさんに聞いてもらった曲に合わせて帰路に着いた。それは吉野家、午後八時半のこと。

中村 有紀

Special

- PR -
コメント
ooki 2006/12/06 16:00

>中村さん
初めまして。
本当に、ドラマのような話ですね。

そのおじさんは技術を学ぶのが好きではなかったんでしょうね。仕事だからやむなくやっているという感じで。
好きこそ・・・ではないですが、好きならスパスパ頭に入るものが、嫌々やっていると頭に入らないでしょうね。

どんな技術を身につけた方か分かりませんが、レガシーシステムだって健在。きっと、また仕事を見つけられる・・・はず。(おじさんと聞くと、ついつい本気で心配してしまう自分が・・・。)

Kawakami 2006/12/06 17:06

はじめまして
身の回りのドラマ(話)だからこそ、身にしみる話ですね。牛丼屋の出来事ですが、人生の1ページを見たような...

トラパパ 2006/12/06 17:51

私も多分「おじさん」の一人です。
不肖の業界、単年度契約が基本の文化。
いつ「絶不調」が訪れるかわかりません。
本当に怖いです。
今、弊社は年度末。
来年もほんとに今年みたく売っていけるんだろうか。
あと何年続けられるんだろうか・・・
そう思うとすぐそこの未来が怖くて仕方ないです。
そういう自分には、この実話(なんですよね・・・?)が身に染みます。。。

とおる 2006/12/06 17:54

うっ。身につまされるな。私はたぶん、プログラミングが好きで、好きで、ITをずっとやってきたのですが。Java ぐらいまでは、読めばわかったけど、最近、新しい言語を理解する能力にかげりがね。
 
あすは我が身にならないように、気合い入れないと。。。。。がんばれ、おじさん達。

中村有紀 2006/12/06 18:38

中村 有紀です。
皆様、コメント、ありがとうございます。
初コメントにデスクで一人、浮かれております。


>ooki様。
確かに、好きなことはどんどん頭に入ってくるのに、苦手分野になるとなかなか……。こと、苦手なものを克服するという能力が低い私なだけに、苦手なもの克服システムを是非、導入したい今日この頃です。。

>Kawakami様。
いきなりでしたからね。何の夢の続きかと思いましたが、定食代を支払った瞬間に、あぁ、夢ぢゃなかった……と。

>トラパパ様。
この先どうしようと悩みつつも最後は笑顔で吉野家を去っていった「おっさん」が印象に残っています。ちなみにここには書いていませんが、私はフリーターと勘違いされていました(笑)。「おっさん談」が始まる第一声は、「ねーちゃんみたいなフリーターにはわかんねーかもしれないけどな?」

>とおる様。
私みたいな若輩者はプログラミングの「プ」にまで達しておらず、私から見れば「おっさん」と書きながらも「神」でした。でも、「おっさん」(連呼してすみません)達がいてくれたからこそ、今、こんなにプログラミングとかテクノロジーが新化しているんですよね。ありがとう、おっさん達……(連呼、すみません、、)。

yoshikawa 2006/12/07 01:30

はじめまして吉川です。
これはいきなり凄いエントリーですね。まるでマンガのように読んでいてぐんぐんと引き込まれていってしまいました。
次回のエントリーも楽しみにしております、が、あまり力を入れすぎると大変だと思いますので気軽にかんばって下さい。では。

中村 有紀 2006/12/07 06:41

>吉川様。
 はじめまして。コメントありがとうございます。
 「初投稿、これでいいんでしょうか。。」と、
 いささかびくつきながら先輩に見てもらいました。
 アドバイスありがとうございます!
 私、その傾向あるので、気をつけます、ハイ……。


コメントを投稿する
メールアドレス(必須):
URL:
コメント:
トラックバック

http://app.blogs.itmedia.co.jp/t/trackback/77444/6675850

トラックバック・ポリシー


» このブログのTOP

» オルタナティブ・ブログTOP


プロフィール

鈴木麻紀と丸の内ファイブ

鈴木麻紀と丸の内ファイブ

アイティメディアで、スキル/キャリア関連サービスを企画・運営しているチーム。

詳しいプロフィール

カレンダー
2012年6月
          1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
ikizama
カテゴリー

オルタナティブ・ブログは、専門スタッフにより、企画・構成されています。入力頂いた内容は、アイティメディアの他、オルタナティブ・ブログ、及び本記事執筆会社に提供されます。


Special

- PR -
最近のトラックバック
Special オルタナトーク

仕事が嫌になった時、どう立ち直ったのですか?

エンタープライズ・ピックアップ

news094.gif 顧客に“ワォ!”という体験を提供――ザッポスに学ぶ企業文化の確立
単に商品を届けるだけでなく、サービスを通じて“ワォ!”という驚きの体験を届けることを目指している。ザッポスのWebサイトには、顧客からの感謝と賞賛があふれており、きわめて高い顧客満足を実現している。(12/17)

news094.gif ちょっとした対話が成長を助ける――上司と部下が話すとき互いに学び合う
上司や先輩の背中を見て、仕事を学べ――。このように言う人がいるが、実際どのようにして学べばいいのだろうか。よく分からない人に、3つの事例を紹介しよう。(12/11)

news094.gif 悩んだときの、自己啓発書の触れ方
「自己啓発書は説教臭いから嫌い」という人もいるだろう。でも読めば元気になる本もあるので、一方的に否定するのはもったいない。今回は、悩んだときの自己啓発書の読み方を紹介しよう。(12/5)

news094.gif 考えるべきは得意なものは何かではなく、お客さまが高く評価するものは何か
自社製品と競合製品を比べた場合、自社製品が選ばれるのは価格や機能が主ではない。いかに顧客の価値を向上させることができるかが重要なポイントになる。(11/21)

news094.gif なんて素敵にフェイスブック
夏から秋にかけて行った「誠 ビジネスショートショート大賞」。吉岡編集長賞を受賞した作品が、山口陽平(応募時ペンネーム:修治)さんの「なんて素敵にフェイスブック」です。平安時代、塀に文章を書くことで交流していた貴族。「塀(へい)に嘯(うそぶ)く」ところから、それを「フェイスブック」と呼んだとか。(11/16)

news094.gif 部下を叱る2つのポイント
叱るのは難しい。上司だって人間だ、言いづらいことを言うのには勇気がいるもの。役割だと割り切り、叱ってはみたものの、部下がむっとしたら自分も嫌な気分になる。そんな時に気をつけたいポイントが2つある。(11/14)

news094.gif 第6回 幸せの創造こそ、ビジネスの使命
会社は何のために存在するのでしょうか。私の考えはシンプルです。人間のすべての営みは、幸せになるためのものです――。2012年11月発売予定の斉藤徹氏の新著「BE ソーシャル!」から、「はじめに」および、第1章「そして世界は透明になった」を6回に分けてお送りする。(11/8)


サイトマップ | 利用規約 | プライバシーポリシー | 広告案内 | お問い合わせ