撤退の仕方:docomoに学んだお客様優先の経営方針
★続きものの続きです。いよいよ最後の方です。
■モバイルアクセスで相次ぐ撤退
携帯電話で社内のメールやスケジュールが扱える。シンプルなニーズがあります。ところがここに、セキュリティ認証から各種グループウェアや各種端末まで、様々な要件に合わせてサービスを提供しようとすると、際限のない開発の連続になります。際限のない開発を続けながら採算を取るというのは至難の業です。
2008年から2009年の2年間、大手を中心にこのサービスからの撤退が進んでいます。ノキアグループの「インテリシンク」、ドコモの「アクセスシンプル」、そしてシャープの「セキュアモバイルゲートウェイ」などでした。AndroidやiPhoneなどの地殻変動に近い変化も押し寄せています。今後も苦戦して撤退していくケースは多いでしょう。
ここで、立派だと思ったのがドコモの撤退の仕方でした。ドコモが提供していた「アクセスシンプル」というサービスは、弊社のいわゆる競合サービスの位置づけでした。2008年秋、ドコモの担当者さんから連絡をいただきます。「打ち合わせの場を持てないだろうか」と。ドコモが同サービスを提供停止する計画を発表したすぐ後でした。
■ドコモとしてのプライオリティはお客さま優先
サービスから撤退するときに、一方的に撤退日を発表して終了していく、あるいは正式な発表もせずに、次第に無くなっていく、このようなケースはざらだと思います。撤退というのは、ある意味不名誉な響きもあります。撤退する側のモチベーションが保ちづらいということもあるでしょう。
ドコモがとった方針は、「撤退によりお客様にご迷惑をかける。だから、お客様にはドコモが最良と思うサービスを責任持って紹介し、そこにサービス終了日前までに引き継いでもらう。」というものでした。サービス撤退に巻き込まれて従来の携帯電話が解約されてしまうというのがワーストストーリーです。そのために、従来の競合サービスを提供していた我々にも声がかかったのです。
ひと言に「サービスを引き継ぐ」とは言っても、元のサービスにあった機能が、引き継ぎ先のサービスに無かったりすれば、それはお客様の不満材料になります。さらに、価格などが上がってしまったら、それこそこれも、お客様の不満材料になります。引き継ぎ先の我々とすれば、欠けていた機能を実装する必要や価格を調整する必要が出てきます。
必要な変更の割には、お客様の数やそれぞれの利用人数もそれほど大きくはなさそうです。ドコモからは、我々以外の競合各社にも平等に声をかけているようです。単純なビジネスとしての採算性を考えたら、さりげなくお断りすることもできたシチュエーションででした。
■ドコモの方針に共感し対応する
狭い業界です。あちらで助たことがこちらで助けられたり、逆もしかり。困ったときにはお互いさまという気持ちが先立ちました。ビジネスを短期的な採算性だけで見るよりも、ここはしっかりとお客様を引き継いで、業界の中での安定した立ち位置を取っていく決断をします。ドコモのお客様優先の方針に共感したからです。
機能改善を突貫で実施し、価格体系もドコモのサービスからスムーズに移行できる、お客様視点のものを創りました。採算性が悪いだけではなく、新しい体系を打ち出すことによる、経理処理などの複雑化が発生することも覚悟の上です。
結果的には、ドコモが重要視していたお客様の多くを、無事に引き継ぐことができました。ドコモの担当者さんたちからは「御社からのご協力が得られなかったらどうなっていたかと思うとぞっとします。」と、お礼を伝えていただく訪問を受けます。ご丁寧に、感激です。
実のところお礼を言いたいのはこちら側でした。そのおかげで重要なお客様たちを引き継ぎして、さらには従来にはなかった機能も実装できるようなことになりました。不都合なときにはとかく、現場の顔や頑張りでお客様をつなぎとめようとしますが、サービス撤退ということにも関わらず、経営方針としてお客様の心をつなぎとめることを打ち出したことに学ぶことも多かったです。
日々間違いだらけの経営をしていますが、この件は「実行してよかった」と思えたもののひとつです。ご紹介させていただきました。
以下次号・・・ 『売ってもらうマーケティング:教育講座の建てつけ』
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※20100401 07:05 以下次号のリンク追加しました。