オルタナティブ・ブログ > 坂本史郎の【朝メール】より >

ビジネスモバイルITベンチャー実録【朝メール】から抜粋します

『現預金デスバレー』25日から月末までの二度としたくない恐怖体験

»

★2000年創業10年を振り返っているこのシリーズ、2005年に体験した資金繰りの恐怖体験と、それを切り抜けた頃のことです。この時期が自社のゼロ点になっていると思います。

■「グリ表」ってご存知ですか?「繰り表」って書きます
自分も聞いたことはありませんでした。でもそれが必要で作りました。

原理は簡単です。銀行の口座の預金残高と現金をすべて合計します。そして、エクセルで作ったカレンダー日付の、いつにどれだけの入金があって、いつにどれだけの支払があって、ということを、丁寧に加えていくだけです。支払条件や入金条件は様々です。それらを、まさに手作業で請求書や給与支払いの計画を比較しながらせっせと入れていくのです。

現金とは恐ろしいものです。無くなると支払ができなくなります。当たり前ですよね。そして、企業で支払いができなければビジネス界でのゲームオーバーです。入出金の順番が少し狂うだけでゲームオーバーがいとも簡単にやってくるのです。25日の給料日の恨めしいこと。25日に大きく出金があって、殆どのお客様からの入金は月末最終日です。25日から月末までのこの期間は、いわゆる『恐怖の現預金デスバレー』です。これを正視するためのツールが「繰り表」です。

■製品がよくなり始めたときに資金繰り地獄がやってくる皮肉
2005年10月、11月と、その『恐怖の現預金デスバレー』期間を緻密に「繰り表」で計算しながらおびえる日々がやってきます。サラ金から『無担保融資500万円』などどいう葉書がくると思わず見てしまいます。「絶対にこれに手を出してはいけない」と言い聞かせながらです。

製品を良くする、お客様に評価してもらう。ここまではいいのですが、この先の、受注する、請求する、そして入金される。これらのプロセス全てが完了して初めて企業の血液が回ります。製品がよくなり始めたときに資金繰り地獄がやってくるというのは何たる皮肉なのかと「繰り表」を恨めしくにらみます。

手形での支払いや、支払タームが長いのは良くない。MBAではこれをNet Working Capitalが大きくなるとか、利息で計算すると値引きと同等だとか、そういうテクニカルなこととして学びました。そんなことではありません。『恐怖の現預金デスバレー』で、地に落ちないために重要なのです。「こういうことだったのか」と、実感として納得させられます。

売上高欲しさに支払条件の悪い契約を結んでしまうと、現金の入金いが極端に遅くなります。まさに"Cash is King”です。現金の支払い時期を意識するのがビジネスの基本。つくづく、小さな会社での木の葉のような不安定さから学びました。

■捨てる神あれば拾う神あり
いくら悶々と「繰り表」をにらんでいても仕方ありません。動かなければなんともなりません。そこで、まず試してみたのが、なんと禁酒です(笑)。何か違うことをしないといけないと、それこそわらをもつかむ思いです。そして次にしたのが、代理店候補のところへの先買いのお願いです。製品を先に買ってもらう、それを条件に仕切りを少し下げるというものです。

実際に試してみると、仕切りが下がるから先買いをしてくれるというところは殆どありません。いろいろ当たった中、事業内容と人とを見て、「何とか助けてあげよう」と思ってくれた社長さんがでてきました。急きょ社内手続きと代理店契約をして、実際に500万円先買いしてくれたのです。なんともありがたいお話です。10月のデスバレーはそこに救われました。

すぐに次の月の『恐怖の現預金デスバレー』への対応策を考えなければなりません。まさに自転車操業です。多数のお客様が評価を進めてくれていましたが、シチズン時計との取引が成立目前でした。あまりの苦しさに、田無に行ってお願いします。「今月中にご発注いただけたら20%お値引きします」と。担当者さんたちも気の毒そうに聞いてくれていたのですが、そのことが、かえってひと悶着起こします。

「そんな会社は信用ならない」「危ないところとはお付き合いしない方がいいのでは」と、システム部の上司たちから反対が出てきたというのです。先方の立場になれば当たり前のことですよね。

結果的には、翌月になりましたが、順当に計画通り発注してくれ、すぐに請求書を出させてもらいます。すると、なんとその1週間後には入金をしてくれていました。なんとも信じられないような、涙が出るようなことでした。どうやら担当者さんたちが支払いを急ぐようにこっそりと手配してくれていたのです。まさに、捨てる神あれば拾う神あるです。11月のデスバレーはそれでクリア。シチズンさんからの発注書をホワイトボードに貼って会議室で皆で祝って飲んだお酒のなんと美味しかったことか!

資金的にどん底をついた会社はそこがゼロ点だったようです。その後、事業は急伸していきます。

以下次号・・・「『楽観的でマゾ』創業経営者の大切な資質かも知れません

■関連記事

創立10周年を迎えることができました(1)
■東レのベンチャー支援制度を利用した立ち上げ
■当初のビジネスモデル
■当初のビジネスモデルの失敗
■受託時代

創立10周年を迎えることができました(2)
■やはり自社製品にもう一度チャレンジしよう、B2Bで
■「自社製品開発はラストチャンス」の思いで「カチャットサーバー」が誕生
■最初のお客様たち
■3ヶ所で同時に火を噴く

創立10周年を迎えることができました(3)
■相次ぐ品質トラブル
■製品を集中して陣容を縮小して続ける
■スパゲティプログラム

創立10周年を迎えることができました(4)
■開発体制のリストラ
■お客様要望をどの順番でかなえていくのがいいか
■二人三脚での爆発的改善
■天才とはモチベーション高く努力が継続できる人

伊藤忠関連のベンチャーだったらこの会社はすでに畳んでいます
■冷静な第三者意見を聞く

※誤字修正 20100311 17:00

※20100316: 次記事へのリンク張りました。

Comment(0)