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ビジネスモバイルITベンチャー実録【朝メール】から抜粋します

「コンフィギュレーター」に見るポルシェ・ビジネスの凄さ

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ポルシェを新車で買おうとするとどういう手続きがいるのでしょう。基本的にはコンフィギュレーターというサイトで設定して注文するようになっています。そこでは自分の欲しいモデルやオプションなどをかなり細かく設定できます。そのコンフィグレーターというサイトが、価格構成を含め実に良くできています。IT会社の自分たちとしてはとても参考になると思うのでシェアします。

https://engage.cachatto.jp/e/983691/japan-jp-modelstart-/4sz8q/924459130?h=P2PuuoBXALACRDvYyIVmnf8q5_awTv5tMXMmgl8ZtmM

コンフィギュレーターではまず、車両タイプとそのグレードを選びます。車両タイプには、「911」「ケイマン」「ボクスター」「カイエン」「マカン」「パナメーラ」など、2ドアやら4ドアやらSUVなどが選べるようになっています。そして、グレードには「ベースモデル」「S」「GTS」「Turbo」「TruboS」などという形で性能によってランク付けがされています。ここにおける「Turbo」は、実際のターボ装置の有無とは関係なく、性能を示す名前として使われています。

さて、そこからです。次にオプションを選ぶように促されます。車の色、タイヤホイールのタイプ、サスペンションやリアステアリングの種類、ブレーキの種類、ライトの種類、内装の色の組み合わせ、ステッチやシートベルトの色、ロゴの有無やその色...、などなど。無限とも思える組み合わせが選択できます。サイトがよくできているのは、オプションの取捨選択で矛盾なく「お値段」が加減算されていくのです。

これ、ある意味の大塚家具商法ですよね。大きなショールームで営業担当が高い家具をひたすら見せて回る。するとお客様は次第に値段への感性が麻痺してきて、数十万円の家具を安いと買ってしまうのです。オプションもいいお値段がついています。どんどん高くなっていきます。これだけは欲しい。いや高すぎる。こんな心の葛藤で組み合わせていくのです。さらにコンフィギュレーターというサイトなので、一緒に見せて回る営業の人件費もかかりません。

オプションの組み合わせができると、あるコードが生成されます。自分でコンフィギュアした内容が記録されたコードです。そのコードを希望の販売代理店にサイトから送るようになっているのです。すると営業担当から連絡がやってきます。当然のことながら、サイトだけではオプションの細かいところまではわかりません。そこでディーラーに出向くことになります。

ディーラーではこれだけのカスタマイズ、注文したけど事情が変わってキャンセルしたいときにはどうなるのか。聞いてみました。ここが良くできていると思いました。ルールとして、オプション代、あるいは車両の1割の大きい方の先払いが注文条件なのです。つまり、オプションを調子よく追加してしまうと手付金が高くつくわけですね。キャンセル時には手付金が返ってこない。注文する側にはなるべくオプションを付けさせないように促す効果もあります。

そして、コンフィギュレーターのさらなる凄さを感じたのはここです。

例えば、グレードを「S」モデルでいい、と思っていたのを「Turbo」に変更すると、一部オプションが標準装備になったり、安くなったりするのです。つまりグレードを上げるとベースの車両価格は上がるのですがオプションが安くなります。買おうとする側の心理としては、手付金が安くなるのはとてもありがたく感じます。何せキャンセル時のリスクも下がるわけですから。さらに、ベース車両を少し良くしておけば、再販価格も高くなります。ポルシェは価格の落ち込みが比較的少ないブランドです。結果的には、より「お高い」グレードのものを選びたいと心が動くのです。

こうなってくると、ディーラーの担当者の仕事は、車の基本知識とオプションの詳細を伝えられればいいことになります。お客さんに多くを売りつけるような努力や能力は不要です。お客さんが喜ぶように、ショールームでもコンフィギュレーターを前に、オプションを一緒に選んであげればいいのです。さらにサイトが示している価格は、そのまま値引きも無しで注文書に転記されます。価格交渉すらありません。

受注生産しかしない。在庫を持たない。さらに、お金の一部を先にもらって、それから生産するのです。車種によっては1年待ちなんていうのもざらです。これ概念的に、まさにリーンプロダクションですよね。さらに、待ちきれない人には、認定中古車で乗り継いでもらうなんていう手段まで設けられています。実際に、コロナ禍の時期にはキャンセルが多く出て、認定中古車にキャンセル車両が多く流れたとか。

ポルシェはその性能だけでなく、ブランドの構築や、売り方までがしっかりと設計されているのだと感心しました。ビジネス全体として実によく練られているのです。自分たちのビジネスもこれくらい深く考えて練っているか。もっと頭に汗をかいてサービス全体を高める余地がまだまだありますね。大いに反省させられたのです。

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