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リサーチのプロとして長いこと歩んできた今泉大輔です。ChatGPT出現以降、Facebookで「ChatGPTとMidjourneyのビジネス活用を探って行く勉強会」を立ち上げ、「ビジネスパーソンにとってのAI」の観点で米国情報を収集して来ました。知的アウトプットの質と量を向上させるプロンプトの開発にも取り組んでいます。

【AIデータセンター】史上最大級5,000億ドルのインフラ案件「Stargate」はプロジェクトファイナンスで十分に資金調達可能

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ソフトバンクとOpenAIがタッグを組んで始める「Stargate」は、史上最大級の
インフラプロジェクトという性格を持っており、米国の複数の地域に巨大なAIデータセンターをいくつも建設するプロジェクトです。

2025年1月22日付のソフトバンク公式発表から引用します。

Stargate Projectは、OpenAIのために新たなAIインフラストラクチャを米国内で構築するため、今後4年間で5,000億ドルを投資することを計画している新会社です。このうち、1,000億ドルの投資を直ちに開始していく予定です。このインフラストラクチャは、米国のAI分野でのリーダーシップを確立し、数十万もの米国の雇用を創出するとともに、全世界に経済的利益をもたらします。このプロジェクトは、米国の産業の再活性化をサポートするだけでなく、米国とその同盟国の国家安全保障を強化するための重要な基盤を提供します。

Stargateではまず1,000億ドル=15兆円が投資され、続いて4,000億ドル=60兆円の資金が投入されるとのことです。後述するようにこの巨額の資金はインフラプロジェクトに固有の資金調達プロジェクトファイナンスによって賄われる見込みです。
あまりに巨額過ぎて規模感がつかめないので、比較対象として世界最大級のインフラプロジェクトを探してみました。

サウジアラビアで現在建設中の世界最大級のスマートシティ「NEOM」がStargateプロジェクトの良い比較対象になります。

これは900万人が生活する新都市をゼロから砂漠に建設する壮大なプロジェクトです。この日本語公式サイトにプロジェクトの全体図を説明した美しい動画があります

グリーンエネルギーを利用したカーボンニュートラルなスマートシティだそうです。これの投資額が5,000億ドル。Stargateと同額です


スマートシティでははるか昔の2010年に弊ブログで当時世界最大の民間不動産プロジェクトと言われていた韓国のスマートシティ「松島新都市(New Songdo City)について紹介したことがありました。これが10万人規模の新都市。投資額350億ドルです。サウジアラビアで建設中のNEOMは5,000億ドル。900万人規模の新都市。

これで規模感が把握できるようになりました。孫正義氏とサム・アルトマンが二人で仲良くトランプ大統領の前に出て発表した米国史上最大級のインフラプロジェクトStargateは、サウジアラビアの900万人規模のスマートシティNEOMと同じスケールを持ったきわめて巨大なインフラプロジェクトです。

この巨大なインフラプロジェクトに少し前にイーロン・マスクがXでいちゃもんを付けました。孫正義氏はそんなにお金を持っていないと。

日経新聞:マスク氏、SBGの巨額AI投資に疑念 トランプ氏とずれ


しかしこの時イーロン・マスクは、Stargateプロジェクトが世界最大級のスマートシティを作るのと同規模の「インフラプロジェクト」であり、資金調達はインフラプロジェクト一般のプロジェクトファイナンスで行うということがわかっていなかったのです。

Japan Timesのこの記事がStargateのプロジェクトファイナンスについて触れています。

SoftBank eyes debt-heavy financing for $500 billion AI push


プロジェクトファイナンスとは、簡単に言うと、プロジェクト推進主体がコンソーシアムを組み、そこがプロジェクト全体の2割をキャッシュ(エクイティ)で出します。残りの8割は、世界の最大手銀行(プロジェクトファイナンスに取り組む銀行)が複数行組んで長期の融資として出します。2010年から2012年にかけてこの関連を研究していたので、私にとっては懐かしい言葉です。日本のメガバンク3行も取り組んでいました。

弊ブログ:グローバルなプロジェクトファイナンス界では日本のメガ3行の存在感が高まっている(2011/4/30)

インフラプロジェクトは通行料や使用料などの現金収入を伴うものが対象で、その現金収入の中からインフラプロジェクト推進コンソーシアムが融資した銀行団に返済をして行きます。通例30年以上、長ければ50年かけて返済するという長期融資です。

孫正義氏はサウジアラビアのトップとやりとりがありますから(ビジョンファンド)、この種の巨額なファイナンススキームを熟知しているものと思われます。Stargateの巨大なAIデータセンターは、完工するそばからテナントがつくはずです。AI最新モデルの推論をブンブン回して活用したいという人は世界中にたくさんいます。そのためすぐにデータセンター使用料収入が発生します。これが8割の融資部分4,000億ドルの返済原資になるのです。

NVIDIAのGPU新製品Blackwellをふんだんに使うことのできる世界最先端のAIデータセンターを使うためには使用料が多少高くても構わないという法人ユーザーは多数いるでしょう。

Bloomberg:「スターゲート」最初の拠点、エヌビディアの半導体数万個設置へ

2割の1,000億ドルを孫正義氏らが出せば(おそらくサウジアラビア筋も)、残りの8割はプロジェクトファイナンスの慣行に倣って銀行団が融資する。もちろん審査はあるでしょうが、世界最先端のAIデータセンターという現金収入がかっちりと見込めるプロジェクトなので返済能力は堅いです。おそらくスムーズに融資審査は通るでしょう。

インフラプロジェクトのタイプとしては、安定的に電力収入が見込める発電所建設に近いインフラ案件です。15年前の知識が役立ちました(笑)

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