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リサーチのプロとして長いこと歩んできた今泉大輔です。ChatGPT出現以降、Facebookで「ChatGPTとMidjourneyのビジネス活用を探って行く勉強会」を立ち上げ、「ビジネスパーソンにとってのAI」の観点で米国情報を収集して来ました。知的アウトプットの質と量を向上させるプロンプトの開発にも取り組んでいます。

なぜ、MicrosoftはDeepSeek-R1をAzure経由で顧客に提供するのか?

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DeepSeek-R1については賛否両論あり、先日も、セキュリティ製品に注力している最大手シスコなどによるセキュリティテストにおいて、DeepSeekのハッキングが容易であることが明らかになりました。これは最悪の場合、テロリストなどの犯罪者集団の手に渡って相応の改造を経ると彼らに悪き高度なツールを与えることになり、本当に由々しき事態です。欧州諸国の中にはDeepSeekの使用禁止をうたう国が出始めていますし、日本政府でも同様の動きがあるのはご存知の通り。

アスキー:DeepSeekは"脱獄"による悪用が簡単 話題のLLMにセキュリティ企業が注意喚起 (2025/2/4)

これだけのセキュリティ懸念が言われている中で、Microsoft (マイクロソフト)は早々とDeepSeek-R1をAzure上で展開し、顧客に提供することを決めました。サティア・ナデラCEO直直の決断だったようです。1月20日から開催されていたダボス会議でナデラCEOがDeepSeekを高く評価するコメントを言っていたインタビューを、その頃YouTubeの動画でチラと見ました。

ロイター:マイクロソフト、クラウド基盤でディープシークのAIモデルを展開(2025/1/30)

そればかりか、NVIDIAもAmazonもDeepSeek-R1を大々的に展開することが明らかとなりました。

時事通信:NVIDIA、マイクロソフト、アマゾンが中国「DeepSeek」を導入(2025/2/4)

これはなぜなのでしょうか?

リサーチで食べていた頃は、興味があればそれに関して報道している米国のニュースメディアやIT メディアを検索しまくってそれぞれの記事を読み、比較検討咀嚼して、「ああそういうことだったのか」と納得しましたが、現在ではAIがフルに使えます。

MicrosoftがAzureでDeepSeek-R1を提供する理由

まず、MicrosoftがDeepSeek-R1をAzureで展開した理由をPerplexityに英語で聞きました。(リンク先はPerplexityの英語による回答。根拠ページへのリンクが含まれています)

英語で聞くのは、日本語で質問した場合、日本語の情報源ばかりを探して、深い情報が得られないとかフレッシュな情報が得られない場合が多々あるからです。Perplexityでは根拠となるWebページへのリンクが示されるので、深掘りしたい場合には便利です。以下はその回答を和訳したもの。和訳にはChatGPTが有用です。

高度なAI機能:
DeepSeek-R1は、高性能なAIモデルであり、特に数学、コーディング、分析的推論において優れた推論能力を持つことで知られています。このモデルを統合することで、MicrosoftはAzureのAI機能を最先端技術で強化しています。

コスト効率:
DeepSeek-R1は、主要なAIモデルと比較して、はるかに低コストでトレーニングできるのが特徴であり、開発者や企業にとって経済的な選択肢となります。

迅速な統合と実験:
Azure AI FoundryにDeepSeek-R1を統合することで、開発者は迅速に実験、反復、AIのワークフローへの組み込みを行うことができます。この迅速な展開と統合のスピードは、Microsoftの顧客にとって重要な利点です。

エンタープライズ対応のソリューション:
DeepSeek-R1は、Azure AI Foundryの一部として提供されており、信頼性が高く、スケーラブルで、エンタープライズ向けのプラットフォーム上で動作します。SLA(サービスレベル契約)、セキュリティ、責任あるAIの基準を満たしているため、高度なAIソリューションを導入したい企業にとって魅力的な選択肢となります。

競争優位性:
MicrosoftはDeepSeek-R1を迅速に統合することで、AI技術の最前線に立ち続ける姿勢を示し、多様で強力なAIモデルを顧客に提供しています。

拡張されたAIポートフォリオ:
DeepSeek-R1は、MicrosoftのAIカタログにある1,800以上のモデルに加わり、提供する選択肢をさらに多様化し、開発者や企業に幅広いAIソリューションを提供します。

MicrosoftはDeepSeek-R1のセキュリティ懸念にどう対処するのか?

では、数々のセキュリティ懸念が指摘されているDeepSeek-R1をAzure経由で顧客に提供する際に、セキュリティ対策はどのように行うのか?これも質問の性格上、Perplexityに聞くのが一番早いので、やはり英語で尋ねて見ました。次の答えが返ってきました。(ChatGPTによる和訳)

MicrosoftがAzureプラットフォーム上でDeepSeek-R1を展開するアプローチは、高度なAI機能を活用しつつ、セキュリティ上の懸念に対処するという戦略的なバランスを示しています。DeepSeek-R1には報告されているセキュリティ問題があるものの、Microsoftはこれらのリスクを軽減するための措置を講じていると考えられます。

  • エンタープライズ対応のソリューション:
    DeepSeek-R1をAzure AI Foundryに統合することで、Microsoftは信頼性が高く、スケーラブルで、エンタープライズ向けのプラットフォーム上でこのモデルを提供しています。これにより、SLA(サービスレベル契約)、セキュリティ、責任あるAIの基準を満たすことができます。

  • 安全なデプロイメントの設計:
    MicrosoftはDeepSeek-R1をAzure AI Foundryに組み込むことで、安全なデプロイメントのための設計指針を提供しており、追加のセキュリティ対策が実装されていることを示唆しています。

  • サードパーティの安全策:
    セキュリティ研究者が強調するように、MicrosoftはAIアプリケーション全体で一貫性のある信頼性の高い安全対策を提供するため、サードパーティの安全策を活用している可能性があります。

  • 管理された環境:
    DeepSeek-R1をAzureを通じて提供することで、Microsoftはモデルの利用環境を制御でき、スタンドアロンでのデプロイメントで報告されたセキュリティ脆弱性への露出を制限できる可能性があります。

  • 継続的な監視:
    Microsoftは、AIモデルの悪用を防ぐために、継続的な監視を含む強固なセーフガードを実装していると考えられます。

  • オープンソースの利点を活用:
    セキュリティリスクを認識しながらも、MicrosoftのアプローチはオープンソースAIモデルの利点を活かし、イノベーションを推進しつつ、デプロイメント環境を管理するものとなっています。

DeepSeek-R1をAzureプラットフォームに統合することで、Microsoftはこのモデルのセキュリティと制御のレイヤーを確立し、多くの報告された脆弱性を軽減する可能性があります。このアプローチにより、MicrosoftはDeepSeek-R1の高度な機能を顧客に提供しながら、研究報告で指摘されたセキュリティ上の懸念にも対応しています。

DeepSeek-R1の普及は誰にも止められない

DeepSeek-R1の動きについては、X (Twitter)で長らくAI関連のキーパーソンの発言をウォッチしてきたため、「おすすめ」に早い時期からものすごく深い洞察を含んだ発言が毎晩のように流れ込んでくるので、注意深く見ていました。めぼしい発言については、都度、私が管理人を務めているChatGPTとMidjourneyのビジネス活用を探っていく勉強会に和訳付きで上げて、フォローしている皆さんの注意を喚起してきました。

結局、オープンソースであり、改変が自由にでき、安価でChatGPTの最新モデル並みの性能が得られることから、これが世界のあちこちに拡散していくのは誰にも止められないということです。これには中国の開発者の深い意図があるようで、関連の文脈がわかる上記勉強会への投稿をそのままコピペします。

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同じX投稿者d氏による、中国のDeepSeekがなぜオープンソースでAIの「グローバル拡散」を図るのか?考察というより多数の論点の列挙。非常に興味深い論点がいくつも並べられています。
---単極でも多極でも、AI開発はすでに不可逆的なグローバル拡散の段階に入っており、米国がAIを独占することはなく、中国を封じ込めることもできない---
同じ理由で全文コピペします。
引用
DeepSeekがAIをオープンにするのは「誇りと喜び」のためですが、そこには中国共産党の影が潜んでいます。
・企業がAIモデルをオープンソース化するメリットを明確に示すのは難しい
・バイドゥの創業者はコストの観点から常にクローズドソースモデルを選ぶべきだと考えている
・アリババはオープンソースのQwenを維持しているが、実際はAPIやクラウドサービス、コンピューティングインフラを顧客にアップセルすることで収益を得ている
・一方、DeepSeekには近い将来の収益戦略がない
・2023年のインタビューで、CEOのリャン・ウェンフォン(梁文锋)は「果てしない研究(limitless research)」というDeepSeekの夢には商業的な合理性がないことを非常に明確に述べている
・これらの理念的な発言は、表面通りに受け取ってよい。というのも、DeepSeekがとっている動きは、中国政府の後ろ盾を受けた伝統的な産業方針とは真逆に近いから
・むしろ、若い自国育ちの人材が中心となっており、金儲け以外の動機に突き動かされていると見るのが妥当
・リャン「それが狂気かどうかは分かりませんが、この世には説明のつかない現象がたくさんあります。たとえば、多くのプログラマーはオープンソースコミュニティに心から情熱を注ぎます。疲れ切った1日の終わりでも、コードを提供し続けるのです。」
・多くの中国のエンジニアは、自分のOSSが海外企業、特にシリコンバレーの企業に使われるととても感激する。すべては自分のプロダクトが認められ、評価されるため
・この「熱意」や「使命感」の奥には、「中国ではすべてが盗品や不正行為で生まれたものだと思われているから、西側からは誰にも評価されない」という鋭い意識が潜んでいる
・彼ら自身は「自分たちの手で開発し、自分たちの技術を世界に無償で使ってもらい、我々の技術が十分優れていることを証明したい」という思いも抱えている。そこにはある種のナショナリズムとエンジニアとしての誇りが混在している
・では、中国政府はDeepSeekのOSSの盛り上がりを容認するのでしょうか?残念ながら、AI技術における潜在的なリスクがあるため、どれほど前向きなレトリックがあったとしても、政府がオープンソースから距離を置く可能性がある
・近い将来、まだシステムが十分に防御できていない段階では、誰かがモデルをダウンロードしたりクラウドサーバーを立ち上げて、誰かの人生や重要インフラに実害をもたらす可能性がある。これは単に天安門事件の情報を出力することだけの問題ではなく、非常に強力な技術を個人が手にすることで社会に深刻なダメージを与えうる「権限の民主化」が進むことを意味している
・中国では一般市民が銃を購入することはできません。AIが"兵器"レベルに到達して1人で都市の電力を止められる可能性が出てきたら、中国共産党がそれを無制限に広めることを許すでしょうか?西側諸国も含め、そうした状況を容認する政府があるとは思えない
・現時点では、中国の生成AI規制はオープンソース提供者に対する明確な指針を欠いている
・政府が管理の必要性とイノベーションの推進をどう両立させるか試行錯誤している状況で、近視眼的な利益よりも好奇心と情熱を原動力とするDeepSeekは、脆弱な立場に置かれている可能性がある
・単極でも多極でも、AI開発はすでに不可逆的なグローバル拡散の段階に入っており、米国がAIを独占することはなく、中国を封じ込めることもできない
・DeepSeekは終着点ではなく、シグナル。その重要性は「誰かを打ち負かす」ことにあるのではなく、世界が大規模AI競争の不可逆的な時代に入ったことを示した点にある
・DeepSeekを考えるとき、以下の2つのことが同時に成り立つ
・1. DeepSeekがモデルをオープンソース化した理由は、世界中の開発者がオープンソースを選ぶのと同じく、オープンでグローバルな研究コミュニティの価値を本気で信じているからであり、自らの成果を披露して他者が発展させられるようにするため
・2. 同時に、AIモデルがさらに強力になるほど、政府は介入して主導権を握ろうとするインセンティブを持つ
・これはDeepSeekがメジャーなAIプレイヤーと肩を並べてイノベーションの最先端を推し進める可能性を生み出すが、同時に、OpenAIが分裂して主要研究者が四散したような力学が働くリスクも抱えている

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