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Neocloudの台頭、GPU需要爆発が生む"ポスト・ハイパースケール"

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米調査会社Synergy Research Groupは2025年10月13日、AI時代の新たなクラウド勢力「ネオクラウド(Neocloud)」市場が、年率200%超という驚異的な成長を遂げていると発表しました。

Neoclouds Currently Growing by Over 200% per Year; Will Reach $180 Billion in Revenues by 2030

2025年第2四半期には世界収益が50億ドルを突破し、通年では230億ドルを超える見込みです。さらに同社は、2030年には市場規模が1,800億ドルに達し、年平均成長率は69%に及ぶと予測しています。

ネオクラウドとは、GPUを中核とする高性能AIインフラを提供する新興クラウド群であり、従来のハイパースケール型クラウドに対抗する存在として注目を集めています。生成AIの爆発的な普及、GPU需要の逼迫、データセンターの再編といった潮流の中で、Neocloudはどのような競争優位を築いているのでしょうか。

今回は、急成長の背景、主なプレーヤー、そして今後の展望について整理します。

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出典:Synergy Research Group 2025.10

Neocloudとは何か――AI時代の新しいクラウドモデル

Neocloudは、AIワークロードに特化した次世代型クラウドインフラを指します。従来のクラウドがストレージやコンピューティングを幅広く提供していたのに対し、NeocloudはGPUリソースを中心に「GPU as a Service(GPUaaS)」や「生成AIプラットフォームサービス」を展開する点に特徴があります。

市場を牽引しているのは、CoreWeave、Crusoe、Lambda、Nebius、OpenAIの5社です。特にOpenAIは、生成AIチャットボットをSaaS型で提供し、Stargateプロジェクトによる超大規模データセンター構想を進めるなど、AIサービス層とインフラ層をまたぐ独自の位置を築いています。

これらの企業の多くはスタートアップとして誕生しましたが、暗号資産マイニングから高性能コンピューティング(HPC)事業へと転換した企業も多く含まれています。AI時代の計算需要という「爆発的な風」に乗り、短期間で存在感を高めています。

市場を押し上げる「AI需要」と「GPU供給制約」

Synergyによると、Neocloudの収益は前年同期比205%増と、従来のクラウド市場の成長率をはるかに上回っています。その背景には、生成AIモデルの学習・推論に必要なGPU計算能力の急増があります。

NVIDIAを中心とするGPU供給が限られる中、大手ハイパースケーラー(Amazon、Microsoft、Google)はAIリソースを社内利用や主要顧客に優先配分せざるを得ません。その結果、スタートアップや中堅企業の多くが、より柔軟で専用性の高いNeocloudへ流れています。

Jeremy Duke氏(Synergy Research Group創設者)は、「GPUaaSとGenAIプラットフォームサービスは現在165%の年成長率を示しており、Neocloudはこの高成長分野で確実にシェアを拡大している」と指摘します。AI開発が進む限り、この需要は持続的に拡大すると見られています。

Neocloudを支える新興勢力――"GPUスタートアップ群"の台頭

市場の中心には、CoreWeaveやLambdaといったGPUクラウド専業の新興企業が存在します。CoreWeaveは、HPC向けGPUレンタルとAIモデル運用支援を両輪とする戦略を展開し、既に複数の大手AIベンダーと提携を進めています。CrusoeやNebiusも、再生可能エネルギーと連動したデータセンター構築を推進しており、エネルギーコストと環境負荷を同時に抑える新しいクラウド設計を実現しつつあります。

さらに、Altair、Core42、Hive Digital、Together AIなど、多数の小規模プレイヤーが登場しています。これらの企業は、特定用途(推論最適化、分散学習、高密度冷却など)に特化したサービスで差別化を図り、クラウド市場の多様化を促しています。

競合するハイパースケーラーとの関係――共存か、競争か

ハイパースケールクラウドの巨人たちも、すでにAI向けGPUサービスを提供しています。Amazon Web Servicesは「Trainium」、Googleは「TPU」、Microsoftは「Azure ND」シリーズを通じてAI処理を強化しています。

しかし、Neocloudが訴求するのは「専用性」と「スピード」です。大規模な企業IT基盤を前提とするハイパースケーラーとは異なり、Neocloudは特定AIモデルや研究開発タスクへの最適化を重視します。GPUの在庫確保からモデル運用までを一気通貫で支援する構造は、俊敏性を求めるAIスタートアップにとって魅力的です。

一方で、将来的にはハイパースケーラーとNeocloudの間でパートナーシップが拡大する可能性もあります。AIインフラの需給が逼迫する中で、両者が補完的にリソースを提供する「ハイブリッド型エコシステム」への進化も予想されています。

今後の展望――「Neocloud × AI × データセンター」が描く次の競争地図

Synergyの予測によると、Neocloud市場は今後5年間で約8倍に拡大し、2030年には1,800億ドル規模に到達すると見込んでいます。平均成長率は年69%に達し、クラウド市場全体の中でも突出した存在となる見通しです。

この成長を支えるのは、AIワークロードの多様化と、電力効率・冷却効率を重視した次世代データセンターの拡張です。各社が進める「ギガワット級キャンパス」や「液浸冷却データセンター」などの開発が進めば、AI時代のインフラ競争は質的転換を迎えるでしょう。

今後、Neocloud企業はGPU調達力だけでなく、電力供給網・地域インフラ・AIソフトウェアスタックの統合能力を問われる段階に入ります。生成AIの"裏側"を支える新しいクラウド・エコシステムの主役として、Neocloudがどこまで成長を遂げるのかが注目されるところです。

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