AIが変えるメインフレームの価値
キンドリルは2025年9月17日、「メインフレームモダナイゼーション状況調査レポート」を公表しました。本調査は500人のビジネスおよびITリーダーを対象に行われ、デジタル環境の変化に直面する企業がメインフレームの役割を再定義している実態を明らかにしました。
調査結果によると、メインフレームのモダナイゼーションプロジェクトは投資利益率(ROI)が288~362%に達し、従来の「高コスト」や「硬直的」といった印象を覆しつつあります。さらに、生成AIの活用がメインフレームの価値を押し上げ、今後数年間で数十億ドル規模のコスト削減と収益増加が見込まれるとの試算も示されました。規制対応や人材不足といった課題を抱えながらも、企業は柔軟な戦略で新技術と融合を進めています。
今回は、このレポートが示したROIの実態、AIの推進力としての役割、人材・規制の課題、そして今後の展望について取り上げたいと思います。
ROIが示すモダナイゼーションの価値
メインフレームのモダナイゼーションは、従来は高額な費用と長期プロジェクトが伴うと捉えられてきました。しかし、キンドリルの調査によると状況は大きく変化しています。回答企業の多くが、クラウド統合やワークロード移行といった取り組みを通じて、288~362%という高いROIを実現しているといいます。これは2倍から3倍の投資収益率に相当し、メインフレームが依然として重要な技術基盤であることを裏付けています。
背景には、ハイブリッドIT環境の広がりがあります。オンプレミスとクラウドを組み合わせることで柔軟性と効率を両立させ、AIを組み込むことで新たな収益機会を創出できるようになっています。80%の企業が市場や規制の変化に対応するために戦略を見直している事実も、メインフレームが「過去の遺産」ではなく「進化する資産」として再認識されていることを示しています。投資対効果の改善は、企業にとって単なるコスト削減ではなく、事業全体の成長ドライバーとなり得ることを意味しています。
AIが推進するメインフレームの再評価
今回の調査で特に注目すべきは、AIの位置付けが大きく変わった点です。かつては将来の検討対象に過ぎなかったAIが、今や企業のビジネス推進力の中心に据えられています。回答企業の約90%が生成AIを導入済み、または導入を計画しており、今後3年間で130億ドルのコスト削減と200億ドルの収益増加を見込むと回答しています。
AIの導入は業務自動化にとどまらず、人材不足の解消にも寄与するといいます。スキルギャップが広がる中、AIは業務効率化だけでなく、社員の能力を補完し、付加価値の高い仕事へのシフトを促しています。特にハイブリッド環境におけるAI活用が加速し、56%の企業が「AIが新たな価値をもたらした」と回答していることは、メインフレームがAI時代の中核基盤として再評価されている証しといえるでしょう。
キンドリルのハッサン・ザマト氏も「メインフレームはAI活用の中心であり、収益創出とイノベーションを両立する」と強調しています。生成AIの進展により、メインフレームは従来のトランザクション処理だけでなく、新しいビジネス機会を切り開く役割を担い始めています。
課題として残る人材と規制対応
一方で、調査は企業が直面する課題も浮き彫りにしました。最も深刻なのは人材不足です。70%の企業がマルチスキルを持つ人材確保に苦戦しており、モダナイゼーションを推進するために74%が外部のプロバイダーに依存しているのが現実です。メインフレームと新技術の両方に精通した人材は限られており、今後も競争が激化することが予想されます。
規制対応も避けられない課題です。94%の企業が「自社のモダナイゼーション計画は規制遵守に強い影響を受けている」と回答しており、特にセキュリティは依然として根本的な懸念事項とされています。金融や公共分野を中心に、メインフレームは依然として重要インフラの役割を担っているため、規制やセキュリティ要件を満たすことは企業にとって必須条件となります。
今後の展望
今回の調査結果は、メインフレームのモダナイゼーションが「攻めの投資」としての価値を帯びつつあることを示しています。ROIの向上とAIの推進力は、企業がメインフレームを積極的に活用し続ける強力な根拠となっています。一方、人材不足や規制対応は依然として大きな制約であり、これを克服するためにはパートナーシップやエコシステムの活用が重要となっています。
今後は、メインフレームを中心にクラウドや生成AIを組み合わせた「ハイブリッド・プラットフォーム」が主流となり、データ活用や意思決定の高度化を後押しすることが期待されます。また、AIが業務補完だけでなく新しい収益モデルの創出につながることで、メインフレームは「守りの基盤」から「攻めの基盤」へと進化させていくアプローチが重要となるでしょう。