業界横断のDXに向けたデータ連携基盤とウラノス・エコシステム
経済産業省は2024年1月17日、「第19回 産業構造審議会 経済産業政策新機軸部会」を開催しました。
今回はこの中から、業界横断のDXに向けたデータ連携基盤(データプラットフォーム)について、とりあげたいと思います。
Society5.0時代に、多様化するニーズを満たす新たな製品・サービスを創出し、複雑化する社会課題を解決に繋がる業界横断の社会全体レベルのDXには、リアルデータの利活用を支える業界横断のデータプラットフォーム構築が必要となっています。
世界各国で、それぞれの特性に応じて最適化されたモデルが構築されており、日本としては、特定の国や企業が利益を独占することなく、官民協調の下で個別企業・産業の垣根を越える全体最適の実現を図るために、地域内外の国・企業等のプレーヤーにもオープンで、グローバルにも連携可能なデータプラットフォームの構築を目指すことが重要としています。
世界各国・地域におけるデータプラットフォームの構築における取り組み状況をみてみましょう。
欧州:
国を跨ぐ巨大な欧州の経済圏を統合した上で、官主導で、社会的課題にフォーカスしたテーマを設定し、域内企業に有利なルール(デジュール・スタンダード)を設定することで、米中に対抗
米国:
国内外で市場原理を徹底して追求する、という過程で成長したグローバル巨大資本企業が市場を寡占
中国
巨大な内需とコスト安を背景に、官によって統制・保護しながら民間企業を育て、外需獲得を展開
出典:経済産業省 第19回 産業構造審議会 経済産業政策新機軸部会 2024.1.17
こういった状況の中で政府が取り組みを勧めているのが、Ouranos Ecosystem(ウラノス・エコシステム)です。
日本では、国としての全体最適を目指し、官民協調による、企業や業界、国境を越えたデータ連携を実現するための取組の総称を"Ouranos Ecosystem(ウラノス・エコシステム)"と命名し、日本が目指す最適なデータプラットフォーム構築を推進しています。
巨大プラットフォーマーと共生するため、特定の一社だけで、「データ独占」「モノ・カネ・ヒトのフロー最適化」「ユーザー囲い込み」を行わない。個別企業・業界を超えて、日本全体でのプラットフォーマー型事業モデル実装を追求、といったことなどを推進しています。
出典:経済産業省 第19回 産業構造審議会 経済産業政策新機軸部会 2024.1.17
Ouranos Ecosystem(ウラノス・エコシステム)における取組をみてみましょう。
Ouranos Ecosystem(ウラノス・エコシステム)は、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)のDADC(デジタル・アーキテクチャ・デザイン・センター)が全体のアーキテクチャを設計。各業界が既に構築している各種のプラットフォームも活用しながら、社会全体のDXに向けて、業界横断のデータ連携基盤を構築しています。
業種横断的なデータ連携のうち、先行的に商流・金流DX(サプライチェーンデータ連携基盤)、人流・物流DX(4次元時空間情報基盤)に関する取組が進捗しているといいます。
出典:経済産業省 第19回 産業構造審議会 経済産業政策新機軸部会 2024.1.17
ウラノス・エコシステムにおいてデータを連携するために、各データはある規格・標準に沿っていることが必要であり、そのため、公共、準公共、産業の分野におけるデジタル領域の基準・標準を策定する機関が必要としています。
データ連携を円滑に進めるため、各社がデータを安心して提供できるよう、データ連携基盤の運営事業者や、その基盤の中立性を外形的に担保することが必要であり、公益デジタルプラットフォーマー認定制度の創設が必要としています。
出典:経済産業省 第19回 産業構造審議会 経済産業政策新機軸部会 2024.1.17
社会全体のDXを推進するために必要となるデータプラットフォームの構築にあたっては、デジタル領域の基準・標準の整備が急務。そのためには、IPAがデジタル戦略における基準・標準策定機関として、デジタルライフライン等の産業分野におけるデジタルサービスの社会実装に必要となる基準・標準に加え、公共分野の情報システムや準公共分野において必要となるデータ標準の策定等も推進できるよう、制度的手当が必要としています。
情報処理推進機構(IPA)の標準機関化
出典:経済産業省 第19回 産業構造審議会 経済産業政策新機軸部会 2024.1.17
また、AIや自動運転のような不確実性の高いデジタル技術を社会実装するためには、運用者が異なる複数のシステムが連携できるよう、デジタル時代における新たな社会インフラ(協調領域)として、とりわけデータ連携基盤整備の必要性が高いとしています。
特にデジタルライフラインとして整備するようなデータ連携基盤については、デジタルライフラインが協調領域と競争領域の切り分けが困難な領域であるがゆえに、運営事業者やその基盤の中立性を外形的に担保することで、サービス提供が可能となる。こうした中立性等を担保するため、デジタルライフラインにおいてデータ連携基盤の運営事業者を担う者を認定する制度的措置の創設が必要としています。
公益デジタルプラットフォーマー制度の創設
出典:経済産業省 第19回 産業構造審議会 経済産業政策新機軸部会 2024.1.17
ウラノス・エコシステムの先行ユースケースのサプライチェーンデータ連携基盤もとりあげています。
温室効果ガス排出量(GHG排出量)の算出、リサイクル率の算出、在庫量削減等による物流効率化など様々な政策課題を解決するには共通して「企業を跨いだデータ共有」の仕組みの構築が必要となる。これは、ウラノス・エコシステムを構成する業種横断のデータプラットフォームの代表的事例ともいうべきものであるとしています。
特に蓄電池については、欧州電池規則への対応が喫緊の課題であることから、ウラノス・エコシステム先行ユースケースとして、①蓄電池のカーボンフットプリント(CFP)、②蓄電池のデュー・ディリジェンス(DD)に関する取組を推進しています。
ウラノス・エコシステムの先行ユースケース(サプライチェーンデータ連携基盤)
出典:経済産業省 第19回 産業構造審議会 経済産業政策新機軸部会 2024.1.17
最後に、ウラノス・エコシステムの今後の展開です。
産学官で連携しながら、企業や業界、国境を越えてデータ連携を行う、ウラノス・エコシステムの下で、具体的なユースケースを展開。デジタルライフラインの社会実装や、物流の人手不足対応からサーキュラーエコノミー実現まで具体的なプロジェクトを通じて取組を推進。併せて、欧州のCatena-Xとの連携など、海外プラットフォームとの相互運用性確保も目指していくとしています。
ウラノス・エコシステムの今後の展開
出典:経済産業省 第19回 産業構造審議会 経済産業政策新機軸部会 2024.1.17