2014年クラウド展望(10)オープンクラウドの進展~OpenStack編~
AWSやマイクロソフトなどが独自のクラウドエコシステムを展開する中で、オープンソースを採用しオープンなクラウド環境を構築し、エコシステムを形成する動きも活発化しています。
オープンクラウドの代表的なクラウドOS(クラウドマネジメント・システム)が、オープンソースのクラウド基盤ソフトウェアであるOpenStackやCloudStackです。
今回はOpenStackについて紹介をしたいと思います。
活発化するOpenStackのコミュニティ、事業者の採用も進む年に
2010年7月19日、RackspaceとNASA(アメリカ航空宇宙局)が中心となりOpenStackプロジェクトの開始が発表しました。2010年3月、Rackspaceは自社でクラウドストレージサービスとして提供している「Cloud Files」のコードを「Swift」という名称で公開し、2010年5月にNASAはIaaS機能を備える「Nebula」をベースに「Nova」という名称で公開しました。これがOpenStackプロジェクトの始まりとなってます。
OpenStackプロジェクトは、Rackspace 、Red Hat、HP、インテル、AMD、NTT、NTTデータなどが参加し、すでに180社以上、2013年12月現在で132カ国で1万3000人以上の開発者がプロジェクトに参加しています。2012年9月19日にはOpenStack Foundationを設立し、1000万ドルの資金を調達し非営利団体として活動を拡大させています。
OpenStackプロジェクトでは、2012年9月27日には6回目のリリースの「Folsom」が発表され、2013年4月には7回目のリリースの「Grizzly」、2013年10月には「Havana」がリリースされるなど、6ヶ月ごとにメジャーリリースされています。 OpenStackは海外の大手SIベンダやクラウドやホスティング事業者を中心に採用が進んでいます。
OpenStack関連の市場規模は2015年には10億ドル超に
451 Research による最新のレポートによると、OpenStack 関連市場は2013年に6億ドルのビジネスに成長し、2015年には、OpenStack 市場の規模は、10億ドルを超えと予測しています(関連記事)。
OpenStack-related business revenue to exceed $1bn by 2015 as commercial models evolve
OpenStack関連の市場拡大に伴い、OpenStackを採用するクラウド事業者も増加傾向にあります。各事業者の取り組みを紹介しましょう。
OpenStackでエンタープライズ・プライベートクラウドを展開するRed Hat
Red Hatは「Red Hat OpenStack」を採用した「Red Hat Enterprise Linux OpenStack Platform」とOpenStackベースのクラウドシステムへの移行をサポートするソリューション「Red Hat Cloud Infrastructure」を提供しています。
2013年12月20日には、商用サービスに対応した「OpenStack」の商用サポート版「OpenStack Platform 4.0」をリリースしています。
Red Hatは、Linuxと同様にOpenStackやOpenShiftなどのオープンソースをにエンタープライズユーザー向けに安定性や信頼性を強化し、OpenStackの分野での競争優位に向けた展開を進めていると言えるでしょう。
OpenStackをベースとするHP Cloud OS
HPは、2011年にオンプレミスとクラウド環境を共通化されたオープンプラットフォームで統合化する「HP Converged Cloud」構想を発表し、OpenStackをベースとするHP Cloud OSを展開しています。
HPは、2012年5月、OpenStackをベースとしたパブリッククラウド「HP Cloud Services」のPublic Beta開始し2012年8月から正式商用サービスを開始しています。2013年11月の時点で北米2リージョンで提供し、今後アジアやヨーロッパへの提供を計画しています。
2013年3月からは、OpenStackをベースとしたプライベートクラウド「HP CloudSystem」を提供するなど、OpenStackをベースとしたハイブリッドクラウド戦略を進めています。
OpenStackを採用した早くから採用したRackspace
Rackspaceは2012年8月1日、OpenStackを採用したパブリッククラウドサービス「Rackspace Open Cloud」を正式開始の発表をしました。
「Cloud Servers」はOpenStackのCompute(Nova)のコンポーネントを利用したIaaSで、ストレージサービス「Cloud Files」の提供は、OpenStackのObject Storage(Swift)を採用しています。Rackspaceの商用サービスの提供は、OpenStackを採用した初の大規模なパブルッククラウドサービスとなります。
2013年4月には、各国の通信事業者やサービスプロバイダー向けにOpenStackクラウドの設計や運用を支援し、相互接続されたグローバルクラウドネットワークを構築する計画を発表し、『クラウドのクラウド』を実現する事業者としてのプレゼンスを高めています。
IBMの買収に伴いOpenStackの採用を進めるSoftLayer
IBMは2013年3月、自社によるIaaS基盤の開発を中止し、IBMのクラウドソリューション「IBM SmarterCloud」をクラウドの仕様や規格にOpenStackなどのオープンスタンダードを採用した「オープンクラウドアーキテクチャ」ベースで構築する「オープンクラウド戦略」を発表しました。
IBMは6月4日には、パブリッククラウドサービスを提供する事業者の大手であるSoftLayer Technologiesの買収を発表し、買収を完了させています。
SoftLayerはこれまでCloudStackをベースとしたクラウドサービスを提供していましたが、IBMのオープン戦略に伴い、OpenStackをベースとしたクラウドサービスの展開を強化していくことになるでしょう。
Dell、VMware、OracleもOpenStackを展開
Dellは当初OpenStackをベースとしたパブリッククラウドサービスの展開を予定していましたが、2013年5月に戦略を変更しパブリッククラウドサービスは他社サービスをOEMなどで提供し、OpenStackをベースとしたエンタープライズ向けのプライベートクラウドの提供を強化しています。
競合と見られていたVMwareもOpenStack Foundationに参加し、「ESX」ハイパーバイザーの機能改善などの支援を行なっています。また、Software-Defined Datacenter戦略し、vCloud Automation Centerや、vSphere(Grizzyから対応)もOpenStackをサポートしています。
オラクルも2013年12月にOpenStack Foundationに参加を発表しました。オラクルは「Oracle Solaris」「Oracle Linux」「Oracle VM」「Oracle Virtual Compute Appliance」「Oracle Infrastructure as a Service」「Oracle ZFS Storage ZS3」「Axiom Storage System」「StorageTek Tape System」に、OpenStackの管理コンポーネントを搭載する計画を発表し、Exalogic Elastic CloudやCompute Cloud Service、Storage Cloud ServiceとOpenStackとの互換性にも対応します(関連記事)。
オラクルはパブリッククラウドサービスやプライベートクラウドの提供する事業者が、オラクル製品の採用できるようOpenStackへの対応強化を図っています。
日本国内ではNECがOpenStackをベースとしたクラウドサービスの提供開始を予定、CTCにも注目
2014年は日本国内の事業者もOpenStackを採用する事業者が増えていくことが予想されます。
NECは2013年9月12日、OpenStackを採用した「NEC Cloud IaaS」を2014年4月にサービスを開始することを発表しました。2013年1月開設の「NEC神奈川データセンター(DC)」、自社開発のサーバーとOpenStackの採用により、仮想サーバー1台あたりの月額料金は6700円からの価格競争力のあるクラウドサービスの提供を計画しています(関連記事)。
NECはAWSのパートナーでもあり、どこまで自社のパブリッククラウドサービスの展開に力をいれ、シェアを伸ばしていくのか、その動向が注目されます。
伊藤忠テクノソリューションズは2014年1月21日、クラウドネイティブ・アプリケーション開発のプラットフォームとしてOpenStackを採用したことを発表しました(ニュースリリース)。Hadoop向けバッチアプリケーション開発用フレームワークと連携した高速データ処理のアプリケーションを開発する予定です。今回の取り組みは、経済産業省の平成25年度産業技術実用化開発事業費補助金(ソフトウェア制御型クラウドシステム技術開発プロジェクト)の交付によるものです。
eBayやPayPal、グリーなどの大規模ユーザもOpenStackを採用
国内外のクラウド事業者などがOpenStackを採用したクラウドサービスを提供していますが、ユーザが独自にOpenStackを採用する動きも進んでいます。eBayやPayPal、ソニー、グリーなどがOpenStackを採用した独自のプライベートクラウド環境を構築していることが明らかになっています(関連記事)。
PayPalの場合、8万台規模のサーバをVMwareからOpenStackに移行しています(関連記事)。ソニーは、PlayStationの基盤にRackSpace支援によるOpenStackをベースとしたプライベートクラウド環境を構築していることが明らかになっています(関連記事)。また、グリーは2013年5月から商用環境にOpenStackを採用しています(関連記事)。
まとめ
2014年は、クラウド事業者およびユーザのOpenStackの商用ベースでの採用の動きが加速していくことが予想されます。これまで、OpenStackは安定性などに欠けるという指摘もあり、採用を見送るケースもありました。2014年の1年をかけ、新バージョンのリリース、コミュニティによるContribution、各社のサービス連携などにより安定性が改善されるうようになり、ユーザ自身の選択肢や利便性も大きく向上するでしょう。
OpenStackと次回紹介するCloudStack採用の流れは、スマートフォンのOSで多くの通信事業者やメーカーがAndroidが採用したように、クラウドOSの部分でもこのOpenStack、CloudStack採用の流れは大きな動きになる可能性があると考えています。
一方、OpenStackやCloudStackによるクラウドOSのコモディティ化が進んできたことで、事業者にとっては、規模の経済や上位レイヤなどの付加サービス機能の拡充、エコステムの拡大といったように、付加価値と差別化を図っていかなければ生き残りは難しくなってきていると考えることもできます。2014年は、OpenStackとCloudStackを採用した事業者の動きがひとつの鍵となるでしょう。
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