オルタナティブ・ブログ > インフラコモンズ今泉の多方面ブログ >

株式会社インフラコモンズ代表取締役の今泉大輔が、現在進行形で取り組んでいるコンシューマ向けITサービス、バイオマス燃料取引の他、これまで関わってきたデータ経営、海外起業、イノベーション、再エネなどの話題について書いて行きます。

[メモ] アジア開発銀行の報告書「アジア2050-アジアの世紀を実現するために」が示唆する未来の都市

»

先頃、アジア開発銀行が報告書"Asia 2050: Realizing the Asian Century"を刊行しました。そのなかで描いているシナリオ「アジアの世紀」がなかなか壮大です。

このシナリオによると2050年にはアジアのGDPが世界の51%を占め、148兆ドルに達します。1人当たりGDPも6倍になり、現在の欧州に肩を並べます。アジアの多くの人たちが欧州並みの生活水準になるということですから、これはすごいことです。これによって、アジアが産業革命以前に保持していた世界経済における地位を再び取り戻すことになります。

■「中所得国の罠」に陥る可能性も

これはシナリオプランニングで言う「楽観シナリオ」です。このシナリオに対置できるものとして、「やや悲観シナリオ」である「中所得国の罠」(Middle-income trap)シナリオも提示されています。(ストレートな悲観シナリオについては、簡単に示唆されているだけです。)
中所得国の罠というのは、高所得国を追いかける中国、インド、タイ、マレーシアなどの中所得国が経済システムや社会システムの改善を続けないと、ある時点で国民所得の伸びが止まり、長い停滞に入る現象を言うそうです。
例えば、官僚組織に不透明さがあり、企業の新規参入や金融機関の自由な活動が妨げられる状態があれば、その国の経済成長は止まってしまいます。この報告書では明確に「腐敗」(corruption)という言葉を使って、アジア各国の官僚組織にありがちな土壌を非難しています。そうした後進性の改善を続けないと、中所得国の罠にはまってしまい、経済が伸びなくなるわけです。
例として以下の図が掲げられています。韓国が1990年代後半のアジア経済危機を脱してその後高い成長を遂げたのに対して、ブラジルと南アフリカは伸びが弱いです。

Middleincome

アジアが中所得国の罠にはまると、アジアの2050年におけるGDPは、アジアの世紀シナリオの半分以下の61兆ドルに留まります。中国やインドが高所得国の仲間に入りきれずに、停滞が続くということでしょう。

■サステイナビリティのあるコンパクトな都市

長い報告書なのでエグゼクティブサマリーをざっと読んだだけですが、メモとして以下を記しておきます。

▼アジアの世紀を牽引するのは、日本、韓国、中国、インド、インドネシア、マレーシア、タイの7カ国。(シンガポールが抜けているのは経済規模を勘案しているからでしょう。)この7カ国で2010年には人口31億人(アジアの78%)、GDPが14兆2,000億ドル(アジアの87%)を占めている。2050年には人口比率が78%に落ちるものの、GDP比率は90%までに上昇する。また、この7カ国で世界GDPの45%を占め、1人当たりGDPは世界平均よりも25%高い45,800ドルとなる。(アジアの世紀シナリオの場合)

▼成長の妨げとなる課題としては以下。
- 各国の国内にある経済不均衡が国内の安定を乱す恐れがある。
ー 個々の国が経済問題、社会問題、政治上の課題に取り組まないと、中所得国の罠に陥る恐れがある。
- 生活水準が上がるにつれて有限の資源(エネルギー、水、農地)の問題が顕在化。
- 各国間にある経済成長の不均衡が地域の安定を乱し、成長の妨げになる恐れがある。
- 地球温暖化、気候変動がもたらす可能性のある水不足が農業生産を脅かし、沿岸部や都市住民に影響を与える恐れがある。
- すべての国において政治および官僚機構のガバナンス(公正さ&透明さ)が維持される必要がある。

▼インフラと都市開発に関して。インフラについては、各国がバランスの取れた経済成長を遂げるためには、インフラ整備と都市化(都市への住民の集中)への対応が必要であるということ。ファイナンス面では、PPPの制度を拡充して、活発に民間の資金が利用されるようにする必要がある。

▼都市についての記述。コンパクトな都市、エネルギー効率の高い都市、安全で住民が生き生きと暮らせる都市を目指す必要があり、自動車よりも公共交通(mass transit)への依存度が高い都市を実現する必要がある。

↑短いですが、これが、現在世界各国で取り組まれているスマートシティ、スマートコミュニティ、エコシティのあるべき姿ではないかと思います。近い将来に顕在化してくる資源不足に対処できるサステイナビリティを備え、さらに、交通機関は、あたかも東京のように、自動車よりも公共交通機関の方が主であるというような都市ということでしょう。

新興国でも導入しやすい、公共交通とエネルギーシステムと住居ソリューションを組み合わせた廉価な都市パッケージのようなものがあると、数十ではきかない数の都市で展開できる可能性がありますね。

Comment(0)