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株式会社インフラコモンズ代表取締役の今泉大輔が、現在進行形で取り組んでいるコンシューマ向けITサービス、バイオマス燃料取引の他、これまで関わってきたデータ経営、海外起業、イノベーション、再エネなどの話題について書いて行きます。

[ニュースの背景] HSBC : 日本の政府保証プロジェクト融資に注力-インフラ輸出支援(ブルームバーグ)

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本日付のブルームバーグの記事「HSBC : 日本の政府保証プロジェクト融資に注力-インフラ輸出支援 」が興味深かったです。最初のパラグラフを引用します。

英HSBCは日本の政府保証・保険付きプロジェクト向け融資を強化する。対象は日本企業が参加する外国政府による環境配慮型の発電所建設などで、アジアや欧州の幅広い顧客網を活用し、同業務で先駆する三菱UFJやみずほなど日本のメガバンクとも協力して案件の獲得を狙う。

報道されているHSBCの動きが何を意味しているのか、簡単にご説明します。

■現在進められている主なインフラプロジェクト

タイトルにある「インフラ輸出」および記事中にある「プロジェクト」とは、新興国や先進国で実施されるインフラの新設(増強)プロジェクトのこと。インフラとして括られるのは、主には以下です。

  • 電力の絶対量が不足しているインド、インドネシアなどで導入が進んでいる発電効率の高い石炭火力発電所(世界の発電量のおよそ半分は石炭です)
  • 再生可能エネルギー発電ではもっとも発電コストが安い風力発電所(特に規模が大きいのは洋上風力発電所)
  • 中東で動き始めている太陽熱発電所
  • サウジアラビア、アラブ首長国連邦、米国、豪州などで需要がある海水淡水化プラント
  • 世界各国で計画が進んでいる高速鉄道
  • 世界各国で計画が進んでいる原子力発電プラント
  • 中間層が厚くなっている新興国の大都市における地下鉄、モノレールなどの都市交通
  • 大都市の上水道施設
  • 大都市の下水処理施設

これらのインフラに共通した特徴は、初期投資が膨大な金額に上るということ、そして、エンドユーザーやオフテイカー(インフラのサービスを購入する国や企業)から得る利用料で投資回収をするのに20年〜30年といった長い年月がかかるということです。
一般的な企業が取り組む新規事業は5年、短いものでは3年で黒字化を求められますが、インフラ投資の場合は10年単位の長いタイムスケールになります。
従って、最初にかかる膨大な初期投資をどうファイナンスするかが大きな課題です。

■インフラの初期投資をまかなうための官民連携スキーム

一般的には以下のようなスキームが使われます。

  1. インフラのオーナーたる国や自治体などが官民連携(PPP)を打ち出して、インフラサービスのスペックを示し、これを受託できる民間企業を募り、競争入札を行う。
  2. 応札する民間側は、初期投資が膨大になることもあり、複数の企業がコンソーシアムを作って応札する。落札できれば、そのコンソーシアムが1つの特別目的会社を設立し、そこがインフラの営業権のオーナーとなり、かつ、決められた年限の営業(オペレーション)を行う。
  3. 特別目的会社は、初期投資に必要な金額を、国際展開を図る大手銀行複数からのプロジェクトファイナンスか、コンソーシアムに参画した企業からの出資によって得る。
  4. 特別目的会社は、決められた年限の営業を行うなかで、エンドユーザーやオフテイカーから利用料を得て、プロジェクトファイナンスの返済原資とし、かつ、コンソーシアム参画企業への配当原資とする。

■官民連携スキームの優れた点とリスク

このスキームの優れた点は、国や自治体は自らの資金を使わずにインフラを整備することができ、民間側は、特別目的会社を作る企業群にしても、それに融資をする銀行や投資をするファンドにしても、収益機会を得ることができるという点です(そして、日本が進めているインフラ輸出では日本メーカーも機器納入機会を得ます)。もちろん細かく見れば、様々なリスクが付随し、それを過去十数年にわたって洗練されてきた契約条項によって各々のリスク負担を線引きしていくわけですが。

このスキームに関して、融資をする銀行にとっては、そのプロジェクトがうまく完工すること、できあがったインフラを使って営業を行う特別目的会社がしっかりと営業を行ない、エンドユーザーやオフテイカーから利用料を得ること、途中で生じる様々な変化によって、そのプロジェクトが中断するようなことがないこと、といった懸念事項があります。すなわち、返済がきちんと行われないリスクがあります。
世界中で進められている数多くのプロジェクトファイナンス付きインフラプロジェクト案件では、このリスクを緩和するための方策が洗練されており、それがために、実際に数多くの案件において融資がなされているのですが、そうではあっても、ある程度のリスクは残ります。

そこにおいて、政府系の金融機関の先導的な融資や貿易保険提供機関の保証が意味を持つわけです。

■政府が推進する「パッケージ型インフラ輸出」のカギはファイナンス

日本政府は、昨年より「パッケージ型インフラ輸出」を成長戦略の1つとして注力し始めました。

これは、日本が世界に誇る製造業が、世界のインフラ整備市場において、積極的に自社製品を輸出していけるように、日本勢で各国のインフラプロジェクトを受注していこうという計画です。日本の製造業はこれまで、製品単体の輸出は行ってきましたが、それだけではインフラ市場の大半を取りはぐれてしまいます。

おおまかなイメージで言えば、インフラ市場が100兆円あるとすれば、そのなかで、機器納入にかかる部分は5兆円程度です。残る95兆円は、20年といった長期にわたってインフラサービス会社が営業を行うなかで得られます。そうしたインフラサービス全体を取り込んでいこうというのが政府の「パッケージ型インフラ輸出」です。鉄道で言えば、車両納入で終わるのではなく、鉄道サービスそのものを運営する会社を作り、鉄道インフラや駅を建設し、それらから上がる利用料収入を20年といった長期にわたって得ていこうというものです。

そうしたパッケージ型インフラ輸出を現実のものにするためには、日本の企業コンソーシアムが競争入札で勝てる特別目的会社を組成でき、さらに、その特別目的会社にファイナンスがなされる必要があります。

■国際協力銀行と日本貿易保険の役割

このファイナンス(プロジェクトファイナンス)を政府系の国際協力銀行(JBIC)が主導することによって、日本のメガバンクも融資をしやすくなります。ある意味では、政府系金融機関のお墨付きがついた格好になります。

また、独立行政法人である日本貿易保険(NEXI)がプロジェクトのリスクに対して保証を付けることによって、万一の事態によるプロジェクトの続行が難しくなった場合でも、融資した金融機関は資金を回収することができます。

日本企業が関わるインフラプロジェクトでは、こうした保護方策があるため、ロンドンに拠点を置くHSBCにとっても、プロジェクトファイナンスのシンジケート団として参加しやすくなるわけです。

■他国の銀行もプロジェクトファイナンスに参加しやすいインフラ輸出に

特定の国の民間企業が外国のインフラプロジェクトに関わる際に、このような政府系の金融機関や貿易保険の保護が受けられるというスキームが、他の国にもあるのかどうかは不明です。ですが、あまり話を聞かないことは確かです。

現在、海外大手銀行によるプロジェクトファイナンスの動きは、やや不活発になっていると伝えられています。理由は、リーマンショック後の金融危機により発生した大きな損失からまだ立ち直れていない銀行が、特に欧州には多いということ。さらに、国際展開を図る銀行に対してかかる新たな規制であるバーゼルIIIにより、各銀行は自己資本比率を高める必要があるということ(自己資本を増やせない銀行は融資関連の資産を削減する必要が出てくる)があります。
そういうなかで、国際協力銀行や日本貿易保険が保護方策を付けたインフラプロジェクトは、プロジェクトファイナンス参加行が集まりやすいという特性を持つことになります。大型インフラ案件では十数行が協調融資して必要額を満たすため、参加行が集まりやすいのは非常によいことです。また、そこに事業機会を見いだす日本企業にとっても好ましいものとなります。

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