AIは「知識拡張」(RAG)か「業務実行」(MCP)か?
こちらのビデオを見て書いてみました。
https://www.youtube.com/watch?v=X95MFcYH1_s
――RAGとMCPを混同したままでは、AIエージェントは設計できない
1. はじめに:LLMは"優秀だが権限ゼロ"の新人エンジニア
「それについては情報が不足しています」
ChatGPTや社内AIエージェントに期待して質問したものの、こんな返答に肩透かしを食らった経験はないでしょうか。
LLMはあらゆる知識を知っているように見えますが、**実際には"何も知らず、何も実行できない"**存在です。
よく言われる比喩があります。
LLMは、会話能力は高いが
・社内ドキュメントを読めない
・業務システムにログインできない
・自分で処理を実行できない
そんな「権限ゼロの新人エンジニア」に近い
AIを業務で使えない理由の多くは、モデル性能ではなく**「外部とどう接続するか」という設計の問題**です。
その代表的なアプローチが
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RAG(Retrieval-Augmented Generation)
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MCP(Model Context Protocol)
本記事では、この2つを**「知識拡張」と「業務実行」**という軸で整理します。
2. RAGとMCPの決定的な4つの違い
一見似ているRAGとMCPですが、目的・データ・処理モデル・設計思想が根本的に異なります。
ここでは「休暇申請」を例に、エンジニア視点で整理します。
2.1 最大の違いは目的
――RAGは「知るため」、MCPは「動かすため」
RAG:知識を正確に"参照"する仕組み
RAGは、LLMに外部知識を与えるためのパターンです。
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社内ドキュメント
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PDFマニュアル
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FAQ、規程集
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ナレッジベース
これらを検索(Retrieval)し、プロンプトに埋め込む(Augment)ことで、事実に基づいた回答を生成します。
例:
「当社の有給休暇のルールは?」
→ 就業規則PDFを検索し、該当箇所を引用して回答
MCP:業務を"実行"するためのプロトコル
MCPは、LLMが外部ツールやシステムを安全に操作するための共通規約です。
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人事システムのAPI呼び出し
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チケット作成
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承認フロー実行
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クラウド操作
例:
「私の残り有給日数を確認して、来週3日休みを申請して」
→ 人事APIを呼び出し
→ 残日数を取得
→ 申請処理を実行
要約すると
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RAG:AIが know more
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MCP:AIが do more
2.2 扱うデータの違い
――静的ドキュメント vs 動的システム
RAGが扱うデータ
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非構造/半構造データ
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更新頻度が低い
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「正しさ・根拠」が重要
特徴的なのは、出典を明示できる点です。
これはコンプライアンスや説明責任が求められる業務では必須です。
MCPが扱うデータ
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API経由のライブデータ
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状態を持つシステム
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書き込み・更新が発生
MCPは「読む」だけでなく、「変更する」ことが前提になります。
そのため、認可・監査・ロール設計が不可欠です。
2.3 処理モデルの違い
――RAGは研究者、MCPはオーケストレーター
RAG:検索→補強→生成
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ユーザー質問を受け取る
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ベクトルDBなどから関連情報を検索
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プロンプトに埋め込む
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LLMが回答を生成
設計の中心は「検索精度」と「文脈圧縮」です。
MCP:発見→計画→実行
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利用可能なツール(API)を発見
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ゴール達成のための手順を計画
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ツールを順序立てて実行
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結果を統合して返す
ここでは、ワークフロー設計と失敗時の制御が重要になります。
2.4 RAGとMCPは競合しない
――実務では「組み合わせ」が前提
実際の業務では、次のような構成が自然です。
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MCPエージェントが全体を制御
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必要に応じてRAGを「情報取得ツール」として利用
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情報確認 → 判断 → 実行を一連で行う
つまり、
**RAGはMCPの"道具箱の1つ"**になり得ます。
3. まとめ:パターン理解の次に考えるべきこと
RAGとMCPの違いを一言で言えば、
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RAG:AIに知識を与える設計
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MCP:AIに権限と行動を与える設計
です。
重要なのは「どちらを使うか」ではありません。
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どこまでを"参照"に留めるのか
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どこからを"実行"させるのか
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誰がその責任を持つのか
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どうやって監査・制御するのか
これらを踏まえたアーキテクチャ設計こそが、エンジニアに求められています。
最後に
あなたの次のAIプロジェクトでは、
AIは「答えるだけの存在」ですか?
それとも「業務を前に進める存在」ですか?
RAGとMCPの使い分けは、
PoC止まりのAIと、本番で使えるAIを分ける分岐点になるはずです。