私がワイン会で学んでいるいくつかの事柄
最近、日本でも指折りのワイン通の方が主催しているワイン会に通っています。1月からはフランスワインの主産地を14ヶ月かけて巡るセミナー付きワイン会のシリーズが始まり、2月17日の会は白がシャサーニュ・モンラシェ、赤がボルドーのサンテステフでした。ちなみに1月の初回は白がシャブリ、赤がジュヴレ・シャンベルタン。
特定の産地のワインを系統立てて飲めるチャンスなどほとんどないですから、非常にありがたい企画です。集まる人数にもよりますが、だいたい白を3種、赤を3種、合わせて1人1本程度飲む格好になります。マリアージュを考えた、量が抑え目のコース料理も出て、計1万円。非常にお得だと思います。
2月17日の会ではシャサーニュ・モンラシェ プルミエ クリュ レ・ショーム2001年とサンテステフのシャトー・モンローズ2004年がすごくうまかった。料理では、そば粉のガレットにサーモンを包んだもの。それから、子羊のモモ肉のローストが最高にうまかったです。
私の場合はワインの味覚をプロットできるマトリクスがまだ頭の中にあるわけではないので、都度、このワインはこれこれこのようにおいしい、ぐらいで味わうしかないのですが、それでも新鮮な経験ではあります。シャサーニュ・モンラシェ プルミエ クリュ レ・ショーム2001年を「石灰質の白い地に展開するフレスコ画のような色の展開(紙に和絵の具みたいな色彩展開でなく)」みたいな表現で言ったら、みなさんにうーんとうなづかれました(^^;。
講師のOWL1925さん(南喜一郎さん、いずれもハンドル)は、フランスに20回以上通って3万種以上(8,000本)のワインを飲み、現在でも年800種250本のペースで飲んでいるというものすごい方です。飲んだワインはすべて記憶しているそうで、その博覧強記ぶりには目を見張ります(相当数の基準となるワインの特徴がいったん頭に入ると、あとは差分を記憶しておくだけで済むそうです)。メモなしで特定の畑の特定の年の特徴がすらすらと出てきます。
OWL1925さんは、牛込柳町にあるビストロかがり火と九段下にある東京タヴァーンのオーナー(他にも洋菓子チェーン フュッセンを経営)。ワイン会の会場はどちらかのお店になります。ちなみに、牛込柳町のかがり火は大正14年(1925年)に建てられた旧第一信用金庫本店の石造りの建物をそのまま使っていて、内も外もなかなかシックです。昔、大きな金庫があったであろう地下室は現在では最高のコンディションを保てるセラーになっています。ここを含め3ヶ所程度の地下室セラーがあるそうで、収蔵量は万本単位だと思われます。
この2回以前に、OWL1925さんが主催した持ち寄りワイン会と、忘年会的なワイン会に参加していて、その時撮った写真はこちらとこちらで掲げています。ワイン会の最後には2本程度、OWL1925さん秘蔵のものすごい古酒が出てくることがあり、これがまた大きなバリューとなっています。上記セミナー付きワイン会の場合は、二次会(各自1万円ぐらい)に出席すると、最後の方でそうした古酒にありつけます。
17日には、ワインの価格の話が出ました。ご存知のようにワインには数百円で売られているものもあれば、ワイン専門店の冷蔵セラーの中で数万円の値が付いているものもあります。このワイン会では白なら、例えば価格2000円代のものがまず出て、それから段々とグレードが上がって行くのですが、後になればなるほど、やはりうまい。後口の2本を比べると、前者が上手かったり後者が上手かったり、うまさが前後することがありますが、やはり価格の高いものはうまい。
なぜか、という話になりました。例えば高いワインは樽にいいものを使っている。250リットルが入る醸造用の樽が安いものだと60万円。これだけで1本当り1,500円以上のコストになります。高い樽になると100万円以上するそうです(安いワインはステンレスの大きな樽で大量に醸造しているので、樽のコストはかかりません)。ただ、この樽は価格を左右する一要素に過ぎません。
あのワインとこのワインを比べた時、「やはり確実にこちらがうまいな」と思わせるのは価格が倍。同じ産地、同じ系列で比較した時はそうなります。この「確実にこちらがうまいな」と思わせるためにつく100%増の価格プレミア。これがなぜなのか。
ここで話はオーディオに飛びました(OWL1925さんは往年の劇場用の巨大な真空管アンプを保有するほどのアンティークオーディオマニア)。オーディオでも「やはり確実にこちらの音がいい」というと、価格が倍ぐらいする。例えば、20万円台のアンプと30万円台のアンプを較べても、さほど優劣というのはないと思います。しかし、20万円台を50万円台を較べると、確実に後者の方が微妙なディテールにおいて確実に勝っている、という感じになります。この「確実にこちらがいい」という印象を抱かせるためには、トランスからトランジスタから線材からシャーシから、まったく違う部材を選んで、制作にも腕の立つ職人さんをあてがって、ものすごいコストをかけてやるわけです。そのへんの手間暇。これが違う。おそらくそれに近いことがワインの醸造や流通でもあるということなのです。
レストランオーナーでもあるOWL1925さんは、料理でもそれと同じことが言えるとおっしゃってました。「こちらの方が確実にうまい」という料理に仕上るためには、食材から調理からきちんとしなければならないし、やはり腕の立つシェフを投入する必要があります。結果として、お客さんにお出しする価格は倍になる。むしろ、倍程度では合わないぐらいになってしまう…。
こういうことを知っておくと、自分が買う側、選ぶ側に立った場合に、かなりお高いやつと、お値段がそこそこのやつ、2倍の価格差がある2品を前にして、財布と相談しながら、今日はこっちにしとこうと、合理的な判断ができるわけです。ちなみに私はそのへんのスーパーで買える1,000円台のワインを家で飲んでます。最近のお勧めは、カリフォルニアのガロ ピノノワール "ターニング・リーフ"。ブルゴーニュのうまいピノなどと比較せずに、安くてうまいワインという割り切りで飲めば、すごくおいしいワインです。この価格帯ならスクリューキャップであることもポイントです。