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株式会社インフラコモンズ代表取締役の今泉大輔が、現在進行形で取り組んでいるコンシューマ向けITサービス、バイオマス燃料取引の他、これまで関わってきたデータ経営、海外起業、イノベーション、再エネなどの話題について書いて行きます。

日本企業のNPV受容史

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NPV(Net Present Value、純現在価値)はいつ頃から日本企業で普通に使われるようになったのか、意思決定ツールの浸透という側面で興味があります。
ある大手商社で決済系ビジネスの立ち上げのお手伝いをやった時、2000年前後でしたが、その時には、当該事業のゴー/ノーゴーを判定する基準にNPVは入っていなかったように記憶しています。商社の新規事業なので、それなりに訓練を積んだ方がみっちりとした収益シミュレーションをやってB/S、P/Lもしっかりと組んでいましたが、いくつかの収益率、金融費用に対する負債の率などを算出するぐらいで、あとは投資回収期間ですかね。そんなところでした。

私はビジネススクールに行っているわけではないので、ファイナンスのイロハは「コーポレートファイナンス」(リチャード・ブリーリー)の分厚い本をじーっと見るなりして、アタマに入れたぐらいですが、その時に、将来の現金の価値を”割り引く”という考え方を初めて理解しました。これが2001年ごろ。
個人的には、将来の価値の”割り引く”という考え方の根本にある「将来において、価値は増えていて当たり前なのだ」という発想が非常に興味深く思われます。「投資は善である」という考えの根幹ですね。

それはよいとして、2002年ごろにある著述を手伝うことになり、米国企業一般で用いられている、新規事業に関する意思決定ツールの普及ぶりを少し調べたことがあります。
その時見つけた"Capital Budgeting Practices of the Fortune 1000:How Have Things Changed?"(Glenn P. Ryan)という論文によると、現在の米国企業の管理職はNPVとIRRをごくごく当たり前のツールとして使っているとのことです。元となった調査は2001~2002年頃、Fortune 1000社を対象に行われています。
この結果にはあまり驚くべきところはないのですが、この論文では過去の同種の調査についてもまとめており、それによると、NPVやIRRは、米国の経営者の間でも比較的最近に一般化したツールであるということがわかります。これはすごく意外な感じがします。

1960年~1996年の間に行われた複数の調査では、投資回収期間がもっとも当たり前のツールであるという結果になっているそうです。そしてそれらの調査では、Discount Cash Flow式の価値把握はもっとも使われていないやり方であるということも把握されたとのことです。

リチャード・ブリーリーの「コーポレートファイナンス」の冒頭では、純現在価値が企業価値の源泉であるとして、しつこくしつこくそのメカニズムを噛んで含めるように記述しています。定評ある彼のこの教科書が基本中の基本的な位置づけにあるとしても、初版は1981年。無論、彼以前にNPVをもっとも基本的な企業価値把握のツールとする経営学者はいたでしょうから、あれとしても、NPVがビジネススクールの世界で一般的なものになったのはおそらく80年代後半から90年代前半にかけてなのではないかと思われます。それがビジネススクールの卒業生らによって、企業社会一般に浸透していったのが90年代後半。そんな時間感覚ではないでしょうか?(間違っていたら教えてくださいね)

ご参考までに、Ryanの調査結果では、Paybackもよく使われています。投資回収期間は、直感的に儲けが出始めるポイントがわかるという点で廃れにくいのでしょうね。
また、補助的に使われるツールとしては、感応度分析、シナリオ分析、EVAなどが上がっています。リアルオプションはもっとも使われない部類です(^^;。

日本のNPV受容史に戻ると、将来の価値を割り引いて現在の価値を算出するというやり方が一般的な新聞などで見られるようになったのは、竹中平蔵氏が経済企画庁長官になって、金融機関の不良債権の査定にあたってディスカウントキャッシュフローを使ってみてはどうかという持論を展開した時だと記憶しています。これが2002-2003年ぐらいでしょうか。
それを機に、日本の様々な企業にDCFおよびNPVが浸透して、現在では一般的に使われるようになっていると思うのですが、そういう認識で合っていますかね?おそらく、日本のNPV受容は、米国と比べてもそんなに遅いということはなく、むしろNPVで新規事業のゴー/ノーゴーを判断する気風がある企業は非常に進んでいるということが言えそうです。

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