アクティブ・ラーニング(子供たちが学びに向かう姿)の視点からの授業改善(その2)
教育現場のICT活用について、現役の先生にインタビュー中
中学校教諭の望月陽一郎先生に、子どもたちが主体的に取り組む授業(環境作り含む)などを取材しています。第17回目の今回は、理科の授業におけるプログラミング学習や、英語の授業でプロジェクション・ワークシートを活用した事例について伺います。
【望月陽一郎 先生・略歴】
大分市 中学校教諭(理科担当)。大分県教育センタ- 情報教育推進担当主事、指導主事、大分県主幹等を経て、現職。
https://www.facebook.com/yoichiro.mochizuki/about を参照。
‐前回の‐先生の取り組み(その1)は、
- リフレクション(振り返り)シートのポートフォリオ
- KPシートバンクシステム
という「アクティブ・ラーニング(子供たちが学びに向かう姿)の視点」からの授業改善についてでした。
オルタナティブ・ブログの最近の記事ランキングで最高5位になり、読者の関心の高さが伝わってきました。先生の周りの反響はいかがでしたか。
望月先生:校内で紹介していただきましたし、知り合いの方々にも多くシェアしていただいたのもうれしかったですね。
先日、市内の中教研(中学校の先生方の研究会)において、他校の理科の先生方に、「アクティブ・ラーニングの視点」についてお話をさせていただくとともに、理科授業において子供たちが取り組んだ「プログラミング学習」についても紹介しました。
【実践例3】理科授業における「プログラミング学習」とは
‐現在の学習指導要領でも「プログラミング教育」はすでに技術・家庭科で行っているのですよね。望月先生も理科でプログラミング教育を行っていると聞きましたが、具体的にはどのようなことをされているのでしょうか。
望月先生:今「小学校でのプログラミング教育の必修化」が話題になっています。それは、プログラミング教育という教科ができたりするのではなく、各教科の内容の中で「プログラミング思考を身につけさせる」ことと示されています。
残念ながら、これを「コーディング(プログラミング言語を用いた記述)を教えること」と思っている方がわずかにいるようですね。
参考資料
▼小学校段階におけるプログラミング教育の在り方について (議論の取りまとめ)
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/053/siryo/__icsFiles/afieldfile/2016/07/08/1373901_12.pdf
(プログラミング教育の実施に当たっては、コーディングを覚えることが目的ではないことを明確に共有していくことが不可欠である。...という記述があります。)
今回、理科の授業で「プログラミング学習」に取り組んでみたのは、「話題のプログラミング教育を先取りしてどんな工夫ができるのか、子供たちと一緒にやってみよう」と考えたからです。子供たちも初めて取り組むことに積極的でした。
また、別な誤解を受けないためにも、タブレットやPCを使わず、ワークシート(紙ベース)での活動にとどめました。
質問4:その「誤解」とは
望月先生:プログラミング学習に取り込むとは、「タブレットやPCを使うことだ」という誤解です。上記のコーディング(プログラミング言語を用いた記述)を教えるという誤解に近いものがありますね。
私は、子供たちが論理的に考え、課題を解決していくためにどんな組み合わせ・順番で行っていけばよいのかを工夫することが「プログラミング的思考」と捉えています。それで、ワークシート(紙ベース)で実践したものを今回は公開していただくことにしました。
‐職業訓練校のプログラミング講座でも、初心者の生徒さんには先輩講師が紙ベースでアルゴリズムを考える練習を冒頭に必ず入れていました。「プログラミング的思考」を育てるのは、私も大切なことだと思います。
質問5:具体的にはどのような取り組みをされているのですか?
望月先生:中学校1年生は、植物分野に取り組んでいますが、そのまとめとして、「ある植物を分類するためのプログラム」を考えてみようという活動を組み込みました。それは取り組んできたことのまとめになるとともに、身につけた知識を単発のものにするのではなく、関連・連結したものとしていくことを目的としています。
グループごとにプログラミングを考えさせました。
子供たちはこれまでのノートや教科書を見ながら話し合いながら、自分たちグループ独自の分け方を考えました。それは私から「一番よくできたプログラムを採用して形にしてあげよう」というめあてを提示されていたからです。
その後、それぞれ作ったワークシート上のプログラムを使って、私が示す写真の植物(教科書等にないもの)を分類する公開プレゼンをしてもらいました。同じものができそうでいて意外と違う分類の仕方が多く見られました。これがプログラミングのオリジナル性ですね。
途中でつまってしまうグループもいくつかありましたが、「リベンジさせてください」ということになりました。
最後にその中の一つを採用して、keynoteで「質問に答えていくと分類させるプログラム」という「プログラム」にしました。形にしたものを見せることで、子供たちは「次回は私たちのグループが採用されたい!」と意欲を燃やしています。
実際、次の単元で「どのように物質を区別するか」を考えてもらったところ、グループでそれぞれ工夫し、紙プログラミングしてから必要な実験器具を要望し、区別することができた、というように思考する力につながっています。
‐子どもたちがアルゴリズムを考えたということですね。自分たちの取組が採用されたら、子どもたちはうれしいでしょうし、学習やプレゼンに「アクティブに取り組む」意欲が湧きますね。
質問6:以前のインタビューではパワーポイントを使っている(デジタル・フラッシュカード)とお話がありました。今回、keynoteで形にしたのは何故でしょうか。
望月先生:以前は、Microsoftさん・NECさんからサポートしていただいていましたが、今は学校にあるiPadしか使えません。そのため今はマクロでランダム表示させる「デジタル・フラッシュカード」は残念ながら使えないのです。
【関連記事】
▼デジタル教材「ランダムフラッシュカード」-中学校教諭・望月陽一郎先生のお話より-
http://blogs.itmedia.co.jp/kataoka/2015/08/Random-flash-card.html
【実践例4】「プロジェクション・ワークシート」の取り組み
質問1:アクティブ・ラーニングの視点からの授業改善として、「プロジェクション・ワークシート」の取組について教えてください。
望月先生:今回は私以外の取組として紹介したいのです。
他の先生が、私のICT活用を見て「やってみたい」という、広がりがありました。
理科の「力の作図をする」授業をした後、リフレクション・シートを読むと、どうもわかりにくいという感想があり、悩みました。そこで子供たちが持っているワークシートを直接黒板に映し、そこにチョークで作図をしながら説明してみました。ワークシート自体をプロジェクターで表示する「プロジェクション・ワークシート」です。
子供たちの持っているワークシートをそのまま表示し、作図を書き込むので、自分のシートと比較しながら理解することができたり、同じようにやってみたりすることができます。これはいわゆる「スライドで説明する」というものとは少し違いますよね。
それをたまたま見ていた英語の先生が、「自分も同じようなことをやってみたい」と相談にきたので、使い方をアドバイスしたというわけです。
‐プロジェクションマッピングのようなことをされているのですね。黒板にシートを映してチョークで書き込んでいくと、自由度があり子どもたちにとってもわかりやすいでしょうね。
質問2:英語の先生に使い方をアドバイスされたとのこと。具体的にはどのようなアドバイスをされたのですか。
望月先生:iPadの使い方自体については、ご自身がiPhoneを使われているので、そんなに説明は必要ありませんでした。
説明したのは、
- 学校のiPadとプロジェクターのつなぎかた。
- 画像を表示するアイデア
- 画像のiPadへの送り込み方
などです。後は授業で使っている様子を見学に行ったりヘルプに答えたりですね。
質問3:望月先生が担当している理科と英語では、工夫の仕方は異なりますか。それとも同じですか。
望月先生:もちろん異なります。
以前、教職員研修を担当していたときも、いろいろな教科の先生方をまとめて対象に行っていました。こちらがアイデアを示すのは共通するヒントであって、「授業での工夫の仕方」を考えるのは、その先生です。
この場合でいえば、「プロジェクション・ワークシート」というヒントですね。
私は理科で作図に使っていましたし、英語ではアクティビティのための画像表示に使いました。
今では英語の先生がメインでそのプロジェクターを使っています。また、その様子を数学の先生が見て、「いいですね、使ってみようかな」とも言っていました。それらの広がりから新しいプロジェクターを学校で購入することにもつながりました。
‐他の教科の先生方にも取組が広まっているのですね。たとえば、パワーポイント上にマウスで書き込むこともできますが、手書きに比べると書きにくさがあります。黒板にチョークで手書きできるところがいいなあ、と思いました。
望月先生: これらを通して子供たちがアクティブに取り組んでいく姿が実現できること。それが「アクティブ・ラーニングの視点からの授業改善」につながっています。
参考資料
「総則・評価特別部会、小学校部会、中学校部会、高等学校部会における議論の取りまとめ(案)」
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/053/siryo/attach/1374151.htm
(「主体的・対話的で深い学び」とは、特定の指導方法のことでも、学校教育における教員の意図性を否定することでもない。教員が教えることにしっかりと関わり、子供たちに求められる資質・能力を育むためにはどのような学びが必要かを絶え間なく考え、授業の工夫・改善を重ねていけるようにすることで、子供たちの「主体的・対話的で深い学び」を実現しようとする営みなのである。...という記述があります。)
まとめ
今回は主に
- 「理科の授業の中で行ったプログラミング学習」について
(なぜ紙ベースで行ったのか、先生の意図・狙い) - 「プロジェクション・ワークシート」を実践した、英語の先生の事例
についてお話を伺いました。
プログラミング学習で大切なのは、
- プログラミング言語を教えることよりも「プログラミング的思考」を育てることの方が重要である。
と考えていらっしゃることが伝わってきました。
私が勤務していた学校のプログラミング科でも、アルゴリズムおよびフローチャート作成のトレーニングが重視されていました。プログラミング的思考が身についていると、使用言語が変わっても適用しやすいですし、プログラミング以外のことにも役に立つからです。
デザイン科内のプログラミング講座だと、時間数が足りない関係でいきなりスクリプト言語を教えてしまうことが多かったです。プログラミング初心者が多いにも関わらず、アルゴリズム等を学ぶ時間をあまり作れなかったので、歯がゆくなることもありました。
望月先生のお話の中で、
「小学校でのプログラミング教育の必修化」が話題になっています。それは、プログラミング教育という教科ができたりするのではなく、各教科の内容の中で「プログラミング思考を身につけさせる」ことと示されています。
というご指摘がありました。
学校教育内でプログラミング的思考を育てることができれば、社会人になってから役立つ場面がたくさんあると思います。「小学校でのプログラミング教育の必修化」が良い形で実現されていけば、と願っています。望月先生の事例が、多くの先生方のお役に立つことを私も願っています。
【追記】
初の試みとして、何を質問したのかわかりやすくするために、質問1、質問2・・・という表記を使いました。読者のみなさまにとってわかりやすいかどうか、表記についてもご感想をいただけましたらうれしいです。
参考記事
先導先生 - DiTT(デジタル教科書教材協議会)
※望月先生の32の取組みが紹介されています。
まとめ記事
今までに取材した「授業でのICT活用のポイント」「学校でICT機器を活用する時のポイント」「教材作成時に気をつけたい著作権の問題」などについては、以下の記事にポイントをまとめました。ぜひご参考にされてくださいね。
- 授業に役立つICT活用術 ‐望月陽一郎先生インタビュー まとめ編‐
- 授業に役立つタブレット活用術 ‐望月陽一郎先生のインタビュー まとめ編‐
- アクティブ・ラーニングに近づくための授業術 ‐望月陽一郎先生のインタビュー まとめ編‐
※インタビューの第1回目から15回目をまとめています。
関連記事
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