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グローバル化する中で日本人はどのようにサバイバルすればよいのか。子ども×ICT教育×発達心理をキーワードに考えます。

授業に役立つタブレット活用術 ‐望月陽一郎先生のインタビュー まとめ編‐

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現役の先生に教育現場のICT活用について伺いました

教育現場の現状を伺いたくて始めた望月陽一郎先生のインタビューが、ついに10本を超えました。2年近くにわたって、学校現場でどのようにICT活用を行われてきたのか、お話を伺っています。

【望月陽一郎 先生・略歴】

大分市 中学校教諭(理科担当)。大分県教育センター 情報教育推進担当主事、指導主事、大分県 主幹等を経て、現職。
https://www.facebook.com/yoichiro.mochizuki/about を参照。

今までに取材した

  • 授業でのICT活用のポイント
  • 学校でICT機器を活用する時のポイント
  • 教材作成時に気をつけたい著作権の問題

などについては、「授業に役立つICT活用術 ‐望月陽一郎先生インタビュー まとめ編‐」に(第1回から第6回目まで)に要点をまとめました。

今回は、「授業に役立つタブレット活用術」というテーマで、過去のインタビューをまとめます。

●授業に役立つタブレット活用術

第7回 教育現場のICT活用能力の向上のために

▼教育現場のICT活用能力の向上のために
http://blogs.itmedia.co.jp/kataoka/2014/09/ict-bfdd.html

第7回目は、望月先生が先生方を対象に行っているICT活用法講座(ミニICT講座)を中心に伺いました。

第4回目(教育におけるICT活用事例:「iPad通信」と「ミニICT講座」で伺った「ミニICT講座」はその後、どのように発展したのか。望月先生はどのように工夫・改善されたのでしょうか。具体的なノウハウは、以下の記事で紹介しました。

望月先生 まずは、なぜ校内で「ミニICT講座」をしようと考えたのか、その目的からお話しますね。

学校では、
・効果的な授業を行うこと。
・子どもたちの学力を向上させること。
・情報活用能力をつけさせること。 
などいろいろなことが求められています。

これらを見ても、先生方のICT活用能力向上が必要となりますが、先生方もなかなかそういった研修に行かないというより行けない実態があります。

中学校では、夏季休業中も部活動があったり会議や出張があったりと、なかなかそういう+αの時間がとれません。そうなるとわざわざICTを活用してまではできない、ということになりますね。そのあたりを解決し、眠っている先生方のニーズに応えられないかが、この講座を校内で行ってみた目的です。昨年度も行いましたがけっこう反省もありました(笑)。

先生方のICTスキルへの不安を解消しなければ、授業を工夫するためのICT活用は難しい。そのため、先生方を対象にした校内研修は重要な意味を持ちます。望月先生は2013年夏の取り組みを踏まえて、2014年は新たな工夫をしたミニICT講座を開催されたそうです。

【2013年夏の取り組み】
望月陽一郎先生によるICT機器の活用と啓発の取り組み 2013/08/13
教育におけるICT活用事例:「iPad通信」と「ミニICT講座」について ~望月陽一郎先生のお話より~ 2013/09/14

【2014年夏の取り組み】
教育現場のICT活用能力の向上のために ~望月陽一郎先生のお話より~ 2014/09/01

望月先生 中学校以外の他校種の先生方だと、勤務の実態が違うかもしれません。

そのため、今年度は

・午前、午後の2回 同じ内容で行います。
 ・・・つまりどちらでも自分の都合がよい方に参加できます。
・短時間30分、単発の内容
 ・・・1回完結を強調しました。いつ参加してもOKです。
・(無料)・・・もちろん、有料の講座ではありません。

を事前に「ICT活用通信」で大きくアピールしました。

(中略)

全28回、のべ100名弱でした。昨年度の約倍になりました。負担は大きかったですが、けっこう盛り上がりました。最低1人から行いましたよ。

「参加しやすくする」ための工夫をするだけでも、のべで倍以上の参加者になったとのこと。「iPadを導入された際にiPadに名前をつける」(データ共有の際に役立つ)など、実践的な内容が行われているとのことでした。

活動を定点観測することで見えてくる事実がある、と考えています。可能であれば、望月先生に2015年夏の取り組みも伺いたいと思います。


第8回 学校へのタブレット導入事例

▼学校へのタブレット導入事例
http://blogs.itmedia.co.jp/kataoka/2014/10/post-e66c.html

第8回目は、「タブレットの導入」をテーマにお話を伺いました。望月先生が勤務している市内の中学校のタブレット導入状況(平成25年度)を数値入りで紹介していただきました。

望月先生 私が勤めている学校がある市内では、平成25年度にタブレットが各中学校に導入されました。以下、簡単にまとめてみました。

タブレットの導入状況(平成25年度)

・各中学校にiPadが10台。
 ・・・学校規模に関わらず同じ台数です。

私の勤務校の場合、iPad1台あたりの生徒数は約90名となります。
・各中学校にAppleTVが1台。
 ・・・無線投影のみの想定。10台をセットで使用する。
・充電庫兼収納庫が1つ。
 ・・・鍵がかかる収納庫です。

導入時に問題と感じた点
・指導者が1台使うとして、学習者用が9台となるため、グループでの活用しかできない。
 ・・・30~40人のクラスがあるので、3~4人に1台。
    (1クラスのみ使用するとして)

・プロジェクターや大型テレビは職員室や理科室にあるものの(普通教室にはプロジェクター・テレビは常設されていない)、AppleTVが1台のみでは同時に複数の授業での活用ができない。
 ・・・例えば、指導者用として10クラスで同時に使うことなどは想定されていなかった様子。

・持ち運びが大変。10台を重ねるとかなりの重さであり、不安定。
 ・・・3代目iPad(652g)×10台=6.52kg
    厚さ9.4mm×10台=9.4cm
 ・・・隣の校舎の3階まで、重ねて運ぶのに、落としそうになったこともありました。

・アプリの追加不可。
 ・・・当初入っていたアプリ(iWork、ロイロノートなど)以外は追加してはいけないという指示でした。

上記の現状を踏まえた上で、望月先生はどのような工夫をされたのかを取材しました。まずは先生方が指導者としてiPadを使うための環境作りを行われたそうです。

普通教室での活用を想定して、iPadをどのように利用すればよいのか。ネットワーク環境の整備や、タブレットの管理、アプリのインストールはどう行えばよいのか。難しい技術や特別な機器を利用しなくてもできる方法を紹介していただきました。

【第8回目にお話ししていただいたこと】

  • タブレットの導入状況(平成25年度)
  • 導入時に問題と感じた点
  • 導入されてまず工夫した点
  • タブレットの導入について
  • 有線アダプタについて
  • 運搬ケースについて
  • アプリの活用について
  • タブレットの貸し出しについて

具体例は、「学校へのタブレット導入事例」をご参照くださいね。

第9回 教育現場におけるWindowsタブレット活用事例

▼教育現場におけるWindowsタブレット活用事例
http://blogs.itmedia.co.jp/kataoka/2014/10/post-f66b.html

第9回目は、「Windowsタブレットの活用実践例について」「活用で気になったことについて」を中心に伺いました。

Windowsタブレットの長所の一つに、タブレットでOfficeが使えることが挙げられます。望月先生は理科の授業で、実験した記録をグラフ化して、その特徴を話し合う場面に利用したとのことでした。

▼DiTT「先導先生」
http://ditt.jp/action/case/teacher.html
・取り組み 話し合う・・・③Excelミーティング

  • データを入力していくことでグラフの形ができてくるので、その変化をイメージしやすかったという感想が多かった。
  • Excelシートは入力するだけだったので、集中することができた。
    (シートに制限がかかっていたので入力ミスもしなくてすんだ)
    ※表を作らせたり、グラフを作成させたりするのが授業の目的ではない。

Excelで資料を作ると作ると、グラフ作成だけでなく、シート保護機能や入力規則など細やかな設定ができます。Numbers はMicrosoft Excelとの互換性がありますので、iPhoneやiPadで閲覧することができます。

そして、Windows8からユーザーインターフェイスが大きく変わりました。Windowsタブレットのスタート画面とデスクトップの関係に戸惑う人も多かったのではないでしょうか。

参照元:安定度や高速性はWin 7に優る性能
時代はWindows 8、さらには8.1へ
http://shanimu.com/%E7%89%B9%E9%9B%86/2013/09/part2%E3%80%80windows7%E3%81%8Bwindows8%E3%81%8B.html

しかし、望月先生がされたように「スタート画面」に授業で使うアプリのみ表示させるようにすれば、生徒たちは操作に戸惑いません。できるだけシンプルなアイデアで問題解決すると、他の先生方もまねしやすいのではないかと感じました。

望月先生が感じたWindowsタブレットの課題は、以下のような点でした。

【授業で使う際の課題となりそうな点】

  • スタート画面(タイルが並ぶ)とデスクトップ(従来のWindowsデスクトップ)の関係がわかりにくい。
  • WindowsRTのため、ストアアプリが限定される。(RT対応アプリのみ)また検索画面がAppleのAppStoreより使いにくい。
  • AppleTVのような無線投影ができない。(Surface2から対応)

【iPadの方が優れている点】

  • ホーム画面でのアイコン管理がしやすい。
  • AppStoreアプリが充実している。
  • AppleTVで簡単に無線投影ができる。
  • 機能制限、アクセスガイドなど使いやすい管理機能が充実している。

望月先生:こういったところでしょうか。指導者用・学習者用としても、「使いやすさ」「わかりやすさ」は、限られた時間内に行う授業では大切なポイントといえます。

Windowsもこのあたりを改良していくと、教育用タブレットとしての価値が高くなると思います。

望月先生によると、Surface2と、Net Gear PTV3000という機器の組み合わせでミラーリングできるそうです。

▼Microsoft Surface2
http://www.microsoft.com/surface/ja-jp/products/surface-2

▼Net Gear PTV3000
http://www.netgear.jp/products/details/PTV3000.html

指導者用Surface2をミラーリング活用しているそうです。グループで使っているSurfaceRTをわざわざミラーリングしなくても、そのまま指導者用Surface2カメラで撮影すれば共有できる点に工夫を感じました。


第10回 教育現場における「提示の工夫」 指導者の提示用タブレット編

▼教育現場における「提示の工夫」 指導者の提示用タブレット編
http://blogs.itmedia.co.jp/kataoka/2015/01/post.html

第10回目は、「提示の工夫」をテーマに、実践例について伺いました。

望月先生から以下のような問題提起がありました。

  1. なぜ「指導者の提示用タブレット」からか。
  2. なぜ「大型テレビ」あるいは「プロジェクター」の常設か。
  3. 提示用はタブレットがよいのか。
  4. どんな提示教材を使っているのか。
  5. 提示の際にOSの違いは問題になるのか。

タブレットを学校に導入する際は、「指導者の提示用タブレット」として入れるところから始めるとよいとのことです。その理由として、「指導者が十分タブレットを活用できていなければならないから」だそうです。先生方を対象にした校内研修が大切なのも、頷けます。

小学校と中学校では、環境設定の問題がちがうのではないかとの話もありました。以下のような違いがあるからです。

  • 小学校:担任の先生がクラスに常駐する
  • 中学校:授業をする先生方が次々クラスを移動していく(教科担任制)

また、タブレットの場合、実物投影機+パソコン+電子黒板として活用できることから、予算を効率よく使えます。

望月先生:特別なデジタル教材は使っていませんし、作っていないのです。

このあたりがポイントですね。ICTを活用するのに時間がかかるという誤解を受けやすいのは「デジタル教材の作成は大変」というところから来ていることが多いです。

私は、教科書、ワークシートの拡大(ハンディスキャナでなぞったりそのまま撮影したりした画像)を主に使っています。以前紹介したEpson iProjection というアプリで簡単に書き込みができるので、その場で撮影してもOKですから。

なぜ教科書の画像を使うかというと、子どもたちはタブレットやデジタル教科書がないわけですから、特別な教材を準備するよりも、子どもたちの手元にあるものを大きく映して教材として使う方が理解の助けになるようです。

望月先生は、カメラ機能など各OSに依存しないで利用できる機能を活用しているそうです。OSやアプリに依存しないで授業できる方法を使うと、汎用性が高まります。

  • 子どもたちの手元にあるものを大きく映して教材として使う方が理解の助けになる
  • 特別な教材を作る必要はない

という点は、インタビューの中で特に印象に残りました。

第11回 教育現場における「タブレットのグループ活用」編

▼教育現場における「タブレットのグループ活用」編
http://blogs.itmedia.co.jp/kataoka/2015/02/tablet_gp.html

第11回目は、今回はグループでタブレットを活用するときの工夫、注意点について取材しました。まずタブレット活用において、「一人一台」をめざす動きがあることを伺いました。

望月先生:実際に「一人一台」を試してみるだけのタブレットがないため(学校には、10台のiPadしかまだ導入されていない)、DiTT(デジタル教材教科書協議会 http://ditt.jp/)からiPad、MicrosoftさんからSurfaceを貸与いただいたので、「グループ一台活用」から始めてみました。
(中略)
それ以前から100均のホワイトボードをグループ活用したり、そのホワイトボードを指導者タブレットで投影して共有したりしていたので、「グループ一台活用」も子どもたちは、スムーズに受け入れてくれました。こういう段階を踏むことが導入しやすくするコツかもしれませんね。

また、使ってみて、iPadでもSurfaceでも、活動で使う分にはあまり変わりないこともわかりました。それよりも「使う場面」の設定、授業設計の方が大切です。

「使う場面」の設定、授業設計の方が大切とのこと。生徒用のタブレットを、何人一組で利用したらよいのか、望月先生にお尋ねしました。

望月先生:その後、NECさんからも貸与いただいたので、30人のクラスで「二人一台」15台の活用が可能になりました。ただ、どう使うか、どんな活動の様子になるか授業をイメージしていくと、15ペアの中を自分が一人で動き回らなければならないことに気づいたのです。
(中略)
中学校では教科担任制で複数のクラス、私の場合5クラス、75ペアそれぞれに合わせた指導・配慮が必要になります。授業は教科の目標を達成することがメインであり、タブレットの使い方を行うわけではありませんから、そこに時間が取られては本末転倒になりますね。

補助の先生・ICT支援員がつけば話は別ですが、先生が一人の場合は、ペアが多いと目が行き届きにくくなります。そこで、先生の人数が足りない中で授業を進める場合、どのような工夫をして乗り切ってこられたのかを伺いました。

望月先生の場合は、「グループ二台活用」にする発想に切り替えたとのこと。

  • 画面が見やすくなる
  • わからないときはグループの中で教えてもらうことができやすい
  • 指導する側から見ると、グループ(私の場合、6グループ)の間を動くことになるので、「グループ一台活用」の時と変わらない

というメリットがあったそうです。

「グループ二台活用」の具体的な事例は、教育現場における「タブレットのグループ活用」編 ~望月陽一郎先生のお話より~」をご参照くださいね。

おわりに

今回は、「授業に役立つタブレット活用術」というテーマでまとめました。授業に役立つICT活用術、校内研修、教材の著作権については、「授業に役立つICT活用術 ‐望月陽一郎先生インタビュー まとめ編‐」をご参照くださいね。

2年近くにわたって現場のお話をしてくださった望月先生、大変ありがとうございました。取材してわかったICT活用術、タブレットの活用術が読者の皆さまの実践に役立つことを願っています。

>>「理科の実験におけるICT機器の活用術 ‐中学校教諭・望月陽一郎先生のお話より‐」につづく。

参考記事

先導先生 - DiTT(デジタル教科書教材協議会)
※望月先生の32の取組みが紹介されています。

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このまとめ編では7~11回目のインタビューを紹介しました。以下に、新しいインタビューをご紹介しますね。

編集履歴:2015.12.26 14:39 見出し「関連記事」と「このまとめ編では7~11回目の・・・」以降を追加。

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