アクティブ・ラーニングとICT活用について-中学校教諭・望月陽一郎先生のお話より-
教育現場のICT活用について、現役の先生にインタビュー中
中学校教諭の望月陽一郎先生に、子どもたちが主体的に取り組む授業(環境作り含む)や、授業でのタブレット活用、自作した教材の著作権などを取材しています。
【望月陽一郎 先生・略歴】
大分市 中学校教諭(理科担当)。大分県教育センタ- 情報教育推進担当主事、指導主事、大分県主幹等を経て、現職。
https://www.facebook.com/yoichiro.mochizuki/about を参照。
前回は「子どもたちが主体的に取り組む授業」について質問しました。「ICT活用とジグソー法について-中学校教諭・望月陽一郎先生のお話より-」では、望月先生が理科の授業におけるジグソー法の実践例をお話しいただきました。
先生がジグソー法に取り組んだのは、「アクティブ・ラーニング(子どもが主体的に学びに取り組む)へ向かうための一つの取り組みとして」が理由だったそうです。15回目の今回は、「アクティブ・ラーニング」とそれに伴うICT活用についてお話を伺いたいと思います。
【筆者注】
ジグソー法は「あるテーマについて複数の視点で書かれた資料をグループに分かれて読み、自分なりに納得できた範囲で説明を作って交換し、交換した知識を統合してテーマ全体の理解を構築したり、テーマに関連する課題を解いたりする活動を通して学ぶ、協調的な学習方法」(http://coref.u-tokyo.ac.jp/archives/5515より引用)を指します。
「アクティブ・ラーニング」について、田村 学 文部科学省初等中等教育局視学官は以下のように解説しています(2015年10月時点)。
例えば活用の場面で「より積極的に自分の考えを他者に伝える」、習得の場面で「何のために習得するのか、自身にどのような成長があるかを自覚的に習得する」さらには「個別ではなく子ども同士で教え合う、教えてもらう」といった場面でも、子どもの思考は活性化しています。このような学習の状況を授業場面の中に作っていくことがアクティブ・ラーニングにつながります。
そうすると、これまで国内で積極的に行われてきた授業改善の取り組みは、まさにアクティブ・ラーニングであると言えるのです。特に小学校の先生方は熱心に取り組まれており、例えば問題解決的な学習や発見学習、体験活動やグループディスカッション、ディベートなどさまざまにあります。そういったものもアクティブ・ラーニングに含まれると思いますし、もちろん言語活動もアクティブ・ラーニングの範疇に含まれます(http://www.sky-school-ict.net/shidoyoryo/151218/ より引用)。
先生が考える、アクティブ・ラーニングとは
―前回のジグソー法のインタビューは1日でいいね!が100以上増え、現時点では250いいね!をこえるほど大変反響が大きかったです。ジグソー法への関心がこんなに高いとは驚きました。
望月先生:アクティブ・ラーニングは、こういうコミュニケーション活動のことであるという誤解もまだある、ともいえますね。本来、こういった表面的な手法のことではなく、これらを通して子供たちが授業へ主体的に参加する姿、が、アクティブ・ラーニングだと思うのですけどね。ネット上のタイムラインを見ていると、そういう誤解による?研修会などがまだ多いようです。
―前回のインタビューで、望月先生が「あくまで子どもたちのジグソー活動をサポートする役割として、ICTを活用しています」とおっしゃったことは、授業におけるICT活用について非常に重要なのではないかと感じました。先生は「ICTを使ったアクティブ・ラーニング」について、現在どのように取り組まれていますか?
望月先生:
- 子供たちの実態にあわせたワークシート
- 毎時間のリフレクションシート
- 提示による時間の効率化
- 時計表示による時間の可視化
- 発表時の共有
など、ICTをごく普通に使うことで子供たちのアクティブ化を促しています。さらにこの学期末は、「アンコール授業」の実践に取り組みました
―「アンコール授業」とは、どのような内容ですか。
望月先生:実は今回の定期テストで電気分野の結果がよくなく、子供たちの振り返りも同様であったため、そのあたりをフォローすることができないかと、アイデアを考えたものです。
学期末のまとめの時期に、
- グループごとにアンコールしたい(もう一度授業を受けたい)内容を話し合わせる。
- 各グループからのアピールによって、そのグループにあわせた授業をもう一度行う。
という企画です。
―その企画は子どもたちにとっても嬉しいでしょうね。アンコール授業はどのような段取りで行われたのですか。
望月先生:通常の授業と並行しながら12月1週目に「学期末にアンコール授業を行うこと」を予告し、主旨を説明しました。
2週目の授業時には、
- アンコールしたい(もう一度授業を受けたい)内容の個人調査を実施(簡単なアンケート)。
- 次の時間の始めに、アンケート結果をグラフで提示。
3週目、授業進度のめどがついたところで、
- アンコールしたい内容についてグループで話し合い、先生へのアピール文を作成し、グループごとに公開アピール。
一種の公開プレゼンテーションですね。この際には、アピール文をその場で写し、テレビに大きく映しながら、みんなの前で代表者がアピールを行いました。
その次の本番(アンコール授業)では、1時間の中で、
- グループごとにアンコールされた内容の授業。
を、授業しているクラスすべてに行いました。
―なるほど。子どもたち自身に聴きたいことの優先順位を考えさせる(絞らせる)のですね。段取りがとても丁寧で驚きました。最初に予告した上で、子どもたちへの聞き取り調査→子どもたち自身によるアピール文作成→授業へともっていくのはうまいなあと感じました。このように段階を踏んでいけば、子どもたちが主体的に取り組もうとするでしょうから。
先生の「アンコール授業」形式だとグループごとに知りたい内容を教えてもらえるから、子どもたちのやる気が出たでしょうね。
訊いてみたい点は1グループにどれくらいの時間を取ったか、です。望月先生のように経験豊富ならば問題ないと思うのですが、私の場合は時間配分をどれくらいにしたらよいのかで迷うと思います。時間配分をうまくとらないと、複数グループへの授業が1時間で納まらないような気がします。
望月先生:そこも事前に示唆しました。
- 1グループだと 50/6=8分ずつになる。
- 2グループ同じ内容だと、合わせて行えば16分になる。
という。グループ合同で行うには、グループ間で合意ができ、それをアピール文に入れること、を条件としました。
機会は一回なので、自分たちにとってどの部分が必要なのか、どうアピールすればよいのかしっかり考えさせ、話合わせようとしたのです。そういう姿が、本当のアクティブ・ラーニングだと思うのですけどね。
―「自分たちに何が必要なのか考えなさい」と言われたら、子どもたちは真剣に取り組みそうですね。
望月先生:アンコール授業では、
- それぞれのグループの要望に応じたワークシートを別々に準備。(事前)
- 順番を提示し、自分たちの番以外のグループは教えあいを行うよう指示。
- 最初の班から、教卓の前に集まりワークシートを受け取り着席。テレビに大きく映したワークシートに私が書き込みながら説明。ワークシートに書き込んだり私の話からメモをとったりしていく子供たちに、その場で質問や問題を出しながら受け答え。
- 時間が来たら次のグループに交替。終わったグループは、他の部分などの教えあいに移行。
50分で4~6種類の授業を行いました。
―この取り組みをやってみた子供たちの感想はいかがでしたか。
望月先生:リフレクションシートの感想は、もう一度受けることができわかった。少人数・短時間でとても集中できた。機会があるならもう一度アンコール授業をしてほしい、などが多く見られました。アクティブ・ラーニングに近づけたのではないかと思います。
―子どもたちが"アクティブ・ラーナー"になるとは、このようなことを言うのでしょうね。子どもたちの熱気や様子が私にも伝わってきました。最後にこのインタビューを読んでいる先生方に向けて、アンコール授業に取り組んでみた結果とまとめをお願いできますか。
望月先生:アンコール授業は、私にとっても子供たちにとっても必然から企画したものです。
- 前回のジグソー法と同じで、まとめの場面だからこそできる。
- 通常の授業と並行して1ヶ月前から少しずつ組み込んできた。
- 個人の希望から始まりグループの話し合い(考えをまとめる)に進めてきた。
- 「アピール」がプレゼンテーションのよい機会になった。
- アンコール授業という少人数で集中したことが、授業に向かう姿勢の再確認になった。
などが結果としていえるのではないかと思います。
【筆者注】前回のジグソー法については、「ICT活用とジグソー法について-中学校教諭・望月陽一郎先生のお話より-」をご参照ください。
―望月先生、ありがとうございました。このやり方だと、他の教科でも行えそうですね。
望月先生:「汎用性がありますね」と、このアンコール授業を紹介した先生方みなさんから言われました。もちろんどの場面でもICT活用をさりげなくしているのはいうまでもありません。毎時間活用しているので、子供たちも十分メリットがわかっていますから。
―「ICTはあくまでもさりげなく使う」のが大事だな、と先生のお話を聴いていて感じました。子どもたち(児童・生徒)が主体的に授業に参加することが本来の目的ですから。
前回お話しいただいたジグソー法など、コミュニケーション活動を通した授業への主体的な参加がアクティブ・ラーニングであるという点が肝なのかなと理解しました。コミュニケーション活動(ジグソー法など)を行えばアクティブ・ラーニングになるわけではない点を失念しないようにしなくては、と身が引き締まりました。ありがとうございました。
まとめ
今回は、「子どもたちが取り組みやすい授業」の続きとして、理科の授業におけるアクティブ・ラーニングに向けた取組について伺いました。「ICTをさりげなく使う」という点が重要なのではないか、とインタビューを行いながら感じました。
ジグソー法やICT利活用はあくまでも手段・ツールに過ぎません。ツールを使うことがメインになってしまうと、本末転倒な授業になりかねませんから。
私の中学生時代(二十数年くらい前)の話になってしまいますが、電気分野はまぎらわしい様々な要素が連続して授業に登場したので、非常にややこしかったです。回路・電流・電圧の時に直列・並列回路が出てきたまではよかったのですが、熱量、静電気、磁界などいろいろな要素の区別がつきにくくてまいりました。
しかも、「フレミングの左手の法則」「フレミング右手の法則」の違いはさらにややこしいですし・・・。当時、私のクラスを担当してくださった理科の先生もさまざまな工夫をしていた記憶があります。
京都理科大学の「フォーラム理科教育 No.6」に掲載された「中学校理科第1分野-電気-に関する理解度調査」には、
特に豆電球や電圧計、電流計などを含む電気回路の接続に関しては高校生、大学生ともに理解度は非常に低かった。基本的なことがらについての理解を深める学習が必要である(http://natsci.kyokyo-u.ac.jp/~rigaku/forum/6gou/6gou19-30.pdf p.19より引用)
と書かれています。P.28からp.30に調査結果が載っています。
教える教師の側からしても大変な分野ではないかと感じました。望月先生をはじめとする先生方のご苦労・ご苦心が調査結果からも伝わってきました。
2013年6月から望月先生のインタビューを始めました。先生のお話が尽きず、15回目まで続けることができました。来年で3年目に突入するとは、思いもよりませんでした。取材を受けて下さっている望月先生や、インタビューを読んで下さっている皆さまがあってのことだと思います。大変ありがとうございます。
2015年の締めとして、「ICTを活用して効果的にアクティブ・ラーニングに近づく」をお題にお話ししていただきました。実際に子どもたちと向き合っている学校の先生ならではの事例を、来年も質問していければと考えています。この記事が、読者の皆さまの授業作りのご参考になる事を、願っております。
>>「アクティブ・ラーニング(子供たちが学びに向かう姿)の視点からの授業改善(その1)」につづく
参照記事
▼学習指導要領の改訂の方向性とアクティブ・ラーニング - 学校とICT
http://www.sky-school-ict.net/shidoyoryo/151218/
▼沖花彰、辻井智子「中学校理科第1分野-電気-に関する理解度調査」(「フォーラム理科教育」No.6 2004)
http://natsci.kyokyo-u.ac.jp/~rigaku/forum/6gou/6gou19-30.pdf
▼中学理科の電気分野の公式総まとめ! - 塾講師station
http://www.juku.st/info/entry/537
参考記事
先導先生 - DiTT(デジタル教科書教材協議会)
※望月先生の32の取組みが紹介されています。
まとめ記事
今までに取材した「授業でのICT活用のポイント」「学校でICT機器を活用する時のポイント」「教材作成時に気をつけたい著作権の問題」などについては、以下の記事にポイントをまとめました。ぜひご参考にされてくださいね。
※インタビューの第1回目から11回目をまとめています。
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