学校における著作権について(2)
情報教育に関するさまざまな取り組みをされている望月陽一郎 先生に、2013年から教育現場の状況や先生のお考えについてインタビュー形式で伺っています。今回は望月先生が独自に調査された「生成AIの活用についてのアンケート」を踏まえ、「学校における著作権について」をお聞きします。
【望月先生 プロフィール】
大分県立芸術文化短期大学非常勤講師。Forbes Japan電子版オフィシャルコラムニスト。公立中学校理科教諭(理科)・大分県教育センター指導主事(情報教育)などを経験されています。自作の「micro:bit『サンプルプログラミング集』」などをサイトにて公開されています。
望月陽一郎 個人サイト:http://mochizuki.net/
著作権に関する誤解について
―前回の続きとして、今回も引き続き「学校における著作権」というテーマでお伺いしたいです。
望月先生の調査では「小テスト4-1 学校のHPに子供たちの合唱を紹介したら、外部から異を唱えられた。問題があるか」の「問題がある」が81.6%、「問題はない」が18.4%となっていました。
「学校のHPに子供たちの合唱を紹介したら、外部から異を唱えられた。問題があるか」
(2024年6月)n=125
―これは「問題がある」のですよね?
望月先生:ChatGPT4oに先生方の意見を分類させたところ、
- 肖像権の問題
- 著作権の問題
- 個人情報保護の問題
の3つが挙がりました。
著作権だけで見ても「問題がある」と十分思われます。
―どんな問題が考えられるのでしょうか?
望月先生:肖像権についていえば、この文章だけでは、「子どもの映像を公開すること」について本人・保護者に許諾をいただいたかわかりません。
また、名前等の個人情報の漏洩の可能性も考えられます。回答者の先生方が書いた記述の中にもこれらが多く書かれていました。
回答者の多くが「慎重に扱う事例だと判断している」ことがわかります。
―問題はないという先生方の回答はどんな理由を書いていたのでしょうか。
望月先生:
- 授業として行ったものであるから。
- 教育活動の紹介で利益誘導等もないから。
- 教育機関における複製等にあたるから。
- 営利目的でなければ問題ない。
- 場合による。該当市がSARTRAS(サートラス)に加入していればよい。
などがありました。
まず「学校のHPに公開することは、授業中とはいえない」ということを前提に考える必要があります。
公開対象は、授業を受ける子どもではなく、一般(不特定多数)となること。
授業のための配信ともいえないこと。
などから、著作権法35条「教育機関における複製等」にあたらないと思われます。
―「SARTRAS(サートラス)」とは何ですか。
望月先生:一般社団法人授業目的公衆送信補償金等管理協会といって、「授業目的公衆送信補償金制度」について扱っていますね。
「授業目的公衆送信補償金制度」とは、2018年5月の著作権法改正で、これまで認められていた遠隔合同授業(同時に授業を受ける)以外での公衆送信についても「補償金」を支払うことで無許諾で行うことが可能となったわけです。
具体的には、予習・復習用に他人の著作物を用いて作成した教材を生徒の端末に送信したり、サーバにアップロードしたりすることなどがサイトに説明されています。
これが注目されたのは、
- オンライン授業
- GIGAスクール端末
が日常的になってきたからですね。
―なるほど、そうすると「SARTRAS(サートラス)に加入していればよい」ことにはならないですよね。授業ではありませんから。
―これは私が思ったことですが、「校歌をうたっている様子の動画をホームページに載せるのはOKか」については大丈夫なのでしょうか?生徒や保護者の許可を取ることは可能かと思いますが、校歌はJASRAC等に申請許可を取るものではないような気がしました。
望月先生:まず、JASRCのHPを見ると、
「学校のホームページで、音楽を流したり、歌詞や楽譜を載せる場合には手続きが必要となります。」とあります。また、「学校のホームページに、JASRACが著作権を管理する校歌を掲載する場合は、著作者から特段の申し出がない限り、所定の申込書をご提出いただくことで、当分の間使用料を免除しています。」と書かれています。
該当ページ
https://www.jasrac.or.jp/users/education/
つまり、JASRACが著作権を管理するしないにかかわらず、学校HPに歌詞を載せたり動画を公開するには「手続きが必要」であること、そして、JASRACが著作権を管理する校歌については、「手続きをすれば使用料が免除される」ということですね。
―そうすると、現在HPに校歌の歌詞などを公開している学校はそうした手続きをしているということですね。
望月先生:そうなりますね。校歌の掲載については、私もJASRACから各学校に送られた文書を見たことがあります。著作権法には罰則規定があるので、著作権だけ見ても慎重に扱う必要があります。
―「小テスト5-1 学校要覧に学校へのアクセスを載せるため、地図をコピーして書き込んだ。問題があるか」の「問題がある」が79.2%、「問題はない」が20.8%となっていました。
「学校要覧にアクセスを載せるため、地図をコピーして書き込んだ。問題があるか」
(2024年6月)n=125
「問題がある」と回答された先生方の意見を見させていただきましたが、「市販の地図には著作権があるから」「教育機関における例外規定の範囲外となる可能性が高いから」「学校要覧は教材ではない。」「Googleであれば、許可を取るかQRコードを貼る必要がある」等がありました。
「問題がない」と回答された先生方の意見には、
- 地図によるが、出典が明記されれば問題ない。
- どの学校でも使用しているため。
- 地図には著作権がないから。
- 業務での使用のため。
などがありました。私が見ても大丈夫かな、と思われますが、どうなのでしょうか?
望月先生:ChatGPT4oに、明らかに間違いである理由を回答させましたが、
・地図によるが、出典が明記されれば問題ない。
・・・ 出典を明らかにするだけでは、著作権侵害を回避できない場合がある。著作権者の許諾が必要。
・どの学校でも使用しているため。
・・・他の場所で使用されているからといって、著作権侵害が正当化されるわけではない。
・地図には著作権がないから。
・・・地図にも著作権があるため、これは誤った情報。
・業務での使用のため。
・・・業務での使用であっても、著作権の侵害が問題となる場合がある。
回答を普通に読んでも、問題が十分考えられることがわかりますね。
―前回からここまでいろいろな小テストの結果を見せていただきましたが、本来ならばすべての小テストの正解率が100%になってほしいところですが、予想以上に誤った認識をしている先生方がいらっしゃると思いました。
―また、「『生成AI活用における著作権』についての研修を実施したり、受けたりしたことがあるか」という質問については、「ある」が22.4%、「ない」が77.6%でした。
「『生成AI活用における著作権』について研修を実施したり受けたりしたことがあるか」
(2024年6月)n=125
望月先生:そうですね。学校における著作権に対する研修もそうですが、生成AI活用については、生成AIと著作権との関係について十分理解することが、活用への不安感をなくしていくことにつながると思います。
―前々回に紹介した「学校では、生成AIを活用しているか」で、何らかの形で活用している人が55.2%だったことを踏まえると、まずは、研修を実施・受講できる場づくりが大切ですね。
―今回もアンケートによる調査結果をもとに、色々なお話をしてくださり大変ありがとうございました。望月先生のお話がこの記事を読んでくださった皆様の参考になることを願っています。
>>「これからの『学校における生成AIの活用』について」に続く(2024年12月公開予定)