これからの『学校における生成AIの活用』について
情報教育に関するさまざまな取り組みをされている望月陽一郎 先生に、2013年から教育現場の状況や先生のお考えについてインタビュー形式で伺っています。今回は望月先生が独自に調査された「生成AIの活用についてのアンケート」を踏まえ、「これからの学校における生成AIの活用について」をお聞きします。
【望月先生 プロフィール】
大分県立芸術文化短期大学非常勤講師。Forbes Japan電子版オフィシャルコラムニスト。公立中学校理科教諭(理科)・大分県教育センター指導主事(情報教育)などを経験されています。自作の「micro:bit『サンプルプログラミング集』」などをサイトにて公開されています。
望月陽一郎 個人サイト:http://mochizuki.net/
なぜ生成AIを活用したいのか
―今回は学校で生成AIを活用する予定はあるのか、もしするとしたらなぜ必要なのかというテーマでお伺いしたいです。
望月先生:今回とったアンケートについては、学校としてどうするかではなく、回答者である先生個人の立場で回答しているので、その視点から話しますね。
―承知しました。ではまず、望月先生の調査では「これからも、あるいはこれから、学校で『生成AI』を活用していくか」という質問に対して、「活用する。活用予定である。」が61.6%、「活用するかもしれない」が28.8%となっており、約9割の方が、学校でこれからも生成AIを活用する・もしくは今後活用したいと考えていることがわかりました。
望月先生:そうですね。現在の活用状況では、回答者のうち半数ちょっとがすでに授業あるいは校務ですでに活用しているので、それらの方は使い続けると思いますし、さらに今後は使っていくと考えている方もいるようです。
「活用するかもしれない」と回答している方については、選択肢の「まだ活用しないと思う」「活用するつもりではない」ということではないという人も含まれているでしょう。
―そうですね。アンケートの記述で「活用する。活用予定である。」と回答した方の理由を見ると、
- 校務の効率化
- 働き方改革
- 利便性
- 教育の必要性
- 業務効率化
- 未来のため
などが書かれていました。
望月先生:全体的には、校務で活用したいということだと思います。すでに校務などで活用している方が半数以上いるので、校務で活用することのメリットがわかっているということでしょう。
「教育の必要性」「未来のため」については、子どもたちがこれから生きていく社会では、これまでのAIに加えて「生成AI」を活用していかねばならないので、その力をつけている必要があると考えているのだと思います。
―「活用するかもしれない」と回答した方の理由も傾向は同じですね。
また、「組織的な課題」として、「校長があまりICTに興味がない」という回答がありました。昨年のインタビューで紹介したように生成AIを活用するための文部科学省のガイドラインがありますが、行政としては校長先生に働きかけをしていないということなのでしょうか。
望月先生:先月末、生成AI利活用に関するウェビナーの講師をさせていただきましたが、対象のメインは「学校の管理職」「教育委員会所属の方」でした。活用していない理由に、「教育委員会・管理職から禁止されている」という回答がありましたから、まずそこから理解をすすめてもらいたいと思っています。
―なるほど、そうなんですね。そのウェビナーではどんなことを話されたのですか。
望月先生:このアンケートによる「学校における生成AIの活用状況」そしてこのシリーズでも話しましたが、「学校における著作権」についての小テスト。これは参加者にもリアルタイムで回答してもらいました。
―リアルタイム。それは参加者もいきなりで頭をひねったのでしょうね。結果はどうでしたか。
望月先生:アンケートでの小テスト結果とほぼ同じでした。学校における著作権について理解できている方が約3/4くらいでした。対象者が全然別ということを考えると、アンケート結果も含めて全体の傾向も同じであろうと想像できますね。
この傾向から、「著作権についての研修」が今後も必要なことがわかります。
また、11/26に文科省で行われた会議の資料で公開されている「生成AI利活用に関するガイドライン(素案)」についても取り上げました。
―それは最新の情報ですね。素案ということは、これまでのガイドラインが改定されるのでしょうか。
望月先生:2023年7月に公開されているものは「生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン」でしたから、今回の素案からつくられるものが第1版となるかもしれませんね。
―回答している先生方の不安の中に生成AIの回答の「真偽を確かめられる仕組みが必要」という声がありました。望月先生は生成AIの回答の真偽を確かめるために、どのような工夫をされていますか?
望月先生:ネット検索してでてきたたくさんの情報には、正しい情報、正しくない情報があります。これまでどのように真偽を確かめてきましたか?生成AIは過去の学習データから回答を生成しているということが違うだけなので、同じように、ひとつだけでなく複数の回答で確認しますし、真偽が必要な場合はネット検索をすることが多いですね。
私が生成AIを使うのは、
- 自分で書いた文書の校正
- 文科省などの資料などと比較して文書が適切であるか判断させる
などが多いので、ゼロから生成させることがほぼありません。生成AIにはハルシネーション(人工知能(AI)が事実に基づかない情報や、存在しない情報を生成する現象)が起こる可能性があるという前提で使わないといけませんよね。
子どもたちに対して、そういった説明をするのは先生方の役割のひとつでしょう。そのためにもまず先生方の研修が大切ですね。
―「学校における生成AI活用について、不安に感じること」として、
- 生成AIに頼りすぎることに関する懸念
- 誤情報・情報の正確性に関する懸念
- 個人情報・プライバシーに関する懸念
- 教員・保護者のリテラシーと指導に関する懸念
- 技術とセキュリティに関する懸念
- 教育の格差に関する懸念
などが挙げられています。
望月先生:最初の「生成AIに頼りすぎること」を「ネットに頼りすぎること」に置き換えるとわかりますが、これはインターネットの活用が広がってきたときに似ていますよね。
「新しい技術に対する不安」といえます。これから徐々に活用が広がっていくことでネットの利活用のレベルになっていくのだと思います。
―なるほどそうですね。
「そのほかの懸念」として、「不適切な画像等の生成」も挙げられていました。たしかにインターネット上のニュースやSNSでは、依頼されたものを忠実に描くイラストレーターが失業したという例が話題になっていました。
【参考】
「AIで仕事失いました」あなたの働き方が変わる? NHK
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230907/k10014184151000.html
米アドビの生成AI、Fireflyの衝撃 クリエーターの失業は増えるか 日経ビジネス
https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00342/070600107/
望月先生:Adobe Fireflyは私も使っています。「商用利用可」と生成AIユーザーガイドラインに書かれていますね。
―最後に、「生成AI活用の現状について」シリーズのまとめをお願いできましたら幸いです。
望月先生:文科省の活用に関する暫定ガイドラインが公開されて、1年以上になりますが、まだまだ学校では先生方向けの研修すら行われていない現状があります。忙しい中で研修を行うことは難しいということもあるでしょうが、生成AIを適切に活用することで、
- 校務の効率化
- 子どもたちが将来使うであろう力の育成
- 授業で活用することで、子どもたちの視野を広げる可能性
が考えられます。
学校外の方々も、それらを理解いただき、一緒に進めていきたいですね。
―ご回答をありがとうございます。生成AIの学校での活用は少しずつ進んでいること、先生方の認識等がわかる興味深いインタビューになりました。お話しくださった、望月先生、大変ありがとうございました。
もし学校における生成AIの活用が地域によって差が出てしまうと、子供たちの未来に影響が出かねないので、活用事例が増えて先生方に普及する、研修が増える等、先生方のご負担が減るように願っています。
そして、今回で学校における生成AIの活用に関するシリーズは最後となります。多くの方々に読んでいただき感謝します。ありがとうございました。