教育におけるICT活用事例:「iPad通信」と「ミニICT講座」について ~望月陽一郎先生のお話より~
現役の先生に教育現場のICT活用について伺いました
大分県の中学校で教諭をされていらっしゃる望月陽一郎先生に、教育におけるICTを学校現場でどのように実践されてきたのか、お話を伺っています。
【望月陽一郎 先生・略歴】
大分市 中学校教諭(理科担当)。大分県教育センター 情報教育推進担当主事、指導主事、大分県 主幹等を経て、現職。
https://www.facebook.com/yoichiro.mochizuki/about を参照。
前回は「望月先生が実践された学校でのICT機器、啓発について」がテーマでした。
今までに
- 望月先生の学校におけるICT活用実例(1980年代から2000年代まで)
- 授業でのICT活用のポイント
- 学校でICT機器を活用する時のポイント
などを伺いました。
今回は「教室でICT機器を活用する時のポイント」など、望月先生が実践されている「学校の授業でICT機器を活用する時の工夫」などについて伺いました。
学校のICT環境について
--ありがとうございます。それでは今回の記事でお伺いしたい中心は、先生が取り組まれた「iPad通信」「ミニICT講座」のお話です。お話を伺わせてください。
DiTTの先導先生にも概要が紹介されています( http://ditt.jp/action/case/teacher.html )が、ITmediaの読者に「iPad通信」と「ミニICT講座」の概要を説明してもらってよろしいでしょうか?
望月 先生:まずはあまり知られていないようなのですが、学校のICT環境などから話さないといけませんね。
--それでは環境の説明からお願いしてもよろしいですか?
望月 先生:うちの学校では、先生方1人1人に校務用パソコンが配布されています。
校務用パソコンはセキュリティ保護のため、職員室の机に固定されていて、持ち出しはできません。
--なるほど。学校だけにセキュリティが厳しいのですね。職員室から持ち出しができないということは、授業でパソコンを使いたいならばパソコンルームに行くしかないのでしょうか? 面倒な感じですね。iPadを授業で使う試みの先生が目につくのもそのためでしょうか?
望月 先生:コンピュータ室とは別に授業用パソコンは以前から数台あります。
--そうなのですね。
望月 先生:今回の更新では、教室で使うための授業用パソコンは導入されませんでした。コンピュータ室は以前から1教室あります。
--授業用パソコンが数台で、コンピュータ室が1つのみとなると、先生がたが相談しながらでないとダブルブッキングしそうです。うまく使うのは大変そうですね。
望月 先生:学級数は、特別支援学級を含めて30学級近くですからけっこう大変です。
--だいぶ足りない印象を受けました。どの学校も少ない台数でやりくりされているのでしょうか? やりくりだけでも大変そうですね。
望月 先生:導入台数やコンピュータ室の数は、大きい学校も小さい学校もほぼ同じだと思います。
--そうでしたか! てっきり生徒数に応じて台数が割り当てられるのかと思っていました。
望月 先生:先生方の人数は、60人弱です。電子黒板は1台ありますね。
--全然足りない印象がします。生徒数が少ない学校の方がICT機器を、いくぶん余裕を持って使えていいのかな? という印象さえ受けました。電子黒板が1台では足りないのではないでしょうか?
望月 先生:電子黒板はテレビ一体型なので、重く大きくて、そのフロアしか動かすことができません。当然のことですが、電子黒板だけではただのモニターでしかないので、専用ソフトがインストールされたパソコンをつながないといけません。
--なるほど。
望月 先生:昨年度までは、授業用パソコンが数台稼働できる環境だったのですが、今年度は、iPadが10台導入されたので、これを機会にICT活用をすすめるべきだと考えました。
--意外と知られていない学校の環境の事を教えていただいて、ありがとうございます。
望月 先生:これまでなかなか教室でICT機器を活用した授業をする環境がなかったわけですから、先生方もデジタルではなくアナログの教材をあれこれ工夫してきました。工夫せざるをえなかったわけです。
--なるほど。
望月 先生:そこにiPadが導入されたわけですから、さあ使いましょうと言っても、なかなか難しいと思います。
--それはそうですね。
iPad通信の活用
望月 先生:そこでまず私が取り組んだのは、
- 自分自身がiPadの活用に慣れること。
- iPad活用のメリットデメリットを明らかにする。
ことからでした。
--なるほど。
望月 先生:これまで市内には導入されていなかったものなので、実践例自体がないのですから。
そして、自分が使った結果やわかったことなどを、校長先生の許可をもらい、「通信」の形で少しずつ先生方にお知らせすることを始めました。
それが「授業におけるiPad活用」通信、通称「iPad通信」です。
--そうでしたか!
望月 先生:職員室内で1枚ずつ配りながら、先生方と会話もできます。実際には個人でiPhoneを使ったり、iPadを持っていたりという先生はいらっしゃいますし。
--個人でiPhoneやiPadをお持ちの先生がたは多いのですね。それならば「iPad通信」は先生がたにとって便利なものでしょうね。
望月 先生:いわゆる掲示板機能などの校務支援システムを使うべきだという意見もありますが、私は、実際に話をしてまわることの方がとても有効だと思います。
--そうですね。大事なことだと、私見ですが思います。
望月 先生:1学期は理科の授業の中でiPadのグループ活用に取り組んできましたが、1学期の後半からは、iPad10台をまとめて使うのではなく、より活用を広げるため、10台のiPadを指導者用として「10人の先生に使ってもらう」ように発想を変えました。グループ活用をするためには、まず先生方自身が「授業でiPadを活用する」ことに慣れてもらう必要があるからです。
--いろいろな先生がたに使っていただくのは素晴らしいですね。
望月 先生:そうでないと、10台をまとめて使う段階にはいたりませんよね。
--確かにそうですね。
望月 先生:また、10台をまとめて使うと1クラスでしか活用できませんが、1台ずつだと10クラスで使うことができます。
--そうですね。私見ですが、普及・共有するために有効な方法だと感じました。
望月 先生:10倍の活用が可能になりますね。
--そうですね。
ミニICT講座について
望月 先生:有効な手段であれば授業で活用したいという先生が多いのが現実です。ただ、そうはいっても現実にはなかなか研修する時間がふだんとれません。
そこで、夏季休業中の少しまとまった時間がとれるときを使って、「ミニICT講座」を考えました。
--そうでしたか。
望月 先生:生徒が夏休みの間も、先生方は毎日出勤しています。部活動の指導・研修会への出張・会議への参加など。
--学校の先生方はそんなに忙しいのですね。びっくりしました。
望月 先生:その隙間をぬって1回30分の講座を12回ほど持ちました。
--休みが取れない状況でも講座を行われたとは、取り組みへの意欲が素晴らしいですね。
望月 先生:12回といっても合計6時間ほどです。まる1日くらいです。
こうした取り組みで大切だと思うポイントは、
- 回数と内容。
できるだけ多くの先生方に参加してもらうきっかけづくりにするため、
- 1回の所要時間が短いこと。
- 1回だけの参加でも内容がわかること。
を大きくアピールしました。できるだけ参加しやすいようにと。
--参加しやすいのは大事ですよね。
望月 先生:内容は、
- 校務で使うExcelの活用
- 情報モラル
- 電子黒板
そしてiPadの使い方 などにしました。
--どれも現場で役立ちそうですね。
望月 先生:12回で最終的にのべ50名以上の参加でしたが、複数の回に参加された先生がいるので実質は20人弱です。
--そうでしたか。
望月 先生:先生方の1/3くらいですね。既に活用できる先生方もいらっしゃるので、活用できる先生は増えたと思います。100%をめざすのではなく100%に近づけることが目標です。
--1/3の先生がたが参加されたならば、十分多いような気がします。確かに、いかに100%に近づけるかが大事ですね。
望月 先生:その結果、2学期からは、指導者用として新たにiPadを授業で使いたいという先生が増えました。また、文化発表会で生徒に活用させたいという申し込みもあります。
--新しく授業で使いたい先生が出てこられたとは素晴らしいですね。文化祭でiPadを使うアイデアもいいですね。
望月 先生:おかげで、逆にiPad10台をまとめて1クラスで活用することができなくなってしまいましたが、それはそれでよいことだと思います。学校で、AppleTVなど提示のための周辺機器が1台しか導入されていないので追加購入をしてもらいました。少しずつですが、活用が進んでいくと思います。
--大変素晴らしい取り組みですね。貴重な話をありがとうございました。
おわりに
今まで四回にわたり、望月陽一郎先生のお話を伺いました。夏休みが終わりましたので、今後は望月先生のご都合がついた時に適宜、お届けできればと思います。
教育とICTについて、現役の先生からためになるお話をたくさん、伺う事ができました。お話してくださった望月先生、読んでくださった皆様、ありがとうございました。
>>「教材を作る際、著作権についてどのようなことに注意しているか ~望月陽一郎先生のお話より~」に続く
参考記事
先導先生 - DiTT(デジタル教科書教材協議会)
※望月先生の32の取組みが紹介されています。
関連記事
今までに取材した望月先生のインタビューをリスト化しました。この記事は第4回目のインタビューです。
- 教育とICTを学校現場で実践する取り組み ~望月陽一郎先生のお話より~
- 授業を工夫するためにICTを活用する -望月陽一郎 先生-授業で工夫しているICT活用ポイントとは?-
- 望月先生:先生:陽一郎先生によるICT機器の活用と啓発の取り組み
- 教育におけるICT活用事例:「iPad通信」と「ミニICT講座」について ~望月陽一郎先生のお話より~
- 教材を作る際、著作権についてどのようなことに注意しているか ~望月陽一郎先生のお話より~
- 教材やコンテンツを制作する際、実際に許諾を取った例 ~望月陽一郎先生のお話より~
- 教育現場のICT活用能力の向上のために ~望月陽一郎先生のお話より~
- 学校へのタブレット導入事例 ~望月陽一郎先生のお話より~
- 教育現場におけるWindowsタブレット活用事例 ~望月陽一郎先生のお話より~
- 教育現場における「提示の工夫」 指導者の提示用タブレット・編 ~望月陽一郎先生のお話より~
- 教育現場における「タブレットのグループ活用」編 ~望月陽一郎先生のお話より~
- 理科の実験におけるICT機器の活用術 ‐中学校教諭・望月陽一郎先生のお話より‐
- デジタル教材「ランダムフラッシュカード」-中学校教諭・望月陽一郎先生のお話より-
- ICT活用とジグソー法について-中学校教諭・望月陽一郎先生のお話より-
- アクティブ・ラーニングとICT活用について-中学校教諭・望月陽一郎先生のお話より-
編集履歴:2015.12.26 15:04 関連記事の部分に「今までに取材した望月先生の・・・」を追加。