教育とICTを学校現場で実践する取り組み ~望月陽一郎先生のお話より~
現役の先生に教育現場のICT活用について伺いました
大分県の中学校で教諭をされていらっしゃる望月陽一郎先生に教育とICTを学校現場でどのように実践されてきたのか、お話を伺いました。望月先生は1980年代後半から現在まで、学校現場でITの活用に取り組まれていらっしゃいます。
【望月陽一郎先生・略歴】
大分市 中学校教諭(理科担当)。大分県教育センター 情報教育推進担当主事、指導主事、大分県 主幹等を経て、現職。
https://www.facebook.com/yoichiro.mochizuki/about を参照。
私が伺ってみたいこととして望月先生には
○現状について
- 先生の情報教育に関する略歴
- 学校でのICT活用について
- 先生が授業で工夫しているポイント
等をお願いしました。
第1回めは望月先生が実践された学校でのICT活用についてお話を伺いました。
1980年代以降の学校でのICT活用について
--今日は先生の学校での取り組みを中心にお話を伺えればと思っています。よろしくお願いいたします。まず大分市で教諭になられたあとに大分県教育センターに異動されています。学校でのICT活用に取り組まれたのは、教育センターへの異動がきっかけになられたということでしょうか?
望月先生:それは逆ですね。学校現場で視聴覚・情報教育などICT活用を進めてから、教育センターに異動したということになると思います。
--なるほど。それでは大分市で教諭をされていた時から視聴覚・情報教育を担当されていたのですね。先生は理科と兼任されていたということでしょうか?
望月先生:理科の授業担当と、視聴覚・情報教育の担当という意味合いは違います。
佐賀関町立佐賀関中学校時代から、
- 学校の視聴覚担当
という校内分掌を担当していました。それ以前にPCを初めてさわったのは、1984年頃。最初は大学時代ですね。
--そうだったのですね。年代もおしえてくださってありがとうございます。1984年だとまだDOSの時代ですよね。先生はDOSのPCを使われていましたか?それともMacintoshを使われていましたか?
望月先生:DOSではなく、まだBASICの時代です。大学の研究室にあったPC8801を使わせてもらい、研究の一環として、アメダス(地域気象観測システム)のデータ解析プログラムなどを自作しました。付属のマニュアルしかなかったので、独学でした。
--失礼いたしました。1980年代からプログラミングをされていたのですね。今でもプログラミングはされますか?
望月先生:今は仕事が忙しくて、プログラミングする暇はないですね。する必要性も、実は感じていません。今は自分でプログラムする時代ではなく、すでにある教材データをアプリを使ってどう活用するか。それがメインの使い方でしょう。
--確かにデータをアプリでどう使うかは大事ですよね。教材はプログラミングを組んで作られたりするのかな、と思っていました。「アプリを使って」ということでよろしいのでしょうか?
望月先生:デジタル教材を使うことはあっても、指導者がわざわざプログラミングする必要はないと思います。逆に質問すれば、そういう例がありますでしょうか?
--Excelのマクロで教材を作られている学校の先生のサイトを見かけたので、簡単なプログラミングをされる先生もいるのかなと思った次第です。私が見かけたのはVBAでした。
望月先生:毎回の授業のために、わざわざマクロで教材を組むのは大変です。私が理想としているのは、あまりICTに詳しくない先生でも取り組むことができる活用です。ExcelのVBA(VisualBasic for Aplication プログラム言語)は、習得にも作成にもそれなりの時間が必要です。毎時間の授業のために組むようなものではないと思います。
--詳しくない先生も取り組むことができるという点は非常に大切ですよね。
望月先生:私もVBAの研修講師をしていましたので、プログラミングする大変さは実感しています。
--VBAは他の言語に比べれば作りやすいですがそれでもある程度の時間はかかりますし大変ですよね。パワーポイントのアニメ機能で教材を作られていた先生は前に見かけました。そのような作り方のほうが理にかなっていそうですね。
望月先生:実はパワーポイントのスライド教材も作成にけっこう時間がかかります。教職員研修の中で実際にスライド教材を作成していただくことがありましたが、ひとつの教材を作るのにもかなりの時間が必要です。
--伺っていいのかわかりませんが、スライド教材は作成にどれくらい時間がかかりますか?
望月先生:2日間の研修の中で、先生方が使い方を学び、教材選びから始めて作成するのがスライド数枚くらいですね。
--それは厳しいですね。授業に差支えがでてしまいますね。
望月先生:参加された先生方の感想からは、
- おもしろい。効果がありそう。・・・でも時間がかかりそう。
というものが多かったですね。そのとおりだと思います。
--本当にそのとおりですね。
望月先生:実際、1990年代に、オーサリングソフトが一時期はやりかけましたが、結局あまり使われないままでした。つまり教材づくりにはそれだけ時間がかかるということです。
- 1980年代はBASICによる教材
- 1990年代は動画やインターネット教材
を私も作って授業で使ってきましたが、やはり作成時間がかなりかかったものです。
--先生のように高いスキルがあればBASICや動画、インターネット教材を活用できるだろうと思います。しかしPCに慣れていない先生だと使いこなすどころか、使うのも難しい気がしました。
望月先生: 1990年代当時は、画像から動画をmacで作るのに数十時間も試行錯誤していましたからね。ひとつ作り上げるのに夜遅くまでかかりましたね。
--それでは負担が大きいですね......。今はウェブで検索すれば様々な情報が見つかりますが、1990年代だとまだ本やマニュアルで調べるのが中心な感じですか? 私がYahoo!で検索を始めたのが1998年でしたが、まだウェブサイトは大学とか研究機関が中心だったような?曖昧な記憶があります。
望月先生:そうですね。そうやって1990年代前半、私が公開授業で取り組んだのが、
- パソコンにセンサーを接続した気象観測
- 子どもたちが乾湿計を使った気象観測
それぞれのデータをExcelでグラフ化させる活動や、
- ひまわりの画像を組み合わせた動画の動きを見ながら明日の天気を予想させる。
という活動などでした。
2台のPC,Macをそれぞれプロジェクタにつないで拡大投影しながら、子どもたちと考えた授業でした。
--すごい! 1990年代前半は私がまだ高校生の時ですね。そんな近未来的な授業どころか学校にPCがなかった気がします。
望月先生:1994年頃の話です。
--1995年の時点では、「短大の情報処理の授業はDOSのPCで文字入力だった」と友人から聞きました。ずいぶん内容やレベルが違いますね。
望月先生:そんなことはないですよ。1996年からはインターネットを使えるようになった頃でしたから、学校HPを作成公開したり、インターネット教材を作ったりしはじめました。
--それはすごいですね。私がExcelを見たのは大学に編入学した1996年に指導教官のPCでした。工学部のパソコンルームはWindows 3.Xでしたが。
1996年は大学のパソコンでメールを送るようになりましたが、インターネットを活用した授業なんて大学でも目にしませんでした。大学のPCはTELNETでメールのやりとりは出来ましたが、指導教官が個人で買ったPC(Win95)でないとウェブサイトを見るのも一苦労でした。
望月先生:1998年頃、理科の九州大会では、まだ学校にインターネットが接続されていなかったため、会場の教室からPHSでインターネットにつなぎ、ネット上に置いてあるデータを開いて、参加者の方々に発表したと思います。今ではなんのことはない簡単なことです。
--1998年にPHSの活用ですか。モバイルを活用しての発表はすごいですね。理系だとそれは普通なのでしょうか? 私は文学専攻だったのでローテクな環境過ぎたのかな、と思えて来ました。
望月先生:当時普通にPHSでPCはネット接続していましたね。PCに接続できる専用のPHSを使用しました。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%91%E3%83%AB%E3%83%87%E3%82%A3%E3%82%AA611S
--確か1998年はDDIポケットがPHSを利用した通信でがんばっていた記憶が。そしてiモードでドコモの携帯も流行り始めていたような記憶があります。一般の先生方が望月先生のようにネットを活用するようになられたのはいつくらいなのでしょうか?
望月先生:コンピュータ室がネットにつながったのは1990年代後半から2000年以降だったと思います。当時は、40台つなぐとネットは遅くて使い物になりませんでしたね。
その頃には、文化祭をその場で撮影しながら順次学校HPに更新するという取り組みもしました。半リアルタイム更新ですね。かなりいろいろトライしたと思います。
このあたりまでが、2000年頃までの話です。
--話をまとめてくださり、ありがとうございます。1990年代後半当時で半リアルタイム更新はすごいですね。ソースコードをタグ打ちしないといけなかった時期だったような気がします。ホームページビルダーとかFrontPageはまだ出始めだった気がしますし。
望月先生のIT活用は1990年代の時点ではハイテクだったのではないかと思いましたが、他の先生は当時、PCなどITに関わるものをどれくらい活用されていたのでしょうか?
望月先生:もちろん今でもWebページのソースは、タグ(HTML)で打ったりします。ビルダーは使ったことがありません。また、コンピュータ室は当時から技術科の時間に授業で使っていましたね。
--技術の時間に使われていたんですか。
望月先生:当時は導入当時だったので、コンピュータ加配教員の先生がサポートしたりしていました。今でも技術・家庭科では情報分野がありますから、そのときはコンピュータ室を使っています。ただ、その間は、他教科では授業で使えないという問題があります。
--そうだったのですね。私は中1の時に技術家庭科で木工をしたくらいしかなかったので、技術家庭科に情報分野があることを知りませんでした。
望月先生:30クラス近くでもコンピュータ室は1教室しかありません。複数の学年、複数の教科、複数の先生がまたがって授業する中学校では、ほぼ使えないと思います。
--それでは他教科は使えませんね。
望月先生:そのため、今からは普通教室でのICT活用がメインとなるわけです。
教育センターでの11年間は先生方の研修と県内の教育インターネットの管理を担当していました。担当していた研修の内容は、前半はソフトの使い方が中心でしたが、後半になると授業での活用・情報モラル教育が中心に変わりました。変化がありましたね。
--当時だとソフトの使い方から説明しないと使えないですよね。情報モラル教育について当時も教育センターで研修があったのですね。今ならば教室でのICT活用はiPadなどを使えば可能だろうと思います。しかし2000年以前だと難しそうですね。
望月先生:そういう視点から見ても、今はとてもICT活用が簡単になっているのです。
--確かにそんな印象を受けました。
望月先生:【視点】今は、自分でプログラムして・・・という特別な技能を持った先生方だけの活用を進めるのではなく、すべての先生方がどう授業でICTを活用していくか。
それがこれからの情報教育、ICT活用にとって大切なことだと思います。
--確かに。そのとおりですね。
望月先生:授業で、子どもたちが「わかる」ためにどんな教材がよいか、かなり毎日悩みます。わからない子どもがわかるようになることが、本当に「効果がある」ことだと思いますしね。
--そのとおりですね。わからない子どもがわかるようになることが、本当に効果があることだと私も思います。高校や大学は偏差値などである程度、輪切りされている感はあります。もちろん中をよく見れば様々な学生たちがいますが、学力という面ではだいたい同じくらいの子を集めている感じがします。
望月先生:今も、毎日の授業の中でいろいろとICTの活用を進めています。いくつかの授業パターンが少しずつできてきました。
--認知特性だけ見てもいろいろなお子さん・青少年がいますよね。私も一律に同じ指導を押し付けるのは現状にそぐわないと考えています。
それら授業の様子については、次回具体的にお聞きしたいと思います。
>>「授業を工夫するためにICTを活用する -望月陽一郎 先生-授業で工夫しているICT活用ポイントとは?-」に続く
参考記事
- 先導先生 - DiTT(デジタル教科書教材協議会)
※望月先生の32の取組みが紹介されています。
まとめ記事
今までに取材した「授業でのICT活用のポイント」「学校でICT機器を活用する時のポイント」「教材作成時に気をつけたい著作権の問題」などについては、以下の記事にポイントをまとめました。ぜひご参考にされてくださいね。
※インタビューの第1回目から11回目をまとめています。
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