デジタル教材「ランダムフラッシュカード」-中学校教諭・望月陽一郎先生のお話より-
教育現場のICT活用について、現役の先生にインタビュー
望月陽一郎先生(理科担当)に、2年前から教育現場の現状とICT活用について取材しています。これまでの回では、中学校でのタブレットの活用や、デジタル教材とアナログ教材のメリット、教材の著作権などを伺っています。
【望月陽一郎 先生・略歴】
大分市 中学校教諭(理科担当)。大分県教育センタ- 情報教育推進担当主事、指導主事、大分県 主幹等を経て、現職。
https://www.facebook.com/yoichiro.mochizuki/about を参照。
前回は、理科が専門の望月先生に、アルコ-ルランプなどの実験器具とICT機器とのかかわりや、実験でのタブレット活用例などについてお話を伺いました。アナログ教材で「困り」を解決できないときにデジタル教材を使っていることなどを伺いました。
13回目の今回は、望月先生が授業で使っているデジタル教材について、さらに具体的なお話を伺いたいと思います。
自作のデジタル教材について
-たとえば算数の授業で、展開図を説明する際、デジタル教材を使うとアニメで説明できるのでわかりやすいなどのメリットがあります。理科の授業でもデジタル教材ならではの強みがあるのではないか、と考えています。望月先生が今、普段使っている理科のデジタル教材について教えていただけますか。
望月先生:最近では、化学式を覚える教材として、スライドを使ったデジタルフラッシュカードを作りました。
-その教材を使おうと思ったきっかけについて教えてください。
望月先生:タブレットミーティング(グル-プ活用)のひとつとして考えました。グループの一人がタブレットを持ち問題を出し、それをグループの人たちが答えて練習するためのフラッシュカードです。子供たちはグループ活動を普段からしているので。
しかし、これまでスライドによる「デジタルフラッシュカード(フラッシュ型教材)」を使ってきた経験から、
- いつも同じ順番で表示される。
- そのため、次に何が出るかを予想することに意識がいく子供が出てくる。
という欠点を感じていました。
そこで、
- 表示される順番が毎回変わる「ランダムフラッシュカード」
を構想しました。
それを可能とするために、PowerPointのマクロを使うことにしました。
-マクロを使われたのですね。マクロは操作を記録することで作業の効率化を図るために使うと思うのですが、マイクロソフトの公式サイトに、「マクロの記録は・・・Microsoft PowerPoint 2013 では利用できません。代わりに、Visual Basic for Applications (VBA)を使ってマクロの作成や編集を行うことができます。」と書かれています。
参照元:PowerPoint 2013 でマクロを作成する
https://support.office.com/ja-jp/article/PowerPoint-2013-%E3%81%A7%E3%83%9E%E3%82%AF%E3%83%AD%E3%82%92%E4%BD%9C%E6%88%90%E3%81%99%E3%82%8B-5b07aff6-4dc9-462f-8fc9-66b4c5344e7e?ui=ja-JP&rs=ja-JP&ad=JP
出てくるカードの順番をランダムに変えるということは、VBAを組まれたのですか?
望月先生:そういう機能を持たせられないかと、PowerPointマクロを検索して調べました。いくつかを組み合わせて、スライドショーするたびに表示される問題の順番が変わるフラッシュカードができました。(すべて並び替えられるため、問題のみで正解カードはなし)
-それはすごいですね。その教材を使ってよかった点や、子供たちの反応を教えていただけますか。
望月先生:化学式を覚えるグル-プ活動で、子供たちに「ランダムフラッシュカード」を使ってもらったところ、「これやりやすい!」という感想でした。(マクロの実行は子供たちに操作してもらいました)
-出題順が同じだと何度も繰り返すと飽きてしまいますね。しかし、毎回、出てくる順番が変わるとなると、子供たちも「おおっ!? 」という感じで集中できそうですね。
望月先生:時間をとって何度もグループで練習した後小テストしたところ、満点をとる子供も多くでました。
何よりグループで声を出し解答するだけでなく、それぞれのグループで
- 全員で答えるのではなく順番に解答するなど、出し方をあれこれ変えてみる。
- わからない人にはアドバイスしたり、あらかじめ配られている化学式一覧プリントで覚え方を説明したりする。
などの工夫も見られました。
-子供たちが自発的に工夫して、学習に取り組んでいるのはいいなあ、と感じました。フラッシュカードを使うと、子供たちもゲーム感覚で取り組めそうですね。「ランダムフラッシュカード」を使ってみて、今までと変わったところがありますか?
望月先生 グループ活動の様子を話した他の理科の先生から「使ってみたいのですが」という要望があり、タブレットと「ランダムフラッシュカード」の使い方を説明してから、それぞれの授業クラスで実際に使ってもらいました。
-マクロはデータの中身をいじったり、使う環境(ソフトのバージョンなど)が変わったりすると、動かなくなることがあります。先生の教材は他の先生方が使っても大丈夫だったのですね。
望月先生:タブレットごと使ってもらったこともあります。また、「ランダムフラッシュカード」のメリットは他にも
- マクロが表示スライドの内容や枚数に関係しないようにしているので、問題を書きかえたり、スライドを追加削除したりするのが簡単である。
- 内容に関係しないので理科に限らず、他教科でも使える。
などがあります。
-とてもいいですね! 「マクロが表示スライドの内容や枚数に関係しない」という作り方、とても大事な点だと感じました。他の先生が使いやすいように汎用性が高い作りにするのは大切なことだと思います。教材が他教科でも使えるのは、大きな魅力ですね。
望月先生:デメリットは、
- Windowsタブレット+PowerPointでしか動作しない。
- ということです。
-なるほど。iPadやAndroidタブレット用のOfficeもありますが、マクロが使えませんものね。スライドを再生するだけならできますが。
参照元:PowerPoint for iPad を PowerPoint for Mac、PowerPoint for Windowsと比較する Microsoft
https://support.office.com/ja-jp/article/PowerPoint-for-iPad-%E3%82%92-PowerPoint-for-Mac%E3%80%81PowerPoint-for-Windows-%E3%81%A8%E6%AF%94%E8%BC%83%E3%81%99%E3%82%8B-0ffd886b-2a6a-4257-baf1-ab9a0d478845?CorrelationId=95e8a2de-e21b-4e03-ade6-df88151efe20&ui=ja-JP&rs=ja-JP&ad=JP
参照元:PC版と何が違う?Office for iPadでできること、できないことまとめ 週刊アスキー
http://weekly.ascii.jp/elem/000/000/273/273155/
-PC版と比較すると、サポートされている機能がまだ少ないようですね。Windowsタブレット+PowerPoint以外の組み合わせでも、マクロ機能が使えるようになったら、格段にデジタル教材が作りやすくなりそうですね。
望月先生:OSが違うことで難しいのかもしれませんが、教材づくりをする際にプログラミングできることはできる範囲が広がりますからね。
まとめ
今回は、望月先生がPowerPointのマクロ機能を利用して自作した「ランダムフラッシュカード」について、具体的にお話を伺いました。スライドショーをするたびに、出てくる問題が変わるフラッシュカードは、子供たちの能動的な活動へのメリットが大きいようです。
- マクロが表示スライドの内容や枚数に関係しないので、問題の書きかえ、スライドの追加削除が自由。
- 理科だけでなく、他教科でも使える。
という作成する先生にとっても大きなメリット。
「Windowsタブレット+PowerPointでのみ動作する」という制約があるとのことですが、Windowsタブレットがある学校にとっては大変便利なデジタル教材ではないかと感じました。
iPadは教育現場でとても便利なタブレットです。しかし、PowerPoint for iPadは、PC版に較べると、スライドアニメーションやコメントなどの編集や追加ができないところがあります。PowerPointアプリのサポートの範囲がさらに拡がると、デジタル教材の可能性が更にひろがるという印象を受けました。
夏休みの教員向けミニICT講座を行われているというお話ですが、その中、望月先生に興味深いお話を伺うことができました。大変ありがとうございました。この記事が読者の皆さまの教材作成やICT活用のご参考になる事を、願っております。
>>「ICT活用とジグソー法について-中学校教諭・望月陽一郎先生のお話より-」につづく
参考記事
先導先生 - DiTT(デジタル教科書教材協議会)
※望月先生の32の取組みが紹介されています。
まとめ記事
今までに取材した「授業でのICT活用のポイント」「学校でICT機器を活用する時のポイント」「教材作成時に気をつけたい著作権の問題」などについては、以下の記事にポイントをまとめました。ぜひご参考にされてくださいね。
※インタビューの第1回目から11回目をまとめています。
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