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グローバル化する中で日本人はどのようにサバイバルすればよいのか。子ども×ICT教育×発達心理をキーワードに考えます。

学校における著作権について(1)

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情報教育に関するさまざまな取り組みをされている望月陽一郎 先生に、2013年から教育現場の状況や先生のお考えについてインタビュー形式で伺っています。今回は望月先生が独自に調査された「生成AIの活用についてのアンケート」を踏まえ、「学校における著作権について」お聞きします。

【望月先生 プロフィール】

大分県立芸術文化短期大学非常勤講師。Forbes Japan電子版オフィシャルコラムニスト。公立中学校理科教諭(理科)・大分県教育センター指導主事(情報教育)などを経験されています。自作の「micro:bit『サンプルプログラミング集』」などをサイトにて公開されています。

望月陽一郎 個人サイト:http://mochizuki.net/

●著作権に関する誤解について

―前回から学校における生成AIの活用状況についてのインタビューをさせていただいています。生成AI活用については、著作権の話がよく出てきますが、今回は「学校における著作権」というテーマでお伺いしたいと思います。

まず、望月先生の調査で「『学校における著作権』において、研修を実施したり、受けたりしたことがあるか」という質問がありました。

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「『学校における著作権』について研修を実施したり受けたりしたことがあるか。」

20246月)n=125

「ある」が73.6%、「ない」が26.4%となっており、「ない」が意外に多い印象を受けました。

望月先生:例えば小学校学習指導要領では、「児童の情報活用の実践力や情報モラルを育成する」ことが明記されています。

知的財産権の一つである著作権について、理解し守っていくことについて、子どもたちに教えていく先生方はしっかりと理解しておく必要があります。著作権に関する研修を受けたことがない先生が回答者中、1/4以上もいるのは確かに意外ですね。

―そして、びっくりしたのは望月先生が行った小テストの結果でした。

「小テスト1 家庭における録画など『私的使用のための複製』に関する条文はどれか」

  1. 25
  2. 30
  3. 35

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「家庭における録画など『私的使用のための複製』に関する条文はどれか」

20246月)n=125

正解は、著作権法30

参考 著作権法より抜粋

(私的使用のための複製)

第三十条 著作権の目的となつている著作物(以下この款において単に「著作物」という。)は、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること(以下「私的使用」という。)を目的とするときは、次に掲げる場合を除き、その使用する者が複製することができる。

引用元:https://laws.e-gov.go.jp/law/345AC0000000048

資料等を参照せずに回答してもらったとのことですが、正解率が48.8%と約半数が誤答しています。この結果は、著作権に対する基本的な理解がまだ十分ではないことを示していると思います。

望月先生:家庭でテレビの録画を行うことができるのは、この「私的使用のための複製」にあたります。録画は、法律で許可されて行っているのですね。

―次の問題は、まさに学校における著作権に関係する問題でした。

「小テスト2 『教育機関における複製等』に関する条文はどれか」

  1. 25条
  2. 30条
  3. 35条

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「『教育機関における複製等』に関する条文はどれか」

20246月)n=125

正解は、著作権法35条。

これも57.6%、約6割しか正解していません。

望月先生:これは、できれば100%正解してほしかった問題でした。授業の中で、授業をしている先生や授業を受けている子どもたちについては、許可をとることなく複製できる、という根拠となっている重要な条文です。

参考 著作権法より抜粋

(学校その他の教育機関における複製等)

第三十五条 学校その他の教育機関(営利を目的として設置されているものを除く。)において教育を担任する者及び授業を受ける者は、その授業の過程における利用に供することを目的とする場合には、その必要と認められる限度において、公表された著作物を複製し、若しくは公衆送信(自動公衆送信の場合にあつては、送信可能化を含む。以下この条において同じ。)を行い、又は公表された著作物であつて公衆送信されるものを受信装置を用いて公に伝達することができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びに当該複製の部数及び当該複製、公衆送信又は伝達の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。

引用元:https://laws.e-gov.go.jp/law/345AC0000000048

ここで重要なのは、「授業の過程における利用に供することを目的とする場合」という部分です。つまり、学校でこの条文が該当するのは、授業の過程に関することのみなので、その他については、この例外規定があてはまらない、というところです。

―たしかにこの結果を見ると、心配になりますよね。この次からの問題を見ると、この例外規定に関する内容だと感じました。

「小テスト3-1 新聞の一部コピーを先生方に資料として配布することについて異を唱えられた。問題があるか」

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「新聞の一部コピーを先生方に資料として配布することについて異を唱えられた。問題があるか。」

20246月)n=125

正解は、「問題がある」ですが、これは約7割の先生が正解しています。

正解した先生方の回答理由の記述では、

  • 著作権の問題
  • 教育目的・範囲の問題
  • 利用目的の問題
  • 配布対象の問題

などが理由として挙げられています。「授業に関する使用ではない」という、さきほどの35条を踏まえた回答がやはり多いですね。

不正解だった先生方の回答理由の記述には、

  • 出典が示してあればよい(間違い:出典を明示しても著作権者の許可が必要)
  • 教育活動の一部として活用しているから(間違い:教育目的であっても、著作物の無断コピーと配布は著作権法の侵害になる。著作権法には教育目的の例外規定がありますが、これも厳格に適用される必要がある。)
  • 校内での利用に留まっているので(間違い:内部利用であっても、著作権法の適用を受ける。)

※間違いに関する注釈は、望月先生がChatGPT4oを使ってつけられたものです。

などが挙げられています。

この問題は学校で日常的に行われそうな内容であり、不正解が約3割という結果は非常に多いと感じました。日常的に発生する事例であるからこそ、正しい著作権の取り扱いについての知識がより重要だと思います。望月先生はどのようにお考えでしょうか?

望月先生:回答者の記述をChatGPT 4oに分類させるとともに、誤解している部分を指摘させたところ、以下のような回答を得ました。

「出典の明記に関する誤解:出典を明記することは引用の基本だが、著作権者の許可が必要な場合や、引用の範囲を超えている場合は出典の明記だけでは法的に十分ではない。新聞記事のような著作物をコピーして配布するには、著作権者の許可が必要。

教育目的に関する誤解:教育目的であっても、著作権の無断コピーと配布は著作権法の侵害になる。著作権法には教育目的の例外規定があるが、これも厳格に適用される必要がある。

内部利用に関する誤解:内部利用であっても、著作権法の適用を受ける。内部資料としての利用も、著作権者の許可が必要な場合がある。

私的利用に関する誤解:私的利用は個人の範囲に限定されるため、業務や教育の目的での利用は私的利用に該当しない。したがって、許可なしにコピーして配布することは著作権侵害となる。

その他の誤解:「普通に行われている」「よく行われていることだから」という理由では、法的な許可なしに著作物を使用する正当な理由にはならない。また、引用の範囲を超える利用や営利目的でない利用であっても、著作権者の許可が必要。」

こうしてみると、確かに次のような誤解をしているだろうことが想像できます。

・学校における例外規定の範囲に関する誤解

・これまでやってきていることだから、という誤解

学校は、一般の仕事と比較して「例外を認められている」のですが、その優遇されていることを十分理解して、範囲をしっかり守っていくことが必要ですね。

ChatGPT4oの分析はとてもわかりやすくまとめられていて、驚きました。この分析が正しいかどうかは資料を読む各個人で確認する必要がありますが、分析ツールとしても十分活用できそうですね。望月先生はChatGPT4oの分析結果をどう思われましたか。

望月先生:生成AIを使うことについて、不安を感じる先生方も多いのですが、「資料分析」という使い方においては、大量の記述を読む時間(実際にはすべて読んでいますが)、分類を考える時間などが短縮されるとともに、結果を読んでみて「なるほど」と思いますね。

使い方をよく理解して、どのように使うか工夫していくことが大切だと思います。

―今回もアンケートによる調査結果をもとに、色々なお話をしてくださり大変ありがとうございました。望月先生のお話がこの記事を読んでくださった皆様の参考になることを願っています。

>>「学校における著作権について(2)」に続く(202411月公開予定)

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