望月陽一郎 先生によるICT機器の活用・啓発の取り組み
●現役の先生に教育現場のICT活用について伺いました
大分県の中学校で教諭をされていらっしゃる望月陽一郎先生に教育とICTを学校現場でどのように実践されてきたのか、お話を伺っています。
【望月陽一郎 先生・略歴】
大分市 中学校教諭(理科担当)。大分県教育センター 情報教育推進担当主事、指導主事、大分県 主幹等を経て、現職。
https://www.facebook.com/yoichiro.mochizuki/about を参照。
前回は「望月先生が実践された学校でのICT活用について」がテーマでした。
参考:授業を工夫するためにICTを活用する -望月陽一郎 先生-授業で工夫しているICT活用ポイントとは?-
今までに
- 望月先生の学校におけるICT活用実例(1980年代から2000年代まで)
- 技術家庭科にも情報関係の内容があること
- ICT活用のポイント
などを伺いました。
今回は「ICT活用のポイント」の続きと「提示の工夫」について伺う予定でしたが、話の流れから「ICT機器の活用」と「啓発の取り組み」になりました。恐れ入ります。
「ICT教育」と「教育(授業)におけるICTの活用」の違い
--望月先生が授業で工夫しているポイントの続きを教えて下さい。
望月 先生:今、「ICT教育」と「教育(授業)におけるICTの活用」という言葉についてアンケートをとっています。片岡さんはどちらが学校現場から受け入れやすいと思われますか?
--私には「教育(授業)におけるICTの活用」のほうがわかりやすいです。「ICT教育」の方が言葉の知名度は高いのですが、「情報教育」との違いがわかりにくいと感じました。
望月 先生:私自身、「ICT教育」ということばはあまり聞いたことがないのです。
--そうなんですか!
望月 先生:「情報教育」にはずっと取り組んできましたが。
--IT業界だと「ICT教育」という言葉は頻繁に目にします。「ICT教育=情報教育」として用語を使われている方が多いような気がします。
望月 先生:「情報教育」は学校現場で取り組まれていますが、子どもたちの情報スキルと情報モラルを身につけさせるのが目的ですね。情報スキルといっても、ICT機器のみのスキルを指すのではありませんし、アンケートでは「ICT教育」に対する先生方の票は0ですね。
~子どもたちの情報活用能力の育成~ http://www.mext.go.jp
http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/__icsFiles/afieldfile/2010/12/13/1259416_6.pdf
--教育の世界だと「ICT教育」という言葉は使わないようですね。IT業界の方とお話した時の印象ですが、「ICTを教育に活用する」というニュアンスで「ICT教育」と言われている感があります。
望月 先生:教育現場では、「ICTを活用する」という言い方が一般的ですね。「ICT教育」だと、ICTスキルに関する教育を指すと思います。
--確かに「ICTスキルに関する教育」だと変わるので、誤解を生まない「ICTを活用する」という言い方を使うようにした方がいいですね。
望月 先生:「ICTスキルに関する教育」だと、情報スキルに特化しているように感じて、先生方には受け入れにくいと思います。先ほども言ったように、情報教育では情報モラルについても扱いますしね。
話を進めていくと、今日のテーマは、
- 教科指導におけるICT活用 ~各教科等の目標を達成するための効果的なICT機器の活用~
となりますね。
実際に学校に整備されているICT機器
望月 先生:逆に質問してみますが、実際に学校に整備されているICT機器にはどのようなものがあると思われますか?
--パソコンやiPadなどのタブレット、プロジェクター、電子黒板などではないかと思います。
望月 先生:
今勤めている学校は、約30学級規模ですが、
- コンピュータ室 1室 ・・・更新されたばかりのデスクトップが40台
- 授業用パソコン・・・更新前からあるノートパソコンが数台
- 実物投影機・・・理科室に2台
- プロジェクター・・・新しいもの古いものあわせて5,6台
- 大型テレビ・・・理科室それぞれに各1台(計3台、普通教室にはなし)
- 電子黒板・・・更新前からある古いものが1台
今年度、コンピュータ室更新に伴い、iPadが10台入りました。
--それはすごいですね!
望月 先生:10台は多いと思いますか?少ないと思いますか?
--多いようで意外に少ないように思いました。パソコンルームの40台は多いと思いますが、iPadが10台だと授業中全員が触れない可能性があるかな?と感じました。これだけの台数を導入出来るだけでもすごいと思いましたが。
望月 先生:生徒は800人以上いるんですよ?また、中学校は教科担任制なので、毎時間の授業の先生は違いますし。
--1クラスずつ使う時間をずらすにせよ、全校の生徒が使うことは難しそうですね。
小学校とは違いますね。先生が教科ごとに違うと、機器がだいぶ少なそうな印象に変わりました。
望月 先生:同じ学年でも、複数の先生が教科を担任します。また、その先生は複数の学年を担当することがあります。その教科の中でもかなり進度を調整しないと使うのは難しいと思います。
--授業の進度を考えるとかなり複雑な調整が必要でしょうから、大変そうですね。
望月 先生:それが9教科あるわけですから、日課表を調整するだけでも大変なのです。ましてや、10台しかないのでは、機器を使う調整をするのはほぼ不可能に近いです。
--現状、iPad10台はどのように使われているのでしょうか?
望月 先生:導入時iPad10台の使い方について、特に指示がなかったため、
- 使い方の研究、何ができて何ができないか を見極めるため、
- 10台をグループで使う
ところから始めました。
--iPadは使い方の模索からはじめられたのですね。10台をグループで使われてみていかがでしたか?
望月 先生:
- ネットワーク環境(校内の環境は整っていない)
- 一緒に導入された機器(AppleTVとプロジェクターのみ)
- 入っているアプリ(5,6個)
からできることを考えました。
当初は、導入されているアプリしか使ってはいけない、ということでしたので、入っているアプリでどう授業で活用するか考えるのが、まず大変でした。
実際に授業で使用したアプリについて
--そうだったのですね。どのようなアプリが導入されていたのか伺ってもよろしいでしょうか?
望月 先生:
- iWork(Pages,Numbers,Keynote)
- Good Reader
- ロイロノート
などです。
--教えてくださって、ありがとうございます。授業でどのように使われたのか伺ってもよろしいですか?
望月 先生:理科の授業で活用することを考え、iWork GoodReaderは除外しました。
そうすると、ロイロノートが必然的に残るわけですがさて、どの場面で使うか悩みました。
使う場面は実験が考えられましたが、すでに授業の中で実験に取り組んでいるところに、さらにiPadの活用を加えるということは、その活動が増えることになるので時間がたりなくなると考えました。
そこで子どもたちにもわかりやすくシンプルな組み込み方にするため
- 活用方法をひとつにしぼる
- 他の機能を制限して使えないようにする
ことで、実験で使ってみることにしました。
--なるほど。
- 活用方法をひとつにしぼる
- 他の機能を制限して使えないようにする
アイデアはすばらしいですね。子どもたちが今、何をするべきなのか迷わないようにするのは大事な点だとおもいます。
望月 先生:
- 実験記録の手段のひとつとして「iPad『でも』記録する」。
こうすれば、並行して活動するので、時間的にも子どもたちの負担が少なくなります。「iPad『でも』記録する」必要は実はなく、機器ありきになるのであまりよい使い方とはいえませんが。
--なるほど。
望月 先生:しかし導入されたばかりの段階では、機器ありきの活用でも何か実践をして、メリット・デメリットをはっきりさせることが大切だと考えました。蓄積ですね。
今後、活用方法について相談された際には、それら蓄積した経験から回答できるわけですから。
--メリット・デメリットをはっきりさせることは今後のために確かに大切なことですね。
望月 先生:
- アプリなど機能制限する
は、子どもたちを集中させるためです。
最初はどうしても子どもたちはいろいろなアプリを使いたがったりして、実験に集中できず本末転倒になるので。ひとつのアプリしか使えないのがわかると、子どもたちもあきらめて?実験に集中しました。
この機能制限(アクセスガイド)の設定は、iOS標準なので、簡単に設定できます。一般設定→アクセシビリティ→アクセスガイドで、そのアプリしか操作できないようになります。
--アプリに気を取られたら本末転倒ですのですので、子どもたちが実験に集中できるように機能制限するのは大事な工夫ですね。そして機能制限の方法も教えてくださって、ありがとうございました。先生方の参考になりそうです。
望月 先生:つい最近、市教委の方から無償アプリの使用許可が出ましたので、活用アイデアの幅が広がりつつあります。学校から要望していった結果ですね。
--無償アプリも使用できるようになられたのですね。諦めずにきちんと要望するというのは大事だと思います。
望月 先生:1学期はグループでの活用についてかなり蓄積ができてきたので、2学期は提示用タブレットとして先生方に10台を分散して使ってもらおうと考えています。
--なるほど。そのような使い方もできますね。
望月 先生:
- 提示用として使う → 先生方が使い方に慣れてきたらグループ活用してもらう。
私だけでなく、使ったことがない他の先生に使ってもらうためには段階を踏むことが必要です。
私自身 私自身は以前から提示用として
- keynote によるフラッシュ型教材
- Epson iProjectionによる教科書画像の拡大提示・マーキング
などを毎時間使ってきました。
それらのノウハウを先生方に広げていくこと、実際に経験してもらうことで「グループ活動でも使わせたい」という声が出てくるようにしたいわけです。
ICT機器の活用と啓発の取り組み
--望月先生のノウハウはぜひ先生方に広げて経験していただきたいと、私見ですが感じました。
望月 先生:今、夏季休業中に、先生方向けのミニ講座を行っています。1回30分。その場で呼びかけて参加できる人。毎回違うテーマで、つまり1回のみの参加でもOKとしています。
出張などをのぞいて私が設定できる回数として、今回は12回を予定しています。12回分別々なテーマを決めて、資料を作って、準備してという感じでこつこつ続けています。
--12回参加したほうがもちろん良いのでしょうが、1回だけ参加してもOKなのはいいですね。
望月 先生:
- Excelの活用
- iPadの使い方
- アプリについて
- 情報モラルについて
- 機器のつなぎ方
- 電子黒板について などなど
今7回終わったところです。
--おもしろいテーマばかりですね。校内向けなのが残念です。
望月 先生:平均6人くらいなので、12回したらのべ72人くらいになりますかね。
他校の先生に話したら、休みをとって聴きに行きたいといわれてしまいました。「出張になりませんよ(笑)、残念でした」と。
--他校の先生も参加したいだろうと思います。私も教員ではないのに参加したいですから。
望月 先生:こういった講座が、各学校内で行われたら、きっと教育におけるICT活用は進むのだと思います。
- 使ってみようかな
- こんなこともできるの?
- テレビが教室にあると使えるのになあ
- どうやって使うのですか?
など、先生方の感想です。
--望月先生のようにICTの機器を効果的に活用できる先生がいらっしゃる場合は良いでしょうが、そうでない学校もあるのではないかと思います。
望月 先生:そこが課題かもしれませんね。
あと何回かあるので、もう少し参加する先生を増やしたいですね。「iPad」通信を通じてもっと参加する先生を増やしたいと思っています。
--今回は「活用・啓発の取り組み」について伺うことができました。
次回は「提示の工夫の話題」について伺いたいと思います。今回もためになるお話をありがとうございました。
>>「教育におけるICT活用事例:「iPad通信」と「ミニICT講座」について ~望月陽一郎先生のお話より~」につづく
参考記事
- 先導先生 - DiTT(デジタル教科書教材協議会)
※望月先生の32の取組みが紹介されています。
まとめ記事
今までに取材した「授業でのICT活用のポイント」「学校でICT機器を活用する時のポイント」「教材作成時に気をつけたい著作権の問題」などについては、以下の記事にポイントをまとめました。ぜひご参考にされてくださいね。
※インタビューの第1回目から11回目をまとめています。
関連記事
今までに取材した望月先生のインタビューをリスト化しました。この記事は第3回目のインタビューです。
- 教育とICTを学校現場で実践する取り組み ~望月陽一郎先生のお話より~
- 授業を工夫するためにICTを活用する -望月陽一郎 先生-授業で工夫しているICT活用ポイントとは?-
- 望月先陽一郎先生によるICT機器の活用と啓発の取り組み
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編集履歴:2015.12.26 15:02 関連記事の部分に「この記事は第3回目の・・・」を追加。