教材やコンテンツを制作する際、実際に許諾を取った例 ~望月陽一郎先生のお話より~
現役の先生に教育現場のICT活用について伺いました
大分県の中学校で教諭をされていらっしゃる望月陽一郎 先生に、教育におけるICTを学校現場でどのように実践されてきたのか、お話を伺っています。
【望月陽一郎 先生・略歴】
大分市 中学校教諭(理科担当)。大分県教育センター 情報教育推進担当主事、指導主事、大分県 主幹等を経て、現職。
https://www.facebook.com/yoichiro.mochizuki/aboutを参照。
前回は教室でICT機器を活用する時のポイント」など、望月先生が実践されている「教材を作る際、著作権についてどのようなことに注意しているか」について伺いました。
今までに
- 望月先生の学校におけるICT活用実例(1980年代から2000年代まで)
- 授業でのICT活用のポイント
- 学校でICT機器を活用する時のポイント
- iPad通信とミニICT講座について
- 教材を作る際に、著作権についてどのようなことに注意しているか
等のお話をしていただきました。今回は「音楽や地図など、実際に許諾をとってみた例」について伺います。
教材やコンテンツを制作する際、実際に許諾を取った例
‐今回もお世話になります。前回の「教材を作る際に、著作権についてどのようなことに注意しているか」は今までのインタビューの中で特に反響が大きかったです。そこで今回は「教材やコンテンツを制作する際、実際に許諾を取った例」について、望月先生にお話を伺いたいと思います。よろしくお願いいたします。
望月先生 片岡さんは、著作物に関する許諾を実際にとったことはありますか?
‐数回あります。(文部科学省や出版社)
望月先生 私が最初に著作物に関する許諾をとったのは、大分市視聴覚センター(現 大分市情報学習センター)におけるデジタル教材作成を依頼され、Microsoft百科事典の中にあった図を使いたいと考えた時です。そのデジタル教材をセンターHPに公開するというので、これは確認した方がよいと思い、Microsoftにメールを送ったところ回答がありました。
もちろん、送ったメールの中で、
- 教材作成の目的。
- どのようなデジタル教材か。
- どのHPで公開するか。
などについて書いておきました。
すると、法務部という部署から、デジタル教材への明記の仕方を添えて許可をいただきました。もう20年くらい前になりますけどね。
‐私もいくつかの会社に問い合わせたことがありますが、中には何も返事が来ない場合もありました。日本Microsoft社は丁寧ですね。
▼マイクロソフトの著作物の使用について
http://www.microsoft.com/ja-jp/mscorp/legal/permission/default.aspx
望月先生 他の例としては、私がずっと取り組んでいる地域コンテンツを作成する際に、古い地図の画像を使いたいと考えたことがありました。
‐その古地図の許諾はどこからとられたのですか?
望月先生 その地図は、「地質図解説」に載っていたものでしたので、地質図の発行元にメールで尋ねました。ところが、自分の所ではなく地図の所有元を教えられ、そちらに聞いてくださいと言われたのです。
‐別なところにも問い合わせをしないとなると大変そうですね。
望月先生 さらに問い合わせたところ、今度は国土地理院に聞いてくださいと回答がありました。そこで仕方なく国土地理院にメールを送りました。
‐大変でしたね。
望月先生 国土地理院からは、地図を使用する場合の条件について説明がありました。地図の場合ははっきり示されているので、紀要などの刊行物にも申請不要で使えますね。
▼国土地理院 承認申請 Q&A
http://www.gsi.go.jp/LAW/2930-qa.html#02
‐そうなのですね。許諾をとるのが難しかった事例もありましたか?
望月先生 一度だけ断念したことがあるのが、新聞の写真でした。その前に、市報の写真を使いたいと市に問い合わせたところ、すぐに許可をくれました。
同様に新聞に載っていた写真を使いたいと新聞社に問い合わせたら、新聞社から使用料を示されました。Webページに数カ月載せるだけで数千円の使用料だったと思います。
‐音楽の歌詞をWebサイトに載せる場合と同じくらいの金額ですね。
望月先生 音楽の歌詞といえば、学校の校歌の歌詞も許可なく載せられませんね。
‐学校の校歌もですか。それは知りませんでした。
望月先生 著作権法に示されている学校の例外規定は、授業に限定されますからね。
‐前回のインタビューの時示していただいた資料にも、「授業」であるかどうかが大事と書かれていましたね。
望月先生 子どもたちが合唱している動画を載せる場合も、作詞者・作曲者の許可が必要ですよ。
‐許可を取る先はJASRAC(日本音楽著作権協会)なのでしょうか?それとも別なところなのでしょうか?
望月先生 許可を取るのは、
- 著作権者
- 著作権者がすでに亡くなられている場合は遺族
となります。
著作権の保護期間は、著作権者の死後50年であって、作品の公開後50年でないことは注意が必要です。20歳で作った作品で、その方が70歳で亡くなったとしたら、作品が作られてから100年たたないといけません。
‐100年もたったら、ご遺族の連絡先さえわからなくなるでしょうね。
今時の作曲家は所属事務所やご本人の公式Webサイトがあるから連絡をとりやすいですが、これが戦前の作曲家の方になってしまうと、ご遺族の連絡先を探せない可能性の方が高そうですね・・・。
望月先生 でも、著作権法には連絡先がわからない場合の手続きが書いてありますよ。第67条に書かれています。
‐第67条には以下のように書かれていますね。
2 前項の裁定を受けようとする者は、著作物の利用方法その他政令で定める事項を記載した申請書に、著作権者と連絡することができないことを疎明する資料その他政令で定める資料を添えて、これを文化庁長官に提出しなければならない。
3 第一項の規定により作成した著作物の複製物には、同項の裁定に係る複製物である旨及びその裁定のあつた年月日を表示しなければならない。
望月先生 この手続きをとれば合法ですし、勝手に載せれば違法ということになりますね。校歌を学校のHPに載せる際許可が必要なことは、ずいぶん前に通知されているので、学校のHP管理者なら知らないといけないことではあります。
‐ちなみに先生は第67条にのっとった申請をされたことはありますか?
望月先生 さすがにありませんが、JASRACに許可をとった学校ホームページの例は見たことがあります。著作権者がJASRAC会員の場合、連絡先がJASRACになります。会員の代わりに対応するわけです。手続きもわかりやすいですね。
手続きをして使用料を払えば、許諾番号が発行されます。それを学校ホームページに明示することで、許可を取っていることを示すわけです。
▼学校など教育機関での音楽利用(JASRAC)
http://www.jasrac.or.jp/info/school/index.html
‐なるほど。確かに学校ホームページで、それらしき番号を見たことがあります。
望月先生 特に校歌については、JASRACが、当面の間使用料をとらない、としています。私も教職員研修で、先生方にこうした話をよくしてきました。私から話を聞いた先生も多いかもしれませんね。
‐会員でない場合は許可をとるのが大変そうですね?
望月先生 著作権のあり方もこれから少しずつ変わると思いますが、法を遵守して工夫していくことが大事ですね。
‐確かにその通りですね。知っておいた方が良いことですから、今回再び話をうかがえて良かったです。今回もわかりやすくまとめていただき、ありがとうございました。実体験のお話、大変参考になりました。
>>「教育現場のICT活用能力の向上のために ~望月陽一郎先生のお話より~」に続く
参考記事
先導先生 - DiTT(デジタル教科書教材協議会)
※望月先生の32の取組みが紹介されています。
まとめ記事
今までに取材した「授業でのICT活用のポイント」「学校でICT機器を活用する時のポイント」「教材作成時に気をつけたい著作権の問題」などについては、以下の記事にポイントをまとめました。ぜひご参考にされてくださいね。
※インタビューの第1回目から11回目をまとめています。
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