教育現場における「提示の工夫」 指導者の提示用タブレット・編 ~望月陽一郎先生のお話より~
現役の先生に教育現場のICT活用について伺いました
大分県の中学校で教諭をされていらっしゃる望月陽一郎先生に、「教育におけるICT活用」を学校現場でどのように実践されてきたのか、お話を伺っています。
【望月陽一郎 先生・略歴】
大分市 中学校教諭(理科担当)。大分県教育センター 情報教育推進担当主事、指導主事、大分県 主幹等を経て、現職。
https://www.facebook.com/yoichiro.mochizuki/about を参照。
前回は望月先生の勤めている中学校で、Windowsタブレットをどのように活用しているのか、をテーマにお話を伺いました。「【Surface RT(一世代目)の仕様】」「【授業で使う際の課題となりそうな点】」「【iPadの方が優れている点】」等について、お話を伺いました。
参考記事:
教育現場におけるWindowsタブレット活用事例 ~望月陽一郎先生のお話より~
今回は「提示の工夫」という視点から、授業でタブレット端末を使用する際に気をつけたい点などを伺います。
○提示の工夫 実践例について
-私が学校に勤務していた際、講師同士で「あの先生はうまいよね」「へただよね」と、教え方のうまさが話題になる事がありました。
「教え方がうまい」と同業者から評価される講師の共通点の中に、「教材の提示がうまい」という点がありました。講師をめざす人は、話し方に自信がある人が多い一方で教材の見せ方に関しては差があるように、私見ですが感じていました。
タブレットで教材を見せる際に、どんな教材を見せたらよいか。どのように見せたらよいか。望月先生の工夫について教えていただけますか?
①なぜ「指導者の提示用タブレット」からか。
望月先生:まず、通常タブレットを学校に導入する際は、「指導者の提示用タブレット」として入れるところから始まります。
その理由としては、「学習者用タブレット」を導入する前に、指導者が十分タブレットを活用できていなければならないからです。
現状としては、教員1人1台校務用パソコンの整備は進んでいるものの、授業用パソコン・タブレットの導入はなかなか進んでいません。
-なるほど。校務用パソコンは配備されているのに、授業用の端末はまだいきわたっていないのですね。予算の問題があるのでしょうか?先生方が自分の端末を持ち込むのはセキュリティなどの問題があるでしょうし。
望月先生:そして、提示を考える際に、タブレットだけでなく必要なのが、「大型テレビ」あるいは「プロジェクター」が常設されていることです。
②なぜ「大型テレビ」あるいは「プロジェクター」の常設か。
-なぜ常設でしょうか?
望月先生:特に中学校では教科担任制のため、授業をする先生方が次々クラスを移動していきます。その時常設されていると、タブレットを接続するだけで使えるからです。この部分はとても大きなことなのです。
担任の先生が常駐する小学校と中学校の大きな違いですね。環境設定も別に考える必要があるのです。
③提示用はタブレットがよいのか。
-授業用パソコンという導入もあると思うのですが、望月先生はタブレットの方がよいということは何か理由があるのでしょうか?
望月先生:ノートパソコンよりタブレットは起動が速いなどの理由もあります。私はiPadを主に使っていますが(Surface2を使うときもあるので)、
- カメラ機能を使うことで実物投影機として
- 書き込みアプリで電子黒板として
使っています。
タブレット1台で、実物投影機+パソコン+電子黒板の役割を果たすとしたら、かなり安価ですね。
-そうですよね。電子黒板の価格を調べたら、16万円から35万円くらいの製品が見つかりました。実物投影機は、2万円代後半から20万円くらいまで幅が広かったです。フルハイビジョンの投影機だと40万円以上するようですから、「タブレット1台で、実物投影機+パソコン+電子黒板になる」というのはかなり現実的な考え方ですね。
望月先生:同じ予算ならおすすめですね。
④どんな提示教材を使っているのか。
-iPadを使って、どんなものを見せているのか、教えていただけますか?
望月先生:特別なデジタル教材は使っていませんし、作っていないのです。
このあたりがポイントですね。ICTを活用するのに時間がかかるという誤解を受けやすいのは「デジタル教材の作成は大変」というところから来ていることが多いです。
私は、
- 教科書、ワークシートの拡大(ハンディスキャナでなぞったりそのまま撮影したりした画像)
を主に使っています。以前紹介したEpson iProjection というアプリで簡単に書き込みができるので、その場で撮影してもOKですから。
なぜ教科書の画像を使うかというと、子どもたちはタブレットやデジタル教科書がないわけですから、特別な教材を準備するよりも、子どもたちの手元にあるものを大きく映して教材として使う方が理解の助けになるようです。
授業の感想でもよくこのことを書いてくれますね。
-なるほど。「子どもたちの手元にあるものを大きく映して教材として使う」のが、子どもたちにとってよいのですね。デジタル教科書やアプリ、動画などを映す方がよいのかと思っていました。
望月先生:動画は教科書にはないものですし、映して見せた方がよいと思いますよ。
⑤提示の際にOSの違いは問題になるのか。
-私はタブレット端末の違いについて目が行っていました。しかし、先生のブログには
「よくたずねられることの1つが、タブレットのOSです。回答としては、どれでもあまり変わりがないということです。なぜなら私が使っている例でいうと、OSに特化したり、アプリに依存したりする割合が少ないからです。カメラ機能とかたいていついていますよね」
と書かれていました。
望月先生:そうですね。今もiPadを使ったりSurfaceやNECタブレットを使ったりしていますが、基本機能は変わりませんし。
-なるべくOSに特化したり、アプリに依存したりしないで授業できる方法があれば、汎用性が高いように感じました。こういうやり方は大事ですよね。
今回は「指導者の提示用タブレット」のお話を伺いましたが、生徒がグループでタブレットを使うような場合では、また様子が違ってくるのではないかと思います。次回以降のインタビューで教えていただけますか?
望月先生:新学期は、Microsoft Surface とNECタブレットを使って新しい活用を考えていますので、それを含めてお話できるとよいですね。
おわりに
今回は望月先生が中学校の授業で実際に行っている、タブレットを利用した掲示の工夫についてお話を伺いました。
指導者の提示用タブレットを使った掲示の工夫を取り上げましたが、次回以降にグループでタブレットを使う場合など、違ったシチュエーションにおける掲示の工夫もご質問したいと思います。今回も興味深いお話をありがとうございました。
>>「教育現場における「タブレットのグループ活用」編 ~望月陽一郎先生のお話より~」に続く
参考記事
先導先生 - DiTT(デジタル教科書教材協議会)
※望月先生の32の取組みが紹介されています。
まとめ記事
今までに取材した「授業でのICT活用のポイント」「学校でICT機器を活用する時のポイント」「教材作成時に気をつけたい著作権の問題」などについては、以下の記事にポイントをまとめました。ぜひご参考にされてくださいね。
※インタビューの第1回目から11回目をまとめています。
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