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Software-Defined Network(10)SDN/OpenFlowのこれから

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これまで、SDN/OpenFlowに関して、様々な視点から整理をしてきました。

SDN/OpenFlowが今後、どのように展開されていくのが、技術的視点とビジネスの視点の両側面から整理をしてみたいと思います。

「オーバーレイ方式」と「ホップバイホップ方式」の行方

OpenFlowを使った構成モデルには、大きく分けて「オーバーレイ方式」と「ホップバイホップ方式」の二つがあります。

○オーバーレイ方式

「オーバーレイ方式」は、ネットワーク仮想化の実装にあたって、ノード上の仮想スイッチ(Open vSwitchなど)間をトンネルで結ぶ構成で、論理的なネットワークを構成し、OpenFlowのサポートやベンダーは問わず既存のネットワークのコア部分のファブリックのトポロジーをそのまま使えるというメリットがあります。「オーバーレイ方式」を採用している筆頭はNicira、ミドクラのMidonetなどがあります。

「オーバーレイ方式」のメリットは、既存のネットワーク資産を生かしながら、段階的にOpenFlowへの移行が進めることができるため、比較的導入がしやすくなります。

一方、「オーバーレイ方式」のデメリットは、細かなネットワーク設計に対応することが難しく、仮想スイッチ間をトンネル方式で接続するため、十分なパフォーマンスが出ない場合があります。そのため、Niciraが採用するStateless Transport Tunneling(STT)のトンネリングのプロトコルでは、ハードウェアアクセラレータを使ってパフォーマンスを向上させるといったような対応が必要となります。

○ホップバイホップ方式

「ホップバイホップ方式」は、OpenFlowの対応機器のみでネットワークを構成する方式で、OpenFlowコントローラーで制御することにより、柔軟な経路制御などを実現できるメリットがあります。「ホップバイホップ方式」を採用しているのは、NECのプログラマブルフロー「UNIVERGE PFシリーズ」などがあります。

「ホップバイホップ方式」のメリットは、十分なパフォーマンスが出ることです。ネットワーク機器ベンダでは、100G対応のOpenFlow対応製品を発売するなど、高速化が進んでいます。また、グーグルのような複数データセンター間を結ぶ大規模な環境を構築する場合は、柔軟なネットワーク設計が可能でパフォーマンスが出やすい「ホップバイホップ方式」が適していると言えるでしょう。

一方、「ホップバイホップ方式」のデメリットは、すべてのノードをOpenFlow対応機器に置き換える必要があるため、新規構築ではメリットがでるものの、既存のネットワークからマイグレーションをすることは極めて困難と言えます。

短期的には「オーバーレイ方式」、中長期的には「ホップバイホップ方式」、ハイブリッド対応も

以上のことから、短期的には、既存のネットワーク環境の資産の有効活用という観点から「オーバーレイ方式」の採用が進むと見られます。一方、新規サービスや既存のネットワーク機器の更改期には、「ホップバイホップ方式」の採用が有効で、中長期的にはパフォーマンスが高く柔軟なネットワーク設計が可能な「ホップバイホップ方式」の採用が進んでいくと見られます。

NTTデータが2012年6月8日に発表した「バーチャルネットワークコントローラ Ver2.0」や、ビッグスイッチなどは、この二つの方式に対応しており、初期の導入時は「オーバーレイ方式」を採用し、OpenFlowスイッチに置き換わった際に、不要になったトンネルを削除するといった導入方法も進んでいくでしょう。

 

クラウド基盤ソフトウェアなど上位レイヤとの連携が進む

SDN/OpenFlowはネットワーク部分にとどまらず、上位レイヤとの連携が進んでいます。

まずは、OpenStackやCloudStackなどのクラウド基盤ソフトウェアとの連携です。OpenStackの場合は、OpenStack QuantumがOpenFlowコントローラーとして仮想スイッチ(Open vSwitchなど)を制御することができます。Quantumに対応しているのは、NiciraのNVPやNECの「UNIVERGE PFシリーズ」、ミドクラのMidonetのベータ版などが対応しています。NiciraはQuantum APIの実装をサポートしており、NECはQuntum Plug-inとOpenFlowコントローラのオープンソースの「Trema]を使うことで、OpenStackとNECの仮想スイッチの「UNIVERGE PFシリーズ」との連携が可能となります。

OpenStackとOpenFlowとの連携においては、すでにRackspaceやeBayにおいて導入が進んでいます。

ClouStackとOpenFlowとの連携も進んでいます。2012年5月にリリースされたCloudStack3.0.3のBonitaは、OpenFlowのテクニカルプレビューを発表し、2012年4月に開催されたOpen Networking Summitにおいてもデモを実施しています(関連記事)。

CloudStackは、第4四半期に予定しているメジャーバージョンアップのCampoではOpenFlowにフル対応する予定となっています。導入事例では、オランダに本社を置くSchuberg PhilisがCloudSackとNiciraのNVPを採用しています。

IIJとACCESSとの合弁会社「ストラトスフィア」では、「SDN IaaS」の商用版のリリースを予定しており、2012年以降はSDN IaaSにPaaS機能を取り込んだ総合的なCloud OSをリリース予定など、SDNをベースに機能別水平分離とスタック化モデルの展開を図っています。

シスコシステムが2012年7月に発表した「Cisco ONE(Cisco Open Network Environment)」では、広義のSDN実現に向けて、仮想マシンなどとのオーケストレーション、ネットワークサービス、管理までを「onePK」と呼ばれる包括的なAPIで対応する方針を示しています。

OpenFlowコントローラはOSとしての機能のみで、今後OpenFlow APIなどを通じてサードパーティから様々なアプリケーションが提供されるようになり、SDNを中心としたエコシステムが形成されることが期待されます。その結果、仮想マシンやストレージなど上位レイヤとの連携が進み、仮想ネットワークと一体となったオンデマンドでセルフポータルの利便性のサービスが提供されるようになるでしょう。

 

業界の再編とオープン化が進む

SDN/OpenFlowの普及は、ネットワーク市場の構造を大きく変え、業界の再編、オープン化を大きく推進する可能性があります。

SDN/OpenFlowにより、ネットワーク機器のコモディティ化が進み、ネットワーク機器の低価格化、いわゆるネットワーク機器のチープ革命が進むことになります。ベンダーから機器を買わずに、台湾のODM(Original Design Manufacturing)ベンダーに機器を作らせる動きもあり、さらなる価格破壊が進む可能性があります。

SDN/OpenFlowの市場には、大学からスピンアウトしたNiciraやビッグスイッチのようなスタートアップ企業も多く、今後も多くのスタートアップ企業が生まれる可能性があり、VMwareがNiciraを買収したようにスタートアップ企業が台風の目となり、業界再編を大きく促すことになるでしょう。

独自プロトコルで提供していた既存の大手ネットワーク機器ベンダーにとっては、SDN/OpenFlowの普及は、垂直統合モデルの破壊を意味しています。パソコン型のハードウエア(仮想スイッチ)、コントローラ(OS)、アプリケーションのそれぞれのレイヤによる水平分散型のモデルにシフトし、それぞれのレイヤでイノベーションを生み出すためのオープン化と連携による大きな戦略転換が必要となります。

シスコシステムズの場合は、「Cisco ONE(Cisco Open Network Environment)」でオープン化の推進を発表しましたが、自社のこれまでのコア領域を自ら創造破壊するという自社の利益相反にもつながる可能性があり、SDNに上位レイヤまで加えた領域まで拡大することで、サードパーティを取り込み新たな市場開拓をしていく展開を進めています。

また、NECのように、積極的にOpenFlowを展開する事業者も見られ、今後OpenFlow対応機器を積極的に投入し、早期に市場シェアの獲得をする動きが見られます。

 

ユーザはデータセンター事業者やクラウド事業者から一般ユーザへ

SDN/OpenFlowの利用は、これまでデータセンター事業者やクラウド事業者などのサービスを提供する大規模事業者が中心でした。今後、SDN/OpenFlowが本格的に利用するにあたっては、さらなるネットワーク機器のコモディティ化による低価格化が進み、企業ユーザが、クラウドを利用するにあたって、仮想サーバ、仮想ストレージを利用するように、仮想ネットワークもオンデマンドで利用できる環境へ普及が進んでいくことになるでしょう。まだ、技術の標準化など課題も多く残されていますが、クラウドやサーバの仮想化と技術の進展に伴い、ネットワークの仮想化が進み、業界とユーザに大きな変化をもたしていく日はそう遠くはないのかもしれません。


オープンクラウド入門 CloudStack、OpenStack、OpenFlow、激化するクラウドの覇権争い (Next Publishing(Cloudシリーズ))

 

 

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担当キュレーター「わんとぴ
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