齢72の私の父、昨年はじめてパソコンに挑戦をした。そのときのことは以前のブログにも書いた。
私の実家は、新東京タワー建設、駅前開発で変化し続ける東京の下町向島にある。
先日私は、父のパソコンをインターネット接続をするべく、実家へ向かった。

プロバイダーから届いたモデムの箱の封は開けた跡すらなく、きれいなままだった。
おそらく私が来るまで誰も触らなかったと思われた。うっかり開けてしまって何か大切なものが
なくなっては困る、いったい何か大切なものなのかすらわからない父と母は、私が来るまでの間、
まるで宝物を扱うようにその箱を保管していた。

ネットの接続作業はあっという間だった。機械が苦手、マニュアルを読むのが面倒、
そんな初心者ユーザーのために、各種設定が1枚のCD-ROMになっていた。
それをマシンに入れ、指示どおりに入力して後は待つだけ。なんと簡単なのだろう。
数年前、まだ私の自宅がISDNだったころと比較すると、断然便利になったものだ。

さて父はというと、私の横で私の作業を見ながらこうつぶやいた。
「まさか、子供からパソコンを教えてもらうとは夢にも思わなかった」
アハハハ、そうだろうよ。どんなに年を重ねても親は親、子は子である。
少しは見直してくれたのだろうか?

設定作業が終わり、無事ネットにつながった。
ほっとする私に待ち受けていたのは、パソコン用語の壁だった。

まずは、メールとブラウザの使い方の指南。
私はカタカナで画用紙に大きく書く。
・インターネットエクスプローラー
・アウトルックエクスプレス
ブラウザだとか、メーラーだとか、使い慣れた用語を
父にわかりやすく説明することの難しさったらない。
父にとっては英語というよりは、宇宙語だろう。

「カーソルが矢印マークから指マークになったらクリック!」
絵が苦手な私は、矢印と指マークを画用紙に書いたが、あまりの下手さ加減に落胆する。
「もう一度見たいページがあったら、お気に入りに追加すると便利だよ」
なんだ? お気に入りって(怒)、なんて説明したらわかるかなあ~。
「いや違う違う、この下にも何か書いてあるから、スクロールして!」
スクロールってわかんないよなぁ、わかりやすく言うとなんだろう?
映画館にあるある! それは、スクリーン。
スキーの競技、それは、スラローム。
城達也さんは、ジェットストリーム……ひとりボケ突っ込みをしている場合じゃない。

Blog_070228_2












(ノートPCの画面を拡大鏡で見る父。マウスを持つ手にも力が入る)

パソコンと格闘し続けること数時間、いよいよメール送信に挑戦した。
父は私の携帯へ初メールを送ってくれた。その全文がこれだ。
--------------------------------------------
件名:今日はこくろうさま
本文:私の健康をしんばいしてありがとう
--------------------------------------------
たったこれだけのメールに彼は30分以上かかった。
濁点がなかったり、日本語がおかしかったりしたが、
私はとてもうれしかった。そして少し照れくさかった。
これをきっかけにメル友でもできれば上出来である。

ふっと気がつけば、私が持ってきたゲームボーイミクロ(マリオvs.ドンキーコング)で
遊ぶ甥っ子たちが、父の隣で私の順番待ちをしている。
どうやらアクションゲーム指南をしなければ解放してくれないらしい。
デジタルにはまる72歳、7歳、4歳の男たちに私はもてあそばれている。

小島 貴香子

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