【スパイ防止法】謎が多かった中国スパイ防止法の全体像を公開資料から調査/分析/レポート
ChatGPT 5(有料版)やGemini Pro 2.5(有料版)は軍事的な意味で言うインテリジェンスにも有用であるということを過去の複数の投稿でデモンストレーションして来ました。高市政権で議論される可能性のあるスパイ防止法制定についても、議論の素材として、諸外国のスパイ防止法ないしそれに相当する法律の概要を知ることには大きな意味があります。概要がわかれば、さらに深堀すべきポイントもわかります。(ChatGPT 5によりその国の言語の資料を駆使して深掘りできます。)
昨日のセミナーでも反響があったChatGPT 5活用のユースケースとして以下を記します。
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以下は、中華人民共和国(中国)の「スパイ防止法」(正式名:中华人民共和国反间谍法/Counter-Espionage Law)を、制度設計の観点から整理し、欧米諸国との違いを際立たせながら、我が国の議員・報道機関の参考になりうる論点を整理したものです。
1. 法制度の概要
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本法は、2014年11月1日に制定・施行されました。 chinajusticeobserver.com+2China Law Translate+2
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その後、2023年4月26日に改正され、2023年7月1日から改正法が施行されています。 lawinfochina.com+1
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第1条にて「スパイ行為を防止・制止・処罰し、国家の安全を維持するため」制定された旨が明記されています。 Air University+1
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第4条では、スパイ行為( espionage )の定義として、国外・国内の組織・個人が国家安全に危害を及ぼす活動を行うこと、或いは外国機関が関与するもの、などが挙げられています。 安全の手引き+2lawinfochina.com+2
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改正により、企業・機関・個人の「支援・協力義務」が明記され、国内外の事業活動・データ流通なども「国家安全」の観点から規制対象になったとの解説があります。 Pillsbury Law+1
2. 欧米諸国との主な相違点(際立たせるべきポイント)
(1) 対象範囲・定義の広さ
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中国法では、スパイ行為の定義が「国家安全」や「国家利益」に関わるあらゆる文書・データ・資料・物品の不法提供・窃取・買収、あるいは外国組織・個人による活動との連携を含むものと定められています。 安全の手引き+2Air University+2
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一方、民主主義国家(例:英国、米国、オーストラリア等)では、対象が比較的明示されており、「軍事・外交の機密情報」など国家防衛関連に焦点が絞られている傾向があります。例として、英国のOfficial Secrets Act 1911等では制度設計の起点に「国家機密」と「公務員守秘義務」があります。
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つまり、中国では「国家安全」という概念が非常に包括的かつ上位概念であり、企業活動・国際業務・研究開発・通信データなども包摂しうる構造です。
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この点が、法案設計者・議員が検討すべき大きな差分です。
(2) 義務・協力の明記と監視の制度化
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改正法においては、すべての市民・組織が反スパイ活動を支持・協力する義務を負うとされており(例:第8条)、「国家安全機関の任務への協力義務」が制度化されています。 subsites.chinadaily.com.cn
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また、国家安全部門が関係企業・組織に対してデータの提出、立ち入り調査、出国制限等を命じることが可能との分析あり。 ジェトロ
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欧米諸国では、こうした義務・監視制度はあるものの、概ね「明示的な協力義務」「企業・研究機関への包括的立ち入り権限」までは明記されていない制度設計が多い。
(3) 運用・透明性・法の恣意的適用リスク
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中国の制度では、対象範囲が広く、政府・党・安全機関の判断余地が大きいため、法の運用が恣意的になりういという批判があります。 CISTEC
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例えば、外国企業幹部・研究者・データ担当者が「国家安全に危害を与えた疑い」として逮捕される事例も報じられています。 外務省
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欧米モデルでは、司法の独立性・公開性・報道の自由・告発者保護などのエスカレーターが比較的制度化されており、法律運用における政府恣意的運用への抑制メカニズムがより発展しています。
(4) 経済・技術・データ領域まで含む国家安全観の広がり
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中国法改正の背景には、「データ」「AI」「重要インフラ」「国外クラウド・研究データ」など、典型的なスパイ・軍事機密だけでなく「技術・経済安全保障」分野への波及があると分析されています。 Crowell & Moring
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欧米諸国でも経済安全保障の観点は強まっていますが、中国法のように「事業・研究・データ流通」そのものが国家安全義務の枠内に位置づけられているケースは、むしろ極端と評価されます。
3. 日本の国会議員・報道機関向けに留意すべき論点
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法案設計においては、「国家安全」概念をどこまで広義に捉えるか、その線引きをあらかじめ明確にすることが重要です。中国のように曖昧にすると、自由や表現、研究活動が萎縮するリスクがあります。
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企業・研究機関・外国人等を含む協力義務・報告義務を設ける場合、どの程度まで義務化・監査化するか慎重に検討すべきです。過度な義務化は国際企業の活動を萎えさせうるからです。
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司法の独立性・手続の透明性を担保する仕組みを同時に設計すべきです。中国の制度では、司法手続が非公開・秘密裏運用されるケースが報じられており、報道機関の参考になります。
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同時に、経済安全保障・データ安全保障・AI・クラウド化・研究開発流出など、新たな「スパイ/情報漏洩」リスクが顕在化しているため、これらを対象とする際の条文・監査機関・国際協調の枠組みも考慮すべきです。
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また、モデルとして「極端な例」を理解しておくことは、我が国の法制設計において「どこまで回避すべき過度対応か」を判断するうえで有益です。中国の制度はその意味で"警戒モデル"として価値があります。