高市首相の選択制労働時間規制撤廃の効果をフラットに考えてみた 〜総労働時間の見える化まで踏み込む〜
高市早苗首相の代表質問への回答で「残業代が稼げないから副業し、心身を壊す」という発言がありました。これは、通算労働時間の管理が難しい現状を踏まえると一定の現実味があります。
ただし、賃上げに効く本丸は"時間"ではなく"時間あたりの生産性"。
ここに加えて、今回さらに一歩踏み込み、副業を含む総労働時間をどう管理し、社会全体で分析可能にするかを提案として整理します。
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1. 何が問題なのか?
- 副業自体は善悪ではなく設計の問題。総労働時間が膨らみやすく、健康リスクや事故リスクが見えにくい。
-副業は、自己が選択して行なっている訳であり、残業のように押し付けられる空気感とは性質が異なるため、副業の弊害の代わりに残業を選択し稼げば、メンタルリスクが下がるというロジックはアンバランスに映る。
- 時間弾力化は賃金上昇の決め手にならない。持続的な賃上げは、生産性向上(業務再設計・DX投資・職務/スキル基準の報酬)とセットでないと機能しない。
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2. 企業・個人・社会で"総労働時間"を管理する仕組み 実装私案
〔企業側の実務フロー〕
- 統合台帳:本業・副業・ギグを横断して総労働時間台帳(Working Hours Ledger)を保持。勤怠と給与(ペイロール)、委託実績、クラウド工数をひも付ける。
- 接続標準:勤怠・給与・工数の共通データスキーマを策定(例:勤務開始・終了時刻、休憩、深夜・休日区分、雇用形態、契約種別、就業場所)。ベンダー各社はAPIで相互連携。
- 予防アラート:通算の週・月しきい値(例:週60h、月45h超の継続など)に達する前にリアルタイム警告。産業医・EAP・上長へ連絡、スケジュール自動調整。
- 契約統制:複数就業合意書に優先順位(プライマリ/セカンダリ)と健康確保措置を明記。繁忙期はどちらを抑制するか事前に取り決める。
- 成果基準化:時間で稼ぐモデルから成果・スキル基準の報酬設計へ移行し、長時間をインセンティブにしない。
※副業規定のある会社へは導入を義務化するとともに、当該規定がある会社への助成とセットで多様な働き方を推進する枠組みも検討する
〔個人側のコントロール〕
- マイ・ワークタイム:労働者自身が全就業の打刻・予定・睡眠・通勤を一元管理する個人アプリ。雇用契約・委託契約・ギグの証跡を一か所で管理。
- 健康管理アプリとの統合や連携:上記の機能をヘルスケアやあすけんやFiNCなどの健康管理アプリ上に統合、もしくは単体アプリとして健康管理アプリと連携し、日々の打刻管理をマイル化してモチベーションコントロール。
- セルフ・アラート:週・月のしきい値、睡眠不足や連勤などに応じた自己アラート。休暇取得提案、勤務変更リクエストを自動生成。
- 同意管理:どの雇用主にどの粒度のデータを開示するかを同意パネルで選択(総時間のみ/日付のみなど)。
〔社会インフラ(ガバメント/業界横断)〕
- データ・トラスト:本人同意に基づき、複数雇用主からの勤怠要約(週・月の総時間等)を匿名化・集約する第三者受託機関(公的・準公的)を設置。
- 研究アクセス:匿名化・差分プライバシを適用した形でアカデミア・シンクタンクへ提供。地域・産業別の過重労働や副業動向を継続モニタ。
- 標準・監督:個人情報保護委員会・厚労省主導で技術標準(API・ID連携・監査ログ)と運用指針を発出。監査可能性(誰がいつ何を見たか)を記録。
- 連携領域:労働基準監督行政、交通・労災統計、医療・睡眠データ(ドック・ウェアラブル)と突合できるセーフティ連携を設計(本人同意の範囲内)。
セキュリティ・プライバシ
- 最小化と段階化:雇用主間は総量のみ共有し、詳細ログは共有しない。本人は詳細を保持。
- 匿名化:地区・業種・規模でk-匿名を満たす集計のみ公表。個票は外部非公開。
- 監査ログと制裁:不正閲覧には厳罰。監査ログはデータ・トラストで常時保全。
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3. これで何が解けるか(政策・企業のメリット)
- 健康確保:通算時間の早期アラートで、過労・事故・医療費増を予防。
- 賃上げ設計:時間ではなく成果・スキルに支払いを寄せられる土台ができ、長時間依存から脱却。
- 生産性分析:産業・職種・地域ごとの時間×成果の相関を実証でき、投資先(自動化・教育)の優先度が立つ。
- レピュテーション:透明性の高い企業は採用市場で優位に。人的資本開示にも整合。
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4. 生産性起点の賃上げに向けた優先順位
- 仕事の再設計(タスク分解・自動化・ボトルネック除去)
- 職務・スキル基準の賃金への転換(Pay for Performance / Skill-Based Pay)
- 総労働時間の可視化と健康確保(データ・トラスト、共通スキーマ、リアルタイム警告)
- 管理職のKPIを「部下の総労働時間・休暇取得・生産性」へシフト
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働く時間を"選ばせる"だけでは、賃金も健康も守れません。副業を含む総労働時間の見える化と予防の仕組みを社会実装し、同時に時間あたりの生産性を上げる----この二段構えでこそ、賃上げの実効性と持続性が生まれます。