AI時代の羅針盤:「AIレディネス」を超え、「ヒューマンレディネス」を高める方法
ChatGPTをはじめとする生成AIの登場により、私たちの仕事や生活は急速に変化しています。誰もが「AIをどう使いこなすか」に注目し、「AIレディネス(AIをうまく使うための準備や視点)」を高めようと努力しているのではないでしょうか。
もちろん、AIレディネスを高めることは重要です。しかし、AIによって社会のルールや常識そのものが変わろうとしている今、私たちが本当に高めるべきは、AIによって「自分自身をどう変えていくか」を考える視点、すなわち「ヒューマンレディネス」ではないでしょうか。
「古い地図」の改善か、「新しい地図」の創造か
「AIレディネス」と「ヒューマンレディネス」。この2つの違いを「地図」のメタファーで考えてみましょう。
AIレディネスとは「改善」の視点です。
これは、今私たちが持っている「古い地図(既存の社会システムや仕事の進め方)」の中で、AIという新しい道具を使って、いかに現在地からゴールまで速く、効率的に到達できるかを考えることです。言わば「古い地図を最速で進む技術」です。
ヒューマンレディネスとは「変革」の視点です。
これは、AIの登場によって社会や常識が根本から変わり、「まったく新しい地図」がこれから描かれることを前提とします。AIがあることを前提に、これまでになかった価値を生みだし、新しい社会や生き方、新しいゴールそのものを創り出すことです。言わば「新しい地図を描き直す視点」です。
なぜ「新しい地図」を描く視点が必要なのか
AIによって社会の常識が変わり、世の中の「地図」そのものが新しいものに置き換わろうとしているのに、私たちが古い地図を頼りにゴールを目指しても意味がありません。
AIレディネスを高めて、古い地図の上で生産性を2倍、3倍にできたとしても、新しい地図の上ではその仕事自体が必要なくなっているかもしれないのです。
だからこそ、私たちはAIレディネスという「改善」の視点にとどまらず、「ヒューマンレディネス」という「変革」の視点を持ち、新しい地図に合わせて自分の働き方、生き方、価値観を作り直していかなければなりません。
「新しい地図」を「机上の空論」にしない「実践知」
AIは膨大なデータから素晴らしい「答え」を導き出します。しかし、AIの答えは、それだけではデータの世界に閉じた「仮想」の答えであり、「机上の空論」になってしまう危険性をはらんでいます。
ここで重要になるのが、AIが持っていない、人間ならではの「実践知(生きた知性)」です。
最近話題の「コーヒーテスト」という言葉をご存知でしょうか。これは、「知らないオフィスに入り、コーヒーメーカーを見つけ、コーヒーを淹れて持ってくる」といった、人間には簡単でもAI(を搭載したロボット)には非常に難しいタスクを指します。
AIは「コーヒーメーカーの使い方」をデータとして知っていても、「オフィスの間取りからキッチンのありそうな場所を推測し」「マシンやカップを見つけ」「豆や水があるか確認し」「障害物を避けながら戻ってくる」といった、現実世界での複雑な状況判断と行動ができません。
これこそが、AIにはない、私たち人間が日常生活や体験で培ってきた「実践知」です。それは、身体感覚、五感、暗黙知、文脈の理解、感情の読み取りといった、現実世界との関わりの中でしか得られない「生きた知性」の総称です。
私たちが描くべき「新しい地図」が、単なる机上の空論ではなく、現実の社会や日常をより良いものにするためには、この「実践知」が絶対に不可欠です。
そして「ヒューマンレディネス」とは、まさにこのAIにはない「実践知」を磨き、AIと協働して「新しい地図」を創造し、現実の社会に賢明に実装していく能力そのものを指すのです。
ヒューマンレディネス(=実践知)を磨く3つの方法
では、AIがアクセスできない「実践知」は、どうすれば磨くことができるのでしょうか。そのヒントは、AIにはできない、私たち人間にしかできない「生きた現実」との関わりにあります。
1. 沢山の本を読む(論理的な知性を磨く)
AIが「答えを出す」道具であるなら、私たち人間には「問いを立てる」能力が求められます。良質な本を沢山読むことは、AIに的確な「問い」を立てるための土台となる論理的思考力や、幅広い教養を身につけさせてくれます。
また、AIが生成した答えを鵜呑みにせず、その内容が本当に正しいか、適切かを判断する「批判的な視点」も、読書を通じて養われます。これは、AIの答えを「実践」に落とし込むための土台となります。
2. 沢山の人と話す(共感的な知性を磨く)
AIとの対話は「テキスト(情報)」の交換ですが、人間同士の対話は「感情の交流」を伴います。人と話すとき、私たちは言葉以外の膨大な情報(声のトーン、表情、視線、間の取り方)から、AIが理解できない「感情」や「文脈」を読み取っています。
この「情動的なキャッチボール」を通じて培われる「共感の知性」こそ、他者と協調して「新しい地図」を社会に実装していく「実践」の核となります。
3. 沢山の旅(体験)をする(身体的な知性を磨く)
AIの学習が「データ(仮想)」の世界で完結するのに対し、人間の学習は「身体(現実)」を通じて行われます。旅や新しい体験は、まさにこの「身体知」を強制的にアップデートします。
異国のスパイスの「匂い」、石畳の「感触」、予測不可能な「偶然の出会い(セレンディピティ)」。こうした五感と身体をフル稼働させ、「曖昧な状況で、なんとかする力」を養うことこそ、マニュアルのない現実世界で価値を生み出す「実践」そのものです。
ヒューマンレディネス=新しい地図×実践知
AIが「答え」を出す道具であるならば、私たち人間の役割は、AIにはない「実践知」を用いてAIに「賢明な問い」を与え、AIが出した答えを「現実に即した価値」へと変えていくことです。
AIと共に「新しい地図」を描くこと。そして、その地図が単なる机上の空論ではなく、私たちの社会や日常をより良いものにしていくためには、「実践知」(=論理・共感・身体知)に裏打ちされた「ヒューマンレディネス」が不可欠です。
AIレディネスを学ぶことも大切ですが、それ以上に、本を読み、人と話し、旅(体験)を通じて、この「生きた知性」を磨き続けること。
それこそが、AI時代に本当に価値ある地図を描くための「ヒューマンレディネス」を高める、最高の方法なのだと信じています。
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