オルタナティブ・ブログ > インフラコモンズ今泉の多方面ブログ >

株式会社インフラコモンズ代表取締役の今泉大輔が、現在進行形で取り組んでいるコンシューマ向けITサービス、バイオマス燃料取引の他、これまで関わってきたデータ経営、海外起業、イノベーション、再エネなどの話題について書いて行きます。

木質バイオマス燃料の現在:PKS

»

大変にご無沙汰いたしております。前回書いた投稿もなんとなく中途半端なところで終わっていました。

現在、再生可能エネルギー固定価格買取制度の下で運営される木質バイオマス発電所やパーム系ディーゼル発電所の燃料の輸入に携わっております。先週もマレーシアのクアラルンプールとクアンタンに行って、PKSの輸出会社やPKSのストックパイルの実見をしてきました。

PKS以外にも、ベトナムで木質ペレットのサプライヤーをゼロから開拓して輸出できる目鼻をつけたり、パーム系ディーゼル発電所用のパーム系油種の手当て、また、最近私の周囲で取り組みが進んでいる、パーム油に別な燃料を混ぜることで、日本の気温でも固化しない燃料になるという、混合油種の手当てにも取り組んでいます。

その他、珍しいところでは、カシューナッツを生産する過程で出てくる、カシューの殻。その殻から油を絞った後に取れる、カシュー搾油殻と呼ばれる燃料。この燃料はPKSと同等の重量当たり熱量があり、PKS代替燃料になるポテンシャルを持っているのですが、そうしたもののサプライヤー開発にも取り組んでいます。

この関連は、日々の業務として取り組んでいるため、情報のインプットやブログを書くための事前のリサーチなしで書けます。よって、すばやく、色々の投稿を上げられる気がするため、少し自分で試してみたいと思います。

まずは、PKSから。

■PKSの価格について

PKSについては、これをお読みの方は、前段的な情報はすでにかなりご存知だと思いますので割愛します。検索すれば色々なところで出てきます。日本語でもっとも情報が詰まっているのは、バイオマス燃料の業界誌である「オンサイトレポート」の編集長、滝沢渉氏がNPO法人バイオマス産業社会ネットワークの招きに応じて講演した際の資料、「バイオマス発電等で使用されるアブラヤシ核殻(PKS)の最新動向」ですね。これだけ読んでおけば、発電燃料として使われるPKSの概略はつかめます。

PKSは、輸入される木質バイオマス発電所の燃料としてはダントツの採用率です。使っているのは主に、輸入燃料の荷揚げ港の近隣区域に建設された20MW以上の発電所です。20MW以上の木質バイオマス発電所を、便宜的に大型発電所と呼ぶことにします。

大型発電所の分野では過去3年の経験から、より大きな出力が有利ということが経験的に学ばれて、現在の新設発電所の主戦場は50MW以上になっています。20MWで取り組んだものの、発電効率がよろしくなくて、結果として売電売上が予期した採算性(IRR 10%以上等)を実現できず、かといって大変に安価な燃料の輸入のメドも立たず、ペンディングになっているというケースがあったりします。

こうした大型発電所のうち、現在動いているところで焚かれているのは、8割9割がPKSです。なぜならば、熱量当たりの価格がもっとも安価だから。PKSは、低位発熱量4,000kcal/kg前後。発電の世界では高位発熱量は見ずにもっぱら低位発熱量のみを見ます。理由はインターネットの各所で解説されているので、それをご覧下さい。

価格は上記オンサイトレポートが報じている2016年暦年平均価格によると、マレーシア産もインドネシア産も、CIFでトン当たり1万1,000円となっています。インドネシアではご存知のように輸出税等がかかるようになり、2016年時点で10ドル/トンがかかっていましたが、それが課税された後の状態で日本の主要港渡し価格(CIF)がマレーシアと変わらないというのはまことに興味深いです。インドネシアのPKS輸出事業者がその税金の分を自分たちで吸収しているということでしょう。

もっともPKSの価格は人為的に決められているところがあり、FITが始まり木質バイオマス発電所が運開する以前は、FOB 30ドル〜40ドル/トン程度だったと聞いたことがあります。その後に、色々な経緯があり、現在はFOB 80ドル/トンがおおむね標準的な価格になっています。この間、50ドル/トン上がったわけですが、この上昇を合理的に説明できる要因がありません。単に需給関係のみが値上がり要素となっています。多くの日本企業が買付に来るから値段を上げてもまだ買うだろうという、現地の方の判断があるものと推測されます。これは、買い手の発電事業者にとっては好ましいものではありませんね。代替燃料で、安定供給が可能なものが潤沢に出てくる時代になると、PKSは需給により値崩れするでしょう。

PKSを日本でもっともたくさん買っている発電事業者の関係者、ないしそこに燃料を供給しようとしている会社とも情報交換をすることがありますが、大手需要家にはたくさんの売り手側の情報が集まってくるため、PKS全体の趨勢がわかります。その方々によると、中期的には値下がり傾向にあると読んでいるようです。よって、中期〜長期の価格固定調達契約はあまり意味がなく、むしろスポット取引でその都度安いものを手当てした方が、事業期間中の燃料調達平均コストの下げにつながると見ており、スポットを増やす向きもあったりします。

もっとも、PKSを購入している多くの需要家は商社、燃料商社経由で買っているところが多く、そうしたサプライヤーの一時的な価格情報が集まるところにいませんから、そうした全体の趨勢はわからないだろうと思います。

PKSに限らず、ものの売り買いでは、多くの売り情報、買い情報が集まる場所に自分がいて、もっとも直近のもっともリアルな価格がわかっていると、売りにしても買いにしても、有利に立てます。すなわち、その時点においてもっとも安い価格(取引が成立している価格)がいくらであるかがわかれば、その価格近辺で売る売り手を探して取引すれば、他社よりもうんと安い燃料調達ができます。また、売り手サイドで、その時点におけるもっとも高い売りの価格がわかれば、安い値を言う事業者には売らずに、高い事業者を見つけることもできるでしょう。このへんは、ごく一般的な市場メカニズムが働くわけです。

■PKSの最近動向、ポイント

PKSの最近の動向で、シェアしておくべきポイントをいくつか記します。

・インドネシアでは税等の負担が17ドル/トンになり、これの負担を誰が負うのかが焦点。商談をする際に、現地サプライヤーは税負担のないマレーシア産と比較する習慣がない主体が多いため、この税等を外税で済ませることができると考えている場合に、あとで買い手側と食い違いが生じるケースがある。商談初期の段階から税等の負担について、それを含めたFOB価格、CIF価格ということで値決めをすることが重要。

・ストックパイルに異物除去のための機械等を導入していないところが未だに数多く存在している。通例、日本の買い手はそういうサプライヤーを敬遠しているが、その結果として、非常に多数の、日本に輸出経験のないPKSサプライヤー(ストックパイル保有者)が生じている。そうした、異物除去装置を導入していないところを狙い撃ちして、買い手側がそれら装置の負担を受け持ち、その代わりに、5年間は安いFOB価格で売ってもらうといった交換条件を設定することも、さほど難しくはないと思われる。むしろ歓迎される可能性がある。そうした、日本への輸出未経験サプライヤーがこれから草刈り場となる可能性。

・一部には月間3万トン〜5万トンが供給可能な大型サプライヤーが、インドネシアでもマレーシアでも存在している。そうした大型サプライヤーと取引をする際の利点は、ストックパイルコストなど規模の利益が働く要素が多々、組み込まれていれば、値下げ代がかなりあったりする。大口で買うのでディスカウントしてくれ、という交渉が可能になる。

・また、一方で、1万トン/月が出荷可能なクラス(中小)では、輸出に慣れていないケースであれば、こちら主導で値決めができる。

・異物除去の要求水準は早期に明確化しておいた方が良い。トロピカルな文化では、日本のように几帳面なクリーンネスというのははなからわからないケースがあるから、要求を数値化して提示して、それが守れるようになるまで指導する必要がある。しつこく言わないとわからないケースが多いため。

・インドネシアでは特に、マレーシアではまれに、ストックパイルを複数企業で共有しているケースがある。ここでは、Aというサプライヤーがわれわれを連れてストックパイルを見せる場合に、「ここは自分たちのストックパイルだ」と言い、Bというサプライヤーがそこへ連れて行った際にも、「ここは自分たちのストックパイルだ」と言う。そういうケースが多々ある。そのストックパイルの使用権は、早くに顧客を獲得したサプライヤーが持つ、あるいは、もっとも高い使用料を払ったサプライヤーが持つ、ということになる。早くに埋まってしまうと、別なストックパイルを探さないといけない。

・インドネシアでは、ブローカーの多段階構造が認められる。一方で、日本の買い手企業は、多段階構造の上から買うことはほぼ無理。現地の相当のコネクションがない限り、安い価格を出す上層のサプライヤーとはやりとりができない。

・マレーシアではFELDAを筆頭に大手パームプランテーション保有者、パーム搾油・輸出事業者が日本の買い手がアクセスできる場所に存在しており、系列企業からPKSを買うことができるが、その場合でも中間にいるブローカー1〜2主体をスキップすることは難しい。

・1年以上の価格固定売買契約は無理と思うべき。むしろ、上記の中期的には価格が緩む可能性を前提として、1年単位の契約を更新していく方が、現時点の判断としては、賢明だと思われる。

・木質ペレットの価格はPKSと比較して20ドル/トン程度高いとしても、大型発電所のプロジェクトファイナンスを組むケースでは、PKSの予測不可能性がレンダーから嫌われて、PKSではプロファイが組めないケースが多々発生。消去法的に木質ペレットが選択される。木質ペレットの関連事項は別投稿で記す予定だが、20年間の安定供給の「ストラクチャリング」が求められている。レンダーが納得する、金融関連のリスクヘッジ方策が複数組み込まれたストラクチャリングが必要になる。

こういうところかなと思います。

1万トン/月クラスのPKSサプライヤーでしたら、複数の手持ちがあります。何かありましたら、お問い合わせ下さい。daisuke-imaizumiアットマークinfra-commons.jp

P1090216.jpg

Comment(0)