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株式会社インフラコモンズ代表取締役の今泉大輔が、現在進行形で取り組んでいるコンシューマ向けITサービス、バイオマス燃料取引の他、これまで関わってきたデータ経営、海外起業、イノベーション、再エネなどの話題について書いて行きます。

震災復興には海外資本にも開放したインフラPPPの枠組みを

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今回の震災で被災された方々にお見舞いを申し上げます。
本日から再開させていただきます。

インフラ投資ジャーナルでは、平常時は「輸出」ないし「海外事業」の対象としてインフラを見ています。しかし現在は、電力、鉄道、道路、物流、上下水道、住居といった「日本のインフラ」がまさに甚大な被害を受けている状況です。
現時点では急を要する対応に関心の焦点が集まっていますが、ゆくゆくは復興の具体方策が課題になってくるはずです。その時に参考になりうるインフラ整備の方法論について確認しておきたいと思います。

■国や自治体の予算が不足している状況でインフラを整備するために

イギリスやオーストラリアで発展したPublick-Private Partnership(以下PPP、「官民連携」と訳される)は、官が行うべきインフラ整備やインフラ運営事業において、民間が行った場合により価値の高い運営(Value for Money)ができるのであれば、積極的に民間に任せていこうという、いわゆる「民営化」の1つの方式です。
国によってはPFI(Private Finance Initiative)と呼ぶこともあり、また、同じPPPという言葉を使っていても中身が若干異なる場合もあります。ここでは、イギリス、オーストラリア、米国などの先進国に加えて、インド、シンガポール、インドネシアなどのアジアの国々でも使っている、ごく標準的な意味でのPPPに限って話を進めます。なお、このPPPは日本ではまだ事例に乏しく、一般的だとは言えません。

インフラは新設に巨額の資金がかかります。今回の震災の復興で整備されることになるインフラについても、かなりの額の資金が必要になることでしょう。政府や各自治体に相応の資金の余裕がある場合にはよいのですが、現況を考えるとそうだとは言えません。

そういう状況でインフラを整備するには、政府ないし自治体の権限によって、特定の民間企業に「貴社だけがこのインフラを向こう25年にわたって運営する権利がある」と特別の許可を与え、そのインフラから生まれる収益をその民間企業が得ることを認めるようにします。長期にわたる収益を保証された民間企業の側は、その保証された収益を配当ないし返済の原資として、他の企業から出資を受けたり、銀行から長期の融資を受けたりして、インフラの新設に必要な巨額の資金を調達することができるようになります。

■中長期にわたって安定的な収益を生むインフラとして発想する

ここで民間企業がインフラ新設の巨額の資金を調達できるのは、そのインフラの運営から上がる「収益」が長期的に安定したものであるからという条件付きであることにご注意下さい。仮に、そのインフラが生む収益が中長期的に減少していくことが予想されたり、そのインフラに競合する施設が近隣にできて、営業がうまく行かなくなることがあるのであれば、この枠組みは成立しません。

従って、この枠組みがうまく機能するのは、中長期にわたって、そのインフラの利用に利用料を支払う個人や企業がいるケースです。個人が利用料を支払うものでは、上下水道、鉄道、有料道路などがあります。企業が利用料を支払うものには、物流インフラ、発電所(における電力卸売)、空港があります。
また、個人の住居に関しても、仮に電力、上下水道、家具等の備品などがパッケージ化された包括的な集合住宅サービスというものが可能であるならば、一種のインフラ事業として、この枠組みが適用できる可能性があります。

一方、上下水道から電力まで同じインフラ事業であっても、政府や自治体による事業の括り方に問題があって、中長期にわたる安定的な収益が見込めないようなケースでは、手を上げる民間企業が出なくなります。

インフラなら何でもかんでもPPPにすれば民間が応じてくれるというものではありません。そこではインフラの括り方(中長期にわたって最終顧客が利用を継続するインフラとして発想すること)に知恵が要ります。

以上がインフラのPPPにおいて、民間企業が巨額の初期投資を引き受けることができる基本原理です。

■海外のプレイヤーに入札を開放する

このインフラPPPの世界では、すでに世界的なプレイヤーがいます。水の分野では、ヴェオリアやスエズなど。資金の出し手では、オーストラリアのマッコーリーグループ、GEや三菱商事などが参画するGlobal Infrastructure Partnerなどのインフラファンドなどです。また、巨額のインフラ建設資金をプロジェクトファイナンスによって支援するBNPパリバなどの世界の最大手銀行もインフラPPPのプレイヤーだと言えます。日本の三菱UFJ東京銀行、三井住友銀行、みずほ銀行なども海外のインフラ案件のプロジェクトへの融資行によく名を連ねています。
その他、インフラ案件の受託を積極的に手がけているプレイヤーには、日本の三菱、三井、住友、丸紅などの総合商社もいます。

アジアや中東などの国々では、こうしたインフラPPPの世界的なプレイヤーに対して門戸を開き、インフラ案件を公開入札しにして、インフラ整備を進めています。自国の資金を使うのではなく、海外の民間企業の資金によって自国のインフラを整備しているのです。現在、競争入札プロセスにあるカリフォルニア州の高速鉄道もまったく同じ原理で、資金の大半を民間企業に頼るPPPが行われています。

ちょうどこの図式が、今回の震災復興におけるインフラ整備でも使えます。

国際的なインフラPPPプレイヤーたちが、競って入札するインフラプロジェクトにするためには、以下がポイントになると思われます。

  • 個々のインフラ案件において、民間企業側が入札にインセンティブを感じるような事業上の優位性がある。
  • 相応の資格を備えた企業ないしコンソーシアムであれば、どの国の主体であってもフェアに入札に参加できる。
  • 落札した企業・コンソーシアムが10年〜30年といった長期にわたって安定的に営業ができ、かつ収益を得られるように、事業環境等が法制度および契約によって守られている。
  • インフラ整備プロジェクトの詳細な情報が細大漏らさず英語でも公開される。言語という意味で日本国内のプレイヤーが有利になることはない。
  • できあがったインフラの利用に関して、最終顧客側のコンセンサスもできあがっている(運営主体が海外企業であるからといって反対運動が発生したりしない)。

これらが担保されるのであれば、海外のインフラPPPプレイヤーが多数名乗りを上げて、様々なアイディアを盛り込んだ提案を出し、競争入札に参加してくれるでしょう。そのようになれば、国や自治体が自ら持ち出す資金は不要ということになります。

■新しいタイプの「都市輸出」の可能性も

これからインフラの整備にあたる関係者の方々におかれましては、大変な状況をであることを重々理解しております。

しかし、視点を変えるならば、これから整備する新しいインフラにおいては、現在スマートシティないしスマートコミュニティとして考えられているものを、非常に理想的な形で実現できる好機になり得るということがあります。
電力などのエネルギー、上下水道、都市交通、集合住宅パッケージなどの全体最適を図った、かつ、コストパフォーマンス的に見ても住民にとって非常に好ましい、新しいタイプの居住空間を実現できる可能性もないではありません。

また、最終顧客(住民)が支払うコストがきわめて低いレベルで設定できるのであれば(発電事業等キャッシュを生む事業を組み合わせる)、そこでできたパッケージを、インドなどこれから都市化が進む国々に輸出できる可能性すら出てきます。

すなわち、今回のインフラ復興を、海外に輸出できる低廉なスマートシティ系のパッケージの商品開発の場として活用することもできるということです(日本企業が主導的に動いた場合は、ということですが)。災い転じて福と成すではありませんが、そのようなポジティブな側面をよく見て前進したいところです。

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