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「AIエージェント」が過度な期待のピーク期に 〜ガートナー、「日本における未来の働き方と人材のハイプ・サイクル:2025年」を発表

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ガートナージャパンは2025年8月19日、「日本における未来の働き方と人材のハイプ・サイクル:2025年」を発表しました。本調査は、デジタル・ワークプレースを軸に、人材活用と働き方の変革を進めるうえで注目すべきテクノロジとトレンドを体系的に示したものです。企業が直面する環境は急速に変化しており、生成AIやAIエージェントをはじめとする先進技術は従業員の働き方や企業競争力に直接的な影響を与え始めています。

アナリストの針生恵理氏は「企業はデジタル・ワークプレースを単なるIT環境ではなく、経営戦略の一環として位置づけることが求められている」と指摘しました。今回の発表では、ワークプレース・インフラの近代化、人材と組織の進化、新しい働き方の支援、新興技術とDX関連の4つの観点から33のトレンドが取り上げられています。AIと共生する働き方の浸透、人材育成とスキル変革の加速が特に重要なテーマとして浮かび上がりました。

今回は、AIが浸透する働き方の変化、人材・組織におけるスキルと学習の進展、未来のワークプレース像、そして今後の展望について掘り下げたいと思います。

AIが支える未来の働き方

今回のハイプ・サイクルで最も目を引くのは、多くのテクノロジがAIと結び付いている点です。「生成AI」や「AIエージェント」、「ノーコード・エージェント・ビルダー」は「過度な期待のピーク期」に位置づけられ、日常的に利用可能なAIや音声認識による議事録作成ツールなどは、すでに実務に取り入れられつつあります。AI PCといったデバイス側の進化も進み、従業員がAIを日常的に活用する環境が整備され始めています。

こうした技術は単なる効率化にとどまらず、働き方そのものを再定義します。たとえば、営業活動ではAIアシスタントが顧客対応の一部を担い、従業員は付加価値の高い戦略業務に集中できるようになります。製造業ではAIエージェントが現場データを解析し、作業計画をリアルタイムで最適化することが可能になります。さらに、企業が抱える人材不足の問題に対しても、AIの活用が一つの解となり得ます。AIが日常業務を支援することで、従業員は高度な判断や創造性を求められる業務へシフトすることが期待されています。

人材と組織の進化

AIの進展と並行して、人材や組織の在り方に関するトレンドの重要性も増しています。今回のサイクルには「社内人材マーケットプレース」や「アジャイル・ラーニング」といった仕組みが含まれています。これらは従来の人事管理をスキル中心に変え、従業員が自らの能力を活かせるプロジェクトや職務に流動的に参加できる環境を実現します。

また、生成AIの普及に伴い「AIリテラシー教育」が企業内で欠かせない課題となっています。AIを効果的に活用できる人材を育成することは、競争力維持の前提条件になりつつあります。単にAIを使えるだけでなく、アルゴリズムの仕組みやデータ活用の倫理的側面を理解することが求められており、従業員のスキルアップが企業全体の信頼性や持続可能性に直結します。

さらに、企業文化の刷新も不可避です。AIを前提とした働き方では、組織の透明性や成果主義が強調され、管理職の役割も「監督」から「支援」へと変わります。従業員のエンゲージメントを高めるために、HR部門と経営陣が連携し、人材育成戦略を進化させる必要があります。

未来のワークプレース像

Gartnerは、柔軟で快適な働き方を実現する「デジタル・ワークプレース」を提唱しています。それは単なるIT導入ではなく、人材マネジメントや組織文化を含む包括的な経営戦略と位置付けられています。ハイブリッド・ワークが定着した現在、次に問われるのは「従業員がより良い体験を得られる環境」です。

「イマーシブ・エクスペリエンス」や「仮想型ワークスペース」といった技術は、地理的に分散したチームでも臨場感をもって協働できる環境を提供します。また、「エモーションAI」のように感情を解析してサポートを行う仕組みは、従業員のウェルビーイング向上に寄与します。これらは従業員満足度を高めるだけでなく、離職率低下や人材定着の施策としても期待されています。

一方で、メタバースや仮想オフィスといった技術は「幻滅期」に差し掛かっています。当初の期待ほどの普及は進んでいませんが、特定の産業や用途では実験的な取り組みが継続されています。重要なのは、短期的な熱狂に流されず、長期的な価値を見極めながら導入を進める姿勢です。

DXと新興技術の展望

本サイクルのもう一つの焦点は、新興技術とDXとの関わりです。「空間コンピューティング」や「双方向ブレイン・マシン・インタフェース」は、現時点では「黎明期」にありますが、10年以上の長期的視野で見れば労働環境を一変させる可能性を秘めています。これらが成熟すれば、身体や認知の制約を超えた新しい働き方が実現されるでしょう。

同時に、「SaaS版アイデンティティ・アクセス管理」は「啓発期」に位置づけられており、クラウド活用を前提とした働き方の基盤として広がりつつあります。セキュリティやガバナンスの観点からも、分散したワークプレースを安全に運用するための必須要件となります。つまり、未来の働き方はAIとDXを融合しながら進化していくことが明確になっています。

今後の展望

今回のハイプ・サイクルは、未来の働き方を形作るテクノロジの方向性を示すと同時に、企業が直面する課題を浮き彫りにしました。AIと共生する働き方は不可逆的な潮流であり、企業はその導入と活用を戦略的に進めることが必要です。AIが業務を担う割合が増えるほど、従業員は創造性や判断力が求められる領域へ移行し、個人のスキル進化と企業の成長戦略が密接に連動する時代が訪れます。

一方で、テクノロジーの導入には冷静な見極めも不可欠です。メタバースや仮想オフィスのように一時的な幻滅を迎える技術もありますが、それは進化の過程に過ぎません。長期的に価値を持つかどうかを見極め、実験と導入を並行させることが企業の競争力に直結します。また、AIリテラシーやアジャイル・ラーニングなど、人材育成の仕組みを刷新することは不可避であり、経営層が最優先で取り組むテーマとなるでしょう。今後、企業は「デジタル・ワークプレース」を単なる効率化のための環境ではなく、従業員の満足度や持続可能性を高める成長戦略の一環として構築することが求められます。

スクリーンショット 2025-08-24 18.29.29.png

出典:ガートナー 2025.8.19

過度な期待のピーク期(Peak of Inflated Expectations)

  • AIエージェント

  • AI PC

  • エモーションAI
  • アジャイル・ラーニング

幻滅期(Trough of Disillusionment)

  • 生成AI仮想アシスタント
  • 日常型AI
  • イマーシブ・エクスペリエンス

  • デジタル・アドプション・プラットフォーム

  • スマート・ワークスペース

  • 音声認識議事録作成ツール

  • 没入型ワークスペース

  • リアルタイム音声翻訳サービス

  • ライブ顔認識

  • 仮想オフィス

  • メタバース

黎明期(Innovation Trigger)

  • 従業員のデジタル・ツイン

  • ロボタス

  • 拡張コネクテッド・ワークフォース

  • 社内人材マーケットプレース

  • ウェアラブルAI

  • エージェント型AI

  • ノーコード・エージェント・ビルダー

  • デジタル・ヒューマン

  • 従業員のAIアバター

  • エモボディAI

  • 働き方を変えるアルゴリズム

  • 双方向ブレイン・マシン・インタフェース

  • 空間コンピューティング

  • AIリテラシー

啓発期(Slope of Enlightenment)

  • SaaS版アイデンティティ/アクセス管理

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