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AIエージェント基盤市場、2029年に135億円規模へ

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アイ・ティ・アール(ITR)は2025年8月21日、「国内のAIエージェント基盤市場の規模推移と予測」を発表しました。2024年度の市場は前年度比8倍の1億6,000万円へと急拡大し、2029年度には135億円規模に達すると見込まれています。

背景には生成AIの進化を受け、企業が従来の業務自動化を超えて、自律的に計画を立案し外部システムと連携できる「AIエージェント」の導入を模索し始めたことがあります。市場はまだ初期段階にありますが、クラウドベンダーやSaaS事業者の参入が相次ぎ、熾烈な競争の兆しが見え始めています。

今回は、ITRが示した市場予測をもとに、急成長の要因、企業導入の現状と課題、競争構造の変化、そして今後の展望について取り上げたいと思います。

AIエージェント基盤市場拡大の背景

AIエージェント基盤市場は2024年度、前年度の8倍にあたる1億6,000万円の規模に到達しました。急拡大の直接的な要因は、2024年後半以降に複数のベンダーがAIエージェント関連製品やサービスを相次いで投入したことにあります。これにより市場の認知度が一気に高まり、試験的な導入を進める企業が増加しました。

AIエージェントは、生成AIモデルを用いて目標達成に向けた自律的な行動を実行できる仕組みです。記憶機能や外部APIとの連携、タスク管理を統合的に実現することで、単なるチャットボットやルールベースの自動化を超え、複雑な業務プロセスの支援が可能となります。特に、バックオフィス業務やカスタマーサポート分野において、効果的な応用が見込まれているといいます。生成AIの高度化はこうした利用領域を広げる追い風となり、市場拡大を後押ししています。

企業導入の現状と課題

一方で、多くの企業にとってAIエージェント基盤の導入はまだ「試行段階」にとどまっています。実証実験や限定的な利用が中心であり、本格的な全社展開に踏み切る企業は限られています。背景には、技術的な信頼性やセキュリティへの懸念に加え、業務プロセス全体を見直す必要性があることが挙げられます。

また、AIエージェントが有効に機能するためには、社内外のデータ環境が整備されていることが重要です。データの品質やアクセス権限管理、外部ツールとの統合など、準備すべき課題は少なくありません。ITRの分析によれば、導入企業の多くは「短期的な効率化」よりも「将来的な競争優位の確立」を目的に投資を始めているとみられます。現時点での投資は収益化を直ちに求めるものではなく、中長期的な基盤づくりに重点が置かれているといえるでしょう。

熾烈化する競争構造

AIエージェント基盤の領域では、主要なクラウドベンダーやSaaS事業者が次々と参入を表明しています。大手クラウド事業者は既存の生成AI基盤に「エージェント機能」を組み込む形で製品群を拡張しており、既存顧客の囲い込みを強化しています。一方、スタートアップ企業は特定業務領域に特化したAIエージェント基盤を打ち出し、差別化を図っています。

ビジネスモデルの観点では、多くのベンダーが「従量課金制」を採用している点も特徴的です。これは利用量に応じた課金体系であり、ユーザー企業にとって導入ハードルを下げる一方、ベンダーにとっては利用拡大とともに収益が成長するモデルです。今後、利用シナリオが増えるにつれて課金体系の工夫や差別化が進むと予想されます。

市場の中長期的展望

ITRの予測によると、AIエージェント基盤市場は2024年度から2029年度までのCAGR(年平均成長率)が142.8%に達し、2029年度には135億円規模に膨らむとされています。これは単なる一時的なブームではなく、企業の業務インフラとして定着する可能性を示しています。

普及が進むにつれ、AIエージェントは人間の業務プロセスを補完する存在から、企業活動の根幹を支える「次世代のエンタープライズ・ソフトウェア」としての位置づけを強めるでしょう。その結果、業務の効率化だけでなく、新たなビジネスモデル創出の起点になることも期待されます。

一方で、熾烈な競争環境の中で、どのベンダーが標準的な地位を確立するかはまだ見通せません。利用企業にとっては、今後数年がベンダー選択や戦略的投資の「仕込み期」となる可能性が高いといえます。

今後の展望

AIエージェント基盤市場は、まだ黎明期にありながらも極めて高い成長ポテンシャルを秘めています。今後の普及に向けて重要となるのは、以下の三点です。

まずは、データ環境の整備です。AIエージェントが真価を発揮するには、統合的かつ高品質なデータ基盤が求められます。次に、利用領域の拡張です。現状では一部の業務プロセスに限られていますが、将来的には経営判断や顧客接点の高度化にまで広がる可能性があります。そして、ガバナンスと責任体制の確立です。自律的に行動するAIを活用する以上、その判断過程の透明性や説明責任は避けて通れません。

こうした観点から、ユーザー企業には「技術の将来性」と「ガバナンス体制」を両輪で検討しながら、最適な導入戦略を描くことが求められています。ベンダー側にとっても、単なる機能競争にとどまらず、利用企業が安心して導入できる仕組みを提供できるかが重要となるでしょう。

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出典:ITR 2025.8

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