ガバメントクラウド移行で自治体の運用コストは本当に下がるのか?
令和3年には「地方公共団体情報システムの標準化に関する法律」が成立し、この改革は住民記録や税務など約20の基幹業務を対象に、原則として令和7年度(2025年度)末までに全国自治体で標準システムへの移行完了を目指しています。各自治体ごとのシステム開発や維持管理にかかる重い負担を軽減し、業務効率化や住民サービス向上を図る狙いがあります。
しかし、移行後の新システムで運用経費(ランニングコスト)が増大する可能性が指摘されており、改革の実現に向けた課題となっています。2025年4月23日にデジタル行政改革会議の「国・地方デジタル共通基盤推進連絡協議会ワーキングチーム(第3回)」では自治体情報システムの標準化・ガバメントクラウド移行後のシステム運用経費について、議論・検討を行っています。
標準化とガバメントクラウド移行の意義と現状
地方自治体の基幹業務システム標準化は、各自治体の人的・財政的負担を軽減し、業務の効率化を図る狙いで進められています。全国で統一されたシステムをクラウド上で共同利用することで、重複投資の削減や法改正への迅速な対応が可能となり、セキュリティや災害対策の強化にもつながると期待されています。

2025年度末(令和7年3月)までの移行期限に向けて各自治体で移行作業が着実に進捗しており、デジタル庁は一部自治体との先行事業でガバメントクラウド移行による投資対効果も検証するなど、国と地方が連携してデジタル基盤の整備を急いでいる状況です。この標準化とクラウド移行は、自治体DX(デジタルトランスフォーメーション)の中核を成す重要施策と位置づけられています。
移行後に懸念される運用コスト増
しかし、現場の自治体からは「新システム移行でむしろコストが膨らむのではないか」との懸念が上がっています。実際、既に自治体クラウド(共同利用型システム)を利用中の自治体では、標準化後に運用経費が増加する可能性が指摘されました。例えば中核市市長会の調査では、移行後の運用経費が平均で2倍強に増加する見込みとの厳しい結果も報告されています。

また、ある自治体では標準パッケージへの移行に伴い従来より機能要件が増えた結果、システムの開発・保守費用が肥大化したとの分析もあります。標準化後の運用経費には国の直接補助がなく自治体の負担となるため、こうした費用増は将来にわたり自治体財政を圧迫しかねないとの指摘もなされています。従来システムの老朽化対策として期待された標準化ですが、コスト面では一筋縄ではいかない現実が浮かび上がってきています。
運用経費増加の要因分析
では、具体的に何がコスト増の原因となっているのでしょうか。デジタル庁の分析によれば、標準化・クラウド移行後にランニングコストが従来を上回る主な要因として、(1)クラウド接続のための通信回線費用、(2)クラウドサービスの利用料、(3)標準パッケージのソフトウェア借料・保守料の増加、といった項目が挙げられます。さらに、移行期に旧システムと新システムを並行稼働させる必要がある場合には、その期間中の二重運用コストも負担となります。
これらの増加要因は複合的に作用し、自治体ごとに程度の差はあれどコスト上昇の大きな要因となっています。新たな標準システムではクラウド活用による利点が期待される一方、従来になかった費目が加わることでトータルの運用経費を押し上げている状況となっています。
国の迅速な対応策と中長期の見直し
こうした課題に対し、政府(デジタル庁)は対策に乗り出しています。例えば、システム提供事業者には見積もり内容の丁寧な説明を行うよう要請し、自治体側には適正な見積もり評価のためのチェックリストを配布しました。

また、希望する自治体には国が見積もり精査の支援を行い、ガバメントクラウド利用料についてはデジタル庁がクラウド事業者と交渉して大口割引を獲得する取組も進めています。

さらに、クラウド環境のコスト最適化に向けた具体的なアプローチガイドを提供するなど、運用費用抑制の支援策も講じています。

これらは短期的な応急措置ですが、中長期的にも標準化後のコスト構造を見直す施策が検討されています。例えば、標準化による業務効率化で時間経過とともに費用が逓減していくかの効果検証や、複数自治体でシステムを共同利用する際の費用配分の見直しなど、より構造的なコスト削減策を探る動きです。
課題解決に向けたさらなる取り組み
政府による対策が講じられ始めたとはいえ、これで問題が即座に解消するわけではありません。今後、さらに踏み込んだ取り組みも求められるでしょう。例えば、自治体同士が連携して共同調達を行いスケールメリットを高めることで、ベンダー側の効率化や価格引き下げを促す方法が考えられます。
また、必要に応じて国が財政的支援策を講じ、移行初期に集中する負担を緩和することも検討する必要も出ています。標準化されたシステムの提供事業者間で健全な競争を促し、技術革新によるサービス向上と価格低減を追求していく視点も不可欠です。さらに、運用状況の丁寧なモニタリングと情報共有を継続し、現場の知見を生かした改善を重ねていく姿勢が重要となります。
こうした取り組みを通じて、標準化本来の目的である行政コストの抑制と住民サービス向上を両立させていくことが期待されます。
今後の展望
現在、国と自治体はワーキングチームでこの問題の検討を重ねており、2025年5月下旬までに対策案を取りまとめ、夏頃のデジタル行財政改革会議で報告される見通しです。
2025年度末にかけて各自治体の標準システム移行がピークを迎えるため、それまでに運用経費問題への具体策を確立し、自治体が安心してデジタル基盤を運用できる環境を整える必要があります。実際の移行が完了した後も、運用コストの推移を注視し、必要に応じて追加の対策を講じる姿勢が求められます。
自治体のデジタル化は単なるコスト削減策に留まらず、住民サービスの質を高める将来への投資にもつながるでしょう。長期的には、今回の標準化とクラウド移行が日本の行政サービスを持続可能な形で底上げする礎となり、自治体DX推進の成功事例となるのか、今後の中長期的な視点に立った取り組みが期待されるところです。