情報通信の展望2010(3):躍進するモバイルブロードバンドと顕在化する課題
昨年7月にUQコミュニケーションズが7月からモバイルWiMAXの「UQ WIMAX」を開始し、ウィルコムが10月からXGPの「WiLLCOM CORE」を開始しています。そして、イー・モバイルがDC-HSDPAを秋に、NTTドコモが2010年の12月に他社に先駆けて3.9世代のLTEのサービスの開始を予定しています。続けてソフトバンクモバイルが2011年1月以降にDC-HSDPAの提供を予定しており、KDDIは2012年12月 LTEを導入する計画をたてています。
固定並みの数十Mbpsクラスの高速化通信と回線品質の向上、そして提供エリアの拡大により、本格的な次世代モバイルブロードバンド時代に突入する年となるでしょう。
モバイルブロードバンドの進展により、新たなビジネスチャンスも生まれてくる可能性があります。LTEでは、複数のユーザにコンテンツを同時配信する eMBMS(evolved multimedia broadband multicast Service)やQOS (quality of service)の機能があり、これまでのモバイルでは困難であったテレビ会議、映像配信(デジタルサイネージ)、遠隔医療、オンライン型対戦ゲームといった利用用途が考えられます。またビジネスの分野においては、情報漏えいの観点からパソコンの持ち出しが制限されていましたが、シンクライアントなど外出先での利用も増えてくるでしょう。
また、クラウド+インターネットのように、PaaS(Platform as a Service)といった可能性も考えられます。LTE上の通信APIや認証・IDなどのプラットフォームがもし、開放されるようになれば、LTEネットワーク上でのプラットフォーム・ビジネスでの様々な可能性が考えられます。
その一方で、総務省が2007年から10年間でモバイル利用の通信料は約200倍に拡大するとしており、爆発的に拡大するトラフィックに対して、設備の増強とともに、負荷を軽減する対策が必要となってきます。ソフトバンクモバイルの場合は、iPhoneが順調に販売数を伸ばしていますが、通信料は一般の携帯と比べると何十倍にもなり、特に東京都内においては、帯域が不足するといった現象も見られます。ソフトバンクモバイルはこれらの課題に対処するため「Wi-Fi」のサービスを選択肢として用意し、負荷分散をはかっています。
iPhoneの事例のように、2010年以降は、爆発的に拡大する通信量に対しての負荷軽減としてアクセスの多様化について様々な検討が進んでいくことになるでしょう。
例えば、フェムトセルのように、半径10メートルのエリアをカバーする小型基地局を設置し、家庭の固定のブロードバンド回線を経由して携帯電話網に接続する方法もあり、特に夜の時間帯は自宅にいるケースがあり、この方法を利用することで、通信量のピーク時の負荷分散においてメリットは大きいでしょう。
そのほか、通常は携帯電話網を利用し、大容量の映像配信は放送波経由にするといったように、サービスごとに様々な通信手段を用意しておくといったことも一般的になるかもしれません。将来は、無線LANやWiMAXなど、最適な通信手段をネットワークが自動的に選択するコグニティブ無線の注目度が高まっていくのではないのでしょうか。
2010年は、モバイルブロードバンドがさらに注目され、様々なモバイルビジネスの可能性が議論される年になりますが、一方でトラフィック急増による負荷軽減への対応などの課題も顕在化し、通信手段の多様化など様々な検討が進んでいくのでしょう。
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