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20年以上断続的にこのブログを書き継いできたインフラコモンズ代表の今泉大輔です。NVIDIAのフィジカルAIの世界が日本の上場企業多数に時価総額増大の事業機会を1つだけではなく複数与えることを確信してこの名前にしました。ネタは無限にあります。何卒よろしくお願い申し上げます。

日本の精密部品メーカーが巨大なヒト型ロボット世界市場で覇者となるシナリオはどうなる?

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Figure AIなどの米欧ヒューマノイド大手は量産に移りつつあります。Figureが準備している量産工場BtoQは、年産1万2,000台規模とされています。FigureのCEO Brett Adcockが構想している市場は「全人類一人一台」ですから、年産12,000台はテスト生産の規模だと言って良いでしょう。量産の波はこれから数年にわたってどんどん大きくなります。それがTeslaやその他の米欧ヒューマノイドメーカーでも始まります。Agility Robotics、Apptronik、それから今回の視察で訪問予定のWeave Roboticsなど二番手、三番手の存在は多数います。大きな商機がやってきます。

ヒューマノイドの具体化に欠かせないサーボモーター、精密減速機などの高性能精密部品について調べていくと、Figureに限らず量産を志向するヒューマノイドメーカーはいずれもある種のボトルネックを抱えていることがわかってきました。以下はその具体的な記述を含むレポートです。

安川電機、ナブテスコ、NIDECなどの精密部品メーカーの名前が以下にはあります。ぜひ一読なさって、これから開ける大きな市場への参入路を作り上げて下さい。


ヒューマノイドロボット市場における日本の精密部品メーカーの戦略的ロードマップ:技術的優位性の再構築とグローバルサプライチェーンへの参入

第1章:エグゼクティブサマリー

本レポートは、急成長するヒューマノイドロボット市場において、日本の精密部品メーカーが直面する機会と課題を分析し、その技術的優位性を再構築するための戦略的ロードマップを提示するものです。結論として、従来の産業用ロボット市場で培われた「品質と信頼性」という強みは依然として重要であるものの、ヒューマノイドロボットが要求する「高出力密度」「バックドライバビリティ」「高度な熱管理」といった新たな技術要件に対応し、単なる部品サプライヤーから「戦略的パートナー」へとビジネスモデルを進化させることが不可欠であると提言します。

世界のロボット市場は、米国と中国のスタートアップが主導するヒューマノイドロボット分野で新たな局面を迎えています。Figure AIやApptronikといった米国企業は、巨額の資金調達と垂直統合戦略を推進し、アクチュエータなどのコア部品を内製化する動きを見せています。これは、従来のサプライチェーンに大きな変化をもたらす可能性を秘めています。

一方で、日本は安川電機やファナック、ナブテスコといった企業が産業用ロボットおよびその中核部品であるサーボモーターや精密減速機で世界市場を支配してきました。しかし、ヒューマノイドロボット市場に対しては、その未成熟な特性から、現時点では慎重な「様子見」の姿勢が主流です。

本レポートでは、この状況を打破するための具体的な提言を提示します。第一に、ヒューマノイド特有の技術的課題、特に人間との安全な協働に不可欠なバックドライバビリティを解決する製品を開発すること。第二に、欧米のヒューマノイド企業が内製化するリスクを回避するため、部品単体ではなく、完成されたアクチュエータモジュールとしての価値を提案し、早期段階からの共同開発モデルを模索すること。第三に、Geminiを活用してヒューマノイドYouTube動画を解析する先進的なリサーチ手法を活用し、市場の潜在的なニーズを先回りして把握する体制を構築することです。これらの戦略を実行することで、日本の精密部品メーカーは、新たな市場のフロンティアで主導権を握ることができるでしょう。

第2章:グローバルヒューマノイドロボット市場の展望と主要プレイヤーの動向

2.1 市場規模予測と成長の原動力

ヒューマノイドロボット市場は、今後数年間で爆発的な成長が見込まれています。ゴールドマン・サックスは、この市場が2035年までに380億ドル規模に達すると予測しており、Fortune Business Insightsは2032年までに年間約50%の成長率で660億ドルにまで拡大する可能性を指摘しています。この急成長を牽引する最大の要因は、世界的に深刻化する労働力不足です。米国では2025年3月時点で120万以上の求人に対し労働者が不足しており、特に製造業では2034年までに380万人の労働力不足が予測されています。日本も例外ではなく、トラックドライバーの時間外労働規制を背景とする「2024年問題」や、世界に類を見ないスピードで進む少子高齢化によって、物流、製造業、サービス業における労働力確保が喫緊の課題となっています

ヒューマノイドロボットは、人間が作業するために設計された既存の環境をそのまま活用できるため、特定のタスクに特化した従来の産業用ロボットとは異なり、倉庫、物流、製造、小売、ヘルスケアなど多岐にわたる産業で汎用的なソリューションを提供できると期待されています。この汎用性と適応性が、市場の大きな成長原動力となっているのです。

2.2 主要ヒューマノイドプレイヤーの分析とビジネスモデル

この新たな市場で先陣を切っているのは、米国を拠点とするスタートアップ企業です。

  • Figure AI: Figure AIは、ロボティクス分野で最も注目を集める企業の一つです。Microsoft、NVIDIA、OpenAIなどから多額の資金を調達しており、これまでに合計約7.54億ドルの資金を獲得し、評価額は26億ドルに達しています。さらに、2025年5月にはシリーズCラウンドで15億ドルの資金調達を発表しました。同社の主力製品である「Figure 02」は、身長168cm、体重70kg、ペイロード20kg、最高速度1.2m/s、稼働時間5時間の電動システムを備えています

    Figure AIの戦略的特徴は、「垂直統合」と「AIファースト」にあります。同社は、アクチュエータ、手、バッテリーといったコア技術を内製化し、部品点数を削減することで、製造コストと時間を大幅に短縮しています。また、年間12,000台の生産能力を持つ専用製造施設「BotQ」を立ち上げ、自社ロボットが自社のロボットを組み立てるという、生産の自動化にも着手しています。AIに関しては、当初OpenAIとの提携で自然言語処理能力を開発しましたが、現在は独自のAIモデル「Helix」を開発しており、ロボット自身が視覚情報から自己調整する「視覚的自己受容(Visual Proprioception)」に注力しています

  • Tesla (Optimus): テスラは、イーロン・マスクCEOのもとで、28個以上のロータリーおよびリニアアクチュエータを備えた「Optimus」を開発しています。同社は中国のサプライヤーと強固なサプライチェーンを構築しており、熱管理部品のSanhua Intelligent Control、精密減速機のGreen Harmonics、ロータリーアクチュエータのTuopu Groupなどが主要な供給元として挙げられています。テスラは、大量生産による圧倒的なコスト削減を目指していますが、報道によると、設計の見直しのため部品調達を一時的に停止しているとのことで、技術的な課題に直面している可能性も示唆されています

  • Apptronik (Apollo): NASAのValkyrieロボット開発に携わった経験を持つチームが手掛ける「Apollo」は、ペイロード25kg、4時間稼働可能なホットスワップバッテリーパックを特徴としています。同社は2025年2月に製造大手Jabilと提携し、量産体制の構築を進めています。独自の「力制御アーキテクチャ」により、人間と安全に協働できることが強みであり、製造・物流分野への導入を目指しています

2.3 日本の主要ロボットメーカーの現状

日本は、長年にわたり世界の産業用ロボット市場を牽引してきました。国際ロボット連盟(IFR)によると、日本は世界の産業用ロボット生産の38%を占める最大の生産国であり、その輸出比率は78%に達しています。特に、安川電機はサーボモーターで、ナブテスコは精密減速機で、それぞれ世界トップクラスの市場シェアを誇っています。これらの強みは、自動車やエレクトロニクスといった高度に構造化された製造環境で培われてきました

しかし、ヒューマノイドロボットという新たな市場に対しては、日本企業は慎重な姿勢をとっていると分析されています。その背景には、従来の6軸ロボットと自律移動ロボット(AMR)の組み合わせで、多くの工場自動化ニーズがすでに満たされているという現実があります。このため、まだ実用例が少なく、開発コストの高いヒューマノイド市場への参入は「時期尚早」と見なされる傾向にあります。一方で、川崎重工業の「Kaleido」や、ホンダの「ASIMO」に見られるように、ヒューマノイドに関する技術的蓄積は豊富に存在します

以下に、主要なヒューマノイドロボットの技術スペックを比較した表を示します。

テーブル1: 主要ヒューマノイドロボットの技術スペック比較
データ項目: 製品名、会社、身長、体重、ペイロード、最高速度、稼働時間、システム(電動/油圧)、Degrees of Freedom (DoF)
Figure 02
会社: Figure AI
身長: 5'6" (1.68m)
体重: 70kg
ペイロード: 20kg
最高速度: 1.2m/s
稼働時間: 5時間
システム: 電動
DoF: 16 (手)
注記:各ロボットの最新の公表スペックは変動する可能性があります。

この表は、各ヒューマノイドが、異なる設計思想に基づき、特定の性能目標を追求していることを示しています。例えば、Apolloのホットスワップ可能なバッテリーパックは、長時間の連続稼働という課題を解決するための設計上の工夫であり、バッテリー技術と熱管理システムの重要性を浮き彫りにしています

第3章:ヒューマノイドロボット用精密部品の技術的要件と想定スペック

3.1 アクチュエータ:ヒューマノイドの「筋肉と関節」

ヒューマノイドロボットの性能を決定づける中核部品はアクチュエータです。アクチュエータは、AIシステムという「脳」からの指令を、精密な物理的動作に変換する「筋肉」であり、ロボットの運動能力そのものです。アクチュエータは通常、サーボモーター、精密減速機、エンコーダー、センサー、駆動回路から構成されます。ヒューマノイドは数十の関節を持つため、アクチュエータは部品表(BOM)コストの30%以上、場合によっては50%以上を占める最も高価な部品となります

3.2 精密減速機に求められる新次元の要件

精密減速機は、モーターの回転速度を落とし、トルクを増幅する役割を担います。この分野ではナブテスコが世界の産業用ロボット向け減速機市場で約60%のシェアを持つ絶対的リーダーですしかし、ヒューマノイドロボットが求める要件は、従来の産業用ロボットとは根本的に異なります。産業用ロボットは、外部からの干渉がない、予測可能な環境で動作するため、極限まで高剛性と低バックラッシュを追求します。一方、ヒューマノイドは人間が生活する不定形な環境で動作するため、転倒や人との衝突といった外乱が頻繁に起こることを前提としなければなりません

このような環境に対応するため、精密減速機には以下の新たな特性が求められます。

  • 高トルク密度と軽量化: 人間の関節と同様に、限られたスペースと重量で、人間以上の高トルクを出力する能力が不可欠です

  • 低バックラッシュと高剛性: 細かな部品の操作や精密な動きを実現するため、これまでの産業用ロボットで培われた技術は引き続き重要です

  • バックドライバビリティ(Backdrivability): 外部からの力でモーターがスムーズに逆回転する能力を指します。これは、ロボットが転倒した際の衝撃を吸収したり、人間が手でロボットを動かして操作を教えたりする際に不可欠な特性です。従来のロボットでは不要だった、この特性の追求がヒューマノイド市場への参入障壁となります。

3.3 サーボモーター:高速・精密制御の心臓部

サーボモーターは、ロボットの関節を動かす「心臓部」です。安川電機は、ACサーボモーターで世界トップシェアを誇り、360度を1/6700万という超精密な角度情報まで検知するエンコーダー技術を保有しています。しかし、ヒューマノイドの限られた関節空間に収めるためには、以下のような特性が必須となります。

  • 高出力密度と高効率: 小型かつ軽量でありながら、高い出力(パワー)を発生させる必要があります。また、バッテリー容量が限られているため、無駄な電力消費を抑える高いエネルギー効率が求められます

  • 熱管理能力: 高出力密度は必然的に発熱を伴います。モーターやアクチュエータ全体の性能を維持し、寿命を延ばすためには、効率的な熱放散設計が極めて重要となります。例えば、Nidecが開発した厚さわずか20mmの超薄型アクチュエータ「FLEXWAVE」は、熱管理と小型化の課題を両立させた事例として注目されています

  • 高速応答性: 複雑な動きや予期せぬ環境変化にリアルタイムで対応するため、高い応答周波数(例:2.5kHz)が求められます

3.4 その他の重要部品

アクチュエータ以外にも、ヒューマノイドロボットには以下のような精密部品が不可欠です。

  • 高精度エンコーダー: サーボモーターの正確な位置・速度制御を可能にするセンサーです。Nidecは、光学式に比べて振動や衝撃に強い磁気式エンコーダーを内製化しています

  • 6軸力覚センサー: 物体を掴んだり、外部と接触したりする際の力を正確に検知するセンサーです。中国のKeli Sensingは、米国ATI社とベンチマークを競う精度を持ち、テスラのサプライチェーン入りを目指しています (今泉注:最先端のエッジコンピュータであるNVIDIA Jetson Thorと組み合わせるのに最適な"センサーフュージョン"を構成するセンサーの中身についてはこちらの投稿を参照。フィジカルAI×センサーフュージョン市場マップ 2025:日本の勝ち筋、中国の勝ち筋 

  • バッテリーと熱管理システム: 長時間の稼働と安全性を確保するため、小型・高容量なバッテリーパックと、効率的な冷却システム(ファン、ヒートパイプ、PCM)が必須となります

以下の表は、日本のメーカーがこれから開発すべきアクチュエータの推奨スペックを具体的に示しています。

テーブル2: ヒューマノイドロボット用アクチュエータの推奨スペック詳細
データ項目: ティア、減速機、モーター、アクチュエータ全体
Tier 1: High-Performance (技術的優位性確立)
減速機
トルク密度:
減速比:
バックラッシュ:
バックドライバビリティ指数:
耐久性 (MTBF): $ >20,000$時間
モーター
出力密度:
効率性:
熱放散能力: 極めて高い
サイズ: 直径 $ <80 \text{ mm}$
アクチュエータ全体
コスト: (共同開発モデル向け)
応答周波数: $ >2.5 \text{ kHz}$
安全性: ISO 13849-1 PLe 準拠
注記:バックドライバビリティ指数は、外部からの力で出力軸が回転する際の摩擦や慣性抵抗の低さを示す定性的指標です。

第4章:ヒューマノイドスペック同定のための先進的リサーチ手法

4.1 ビジョンAI(Gemini Robotics)を活用した動画解析の実践的アプローチ

ヒューマノイドロボットのYouTube公開動画を先進的なAIで解析することは、市場のニーズを先回りして把握するための強力な手法となり得ます。これは、従来の「顧客からの要求仕様を待つ」という受動的なアプローチから脱却し、能動的に市場の動向を読み解くためのものです。

今泉注:以下は今泉が独自に開発したGoogleのAI Geminiの高性能な動画解析機能を活用した、YouTube公開ヒューマノイド動作動画をロボット工学的に解析する手法です。

  1. 当該ヒューマノイドの技術詳細について、Geminiにインターネット公開資料を精査させ、詳細な技術レポートを得る。
  2. 当該ヒューマノイドのYouTube動画(動作シーンが多岐にわたっており各シーンが長いもの)をGeminiに解析させる前段階で上の調査レポートを読み込ませる。
  3. Geminiに対して「あなたは世界最高の知見を持つロボティクス研究者です」と役割づけをし、「これこれのヒューマノイドのこれこれの動画について、ロボット工学的に有意な技術レポートを作成して下さい。特にサーボモーター、精密減速機、センサーについて詳細に解析して、使われている部品のスペックが正確にわかるようにして下さい。」というようなプロンプトを書いて解析する。
  4. これによって解析したロボット工学的に有意な報告書の実例は次にあります。ボストンダイナミクスのフラッグシップ「Atlas」をロボット工学的に読み解く 。あまりに高度なヒト型ロボ"Optimus"のテスラギガファクトリー内行動とGeminiによるロボット工学的解析

この手法を精密部品メーカーが応用する実践的なステップは以下の通りです。

  1. 動画データの収集: YouTubeなどの公開プラットフォームで公開されているFigure AI(BMW工場での作業)、Apptronik、Boston Dynamicsなどのヒューマノイド動画を収集します

  2. AIによる動作解析: ビジョンAIモデルに動画を解析させ、ロボットの動作を定量的に評価します。これには、関節の可動域、速度、加速度、ペイロード、重心移動といった運動学・力学パラメータのミリ単位での抽出が含まれます。また、タスク完了までの時間、成功率、そして転倒や振動といった不安定な動作を特定・定量化します

  3. スペックの推定:

    • ペイロード(運搬能力)と動作速度のデータから、各関節に必要なトルクとモーターの出力密度を推定します

    • 精密な部品操作(例:シートメタル部品の正確な配置)や滑らかな動作の映像から、低バックラッシュや高応答性の要件を推測します

    • ロボットの転倒頻度や、不安定な姿勢を立て直す際の挙動から、バックドライバビリティや制御システムの性能を評価します

4.2 日本企業への示唆

このリサーチ手法は、ヒューマノイド市場という黎明期において、従来の競合分析ツールでは得られない、深い技術的インテリジェンスを提供します。データが非公開である場合でも、競合の技術レベルや顧客の潜在的なニーズを推測し、その市場の「兆候」を読み解くことが可能になります。これにより、日本のメーカーは、単に顧客からの要求を待つだけでなく、自社の技術的優位性を活かしたプロアクティブな提案を行うための確固たる基盤を構築できます。これは、垂直統合を目指す米国企業に対する、日本のメーカーが取りうる対抗策の一つとなり得ます。

第5章:日本の精密部品メーカーの戦略的提言と実行計画

5.1 垂直統合 vs. サプライチェーン提携:日本の選択肢

Figure AIやTeslaのような米国スタートアップは、アクチュエータを含むコア部品の内製化を進めており、これは日本の精密部品メーカーにとって、既存の部品提供モデルが将来的に市場から締め出されるという大きな脅威を突きつけています。垂直統合は、サプライチェーンの安定化、品質管理の徹底、そしてコスト削減というメリットをもたらす一方で、巨額の先行投資と急な市場変化への対応力低下というリスクも伴います

日本のメーカーがこの状況で取るべき選択肢は、単なる部品サプライヤーの立場に留まらないことです。

  1. 部品単体からの脱却: 顧客が最も内製化を進めている「アクチュエータ」を、サーボモーター、精密減速機、エンコーダー、駆動回路を統合した「完成されたモジュール」として提供することで、内製化にかかるコストや技術的複雑性を上回る価値を提案します。

  2. 独占的サプライヤーとしての地位確立: 米国のスタートアップは、成長を加速させるためにVC(ベンチャーキャピタル)からの資金調達を積極的に行っています日本のメーカーは、この投資ラウンドに連動して、特定の部品に関する独占的な供給契約を模索すべきです。これにより、長期的なパートナーシップを構築し、サプライチェーンにおける不可欠な存在としての地位を確立できます (今泉注:この出資によるパートナー関係締結については、別な投稿を作成します。)

5.2 日本の強みを活かす提案戦略

日本の精密部品メーカーは、以下の戦略を実行することで、米国企業との競争において独自の強みを確立できます。

  • 提言1:既存サプライチェーンの優位性を活用する: 日本は世界最大のロボット生産国として、長年にわたり自動車産業で培ってきた高精度・高耐久性の部品量産技術を有しています。これは、ヒューマノイド市場が初期のプロトタイプ段階から、数万台規模の量産フェーズへと移行する際に、圧倒的な強みとなります。この量産能力を強みとして、米国スタートアップに「内製化よりも外部委託の方が、迅速かつ安価に量産を実現できる」という提案を行います。

  • 提言2:共同開発によるパートナーシップの深化: ApptronikとJabilAgility RoboticsとANAホールディングスの提携事例(2019年)に見られるように、早期の段階から顧客と共同で開発を進めるモデルを模索します。これにより、顧客の技術的課題を深く理解し、その要求に合わせた専用ソリューションを迅速に提供することで、内製化リスクを回避しつつ、不可欠なパートナーとしての地位を確立できます。

  • 提言3:日本の社会課題を解決する国内市場の創出: 日本の突出した少子高齢化と労働力不足は、サービスロボットや物流ロボット(AMR)の需要を世界に先駆けて高めています。これらの国内市場を「テストベッド」として活用し、人間との安全な協働や不定形な作業といったヒューマノイドに求められる技術を実地で磨き上げます。これにより、海外市場へ本格参入する前に、確固たる技術的優位性と実績を確立できるのです。

第6章:結論

ヒューマノイドロボット市場は、単なる産業の延長線上にあるのではなく、AIとハードウェアが融合する新たなエコシステムを形成しています。この市場で主導権を握るためには、日本の精密部品メーカーは、従来の「精密部品の供給者」という立ち位置から、「ヒューマノイドロボットエコシステムの戦略的パートナー」へと進化することが不可欠です。

そのためには、以下の3つのアクションプランを直ちに実行すべきです。

  1. 研究開発のシフト: 従来の「高剛性・低バックラッシュ」に加え、「高トルク密度」「バックドライバビリティ」「高度な熱管理」を最優先課題とした製品ロードマップを策定し、ヒューマノイド特化型のアクチュエータ開発に資源を集中させる。

  2. 市場分析の強化: AI動画解析を含む先進的な市場調査手法を導入し、公開情報から競合の技術レベルや顧客の潜在ニーズをプロアクティブに特定する。これにより、顧客の要求を待つのではなく、自らソリューションを提案する体制を構築する。

  3. ビジネスモデルの変革: 部品単体の販売ではなく、アクチュエータモジュールとしての価値を提案する。また、VCからの資金調達段階にある米国スタートアップに対し、共同開発や独占供給契約といった長期的な提携戦略を積極的に推進する。

これらの戦略を実行することで、日本の精密部品メーカーは、自社の圧倒的なハードウェア技術と量産能力を新たな市場の成長エンジンとして位置づけ、グローバルサプライチェーンの中核を担うことができるでしょう。

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