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リサーチのプロとして長いこと歩んできた今泉大輔です。ChatGPT出現以降、Facebookで「ChatGPTとMidjourneyのビジネス活用を探って行く勉強会」を立ち上げ、「ビジネスパーソンにとってのAI」の観点で米国情報を収集して来ました。知的アウトプットの質と量を向上させるプロンプトの開発にも取り組んでいます。

【実務家向け】Apple Vision ProとNVIDIA Omniverseの融合がもたらす産業界の変革

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昨年6月に鳴り物入りで発売されたApple Vision Proのニュースを最近聞きません。実は私も妻と連れ立って名古屋の中心にあるAppleストアを予約し、Apple Vision Proを体験しました。すごい経験でした。一言で言えば「没入感」のレベルの高さです。2017年にMicrosoftのVR製品を買って試したことがありましたが、あの頃と比べるとモノクロ無声映画とIMAX 3Dシアターぐらいの違いがあります。

そのApple Vision ProがなんとAI半導体分野(GPU)でダントツ世界一の座を占めているNVIDIAと合体しているではありませんか!

どういうことか簡単に説明します。
(なおこの素材収集には、ChatGPTが誇るDeep Researchを使いました。かなりしつこく専門的な英語素材を探してもらい、日本語要約付きの記事リストをいただきました)

産業用デジタルツインをApple Vision Proにストリーミングする

「デジタルツイン」という産業界で用いられている3DやVRやARの技術があります。工場のデジタルツインの場合、工場の詳細な3D設計データから工場内部を高精細に描画し、工場内に設置された多数のセンサーによって工場の稼働状況をリアルタイムで仮想空間に投射します。これによって工場全体をリアルタイムでモニタリングできるほか、異常発生を事前に予知するなどの効用が得られます。以前に業務で欧州最大手企業のデジタルツインソリューションを調べたことがあるので一通り理解しています。

最近だとNVIDIAの技術(Omniverse)を使って物流倉庫の中のデジタルツインを実現するKIONというドイツの会社が注目されています。同社のウェブサイトに行くと物流倉庫のデジタルツインの一種のデモが公開されていて、ああこういうものなんだなということが実見できます。

この産業用デジタルツインをApple Vision Proで見られるようにして、触れるようにしたというのがタイトルにある「Apple Vision ProとNVIDIA Omniverseの融合」です。

Apple Vision Proは、スペーシャルコンピューティングをローカルで行う優れたコンピュータを搭載したAR製品です(ARは実物の光景に仮想的な光景を合成する技術)。これをNVIDIAが産業界向けに売っているOmniverseの技術と合体すると、クラウド上でリアルタイムレンダリングされた超高精細な動画情報をApple Vision Proのスペーシャルコンピューティングと合体(ハイブリッド)させることができるようになります。実はこのリアルタイムレンダリング用途でNVIDIAの最先端GPUがブンブン回っています。NVIDIAのハードウェアがなければ実現できない世界です。

わかりやすい例では、新型車の設計において、その新型車の3D設計情報をNVIDIAの超高精細動画レンダリング基盤(Omniverse Cloud APIフレームワーク)を使ってレンダリングさせ、それをApple Vision Proの中で投影することにより、触れることができる新車が視野全体に広がります。車内に入ってハンドルを握ったりすることができるようになります。
これは実物を試作する前に設計段階で体感的なチェックができるようになるということです。非常にエキサイティングな設計のブレークスルーです。

動画を見た方が早いので、ご興味のある方はぜひ以下のNVIDIA公式YouTube動画を見て下さい。

Develop 3D Product Configurators With Generative AI and OpenUSD

NVIDIA公式ブログ:NVIDIA is bringing OpenUSD-based Omniverse enterprise digital twins to the Apple Vision Pro.

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一番最後のところでApple Vision Proを装着した女性が新型車を仮想的に描画した空間の中に入ってハンドルを掴むシーンが出てきます。

「物理AI」はデジタルツインの中で仮想的にAIロボットを動かして試作し→それがリアルなロボット製品になって出てくる技術

NVIDIAは現在、AIデータセンターの世界的な拡大機運の中で中核ハードウェアであるGPUをほぼ独占的に供給する一強として存在しています。それが一時期同社を時価総額世界一位にまで押し上げました。

同社は先々の主戦場を「デジタルツイン」関連のソフトウェア製品と超高精細リアルタイムレンダリングを行うハードウェア製品の双方だと見ているらしく、主な顧客をメガクラウド事業者から製造業や物流やロボティクスや自動運転にシフトさせつつあるように思えます。前者の顧客(メガクラウド事業者)がハードウェア(GPU)しか購入しないのに対し、後者の顧客(製造業、物流、ロボディクス、自動運転)はハードウェアもソフトウェアも購入してくれるからです。

NVIDIA CEOのジェンセン・フアンがCES2025の基調講演で発表して話題になった「物理AI(Physical AI)」。これまでのAIはコンピュータ空間内にいたけれども、これからのAIは判断して、自ら移動して、自ら行動するものになるという予言。これは端的にはヒューマノイド(人型)ロボットの中でリアルタイムAIが動いていて、それが室内を歩き回って家事をしたり、工場内を歩き回って部品を加工したりする世界を述べた言葉です。

その物理AIの中でも中核技術となるのがOmniverseです。

GoogleのAIに"What is Omniverse NVIDIA"と自然文検索で聞いてみたところ、次の答えが返ってきました。

NVIDIA Omniverse is a platform that helps developers create 3D applications and services. It includes tools, APIs, and SDKs that integrate with OpenUSD and NVIDIA RTX technologies. Omniverse can be used to create virtual worlds, pipelines, and applications for industrial and robotic use cases.
NVIDIA Omniverseは、開発者が3Dアプリケーションやサービスを作成するためのプラットフォームです。
このプラットフォームには、OpenUSDやNVIDIA RTX技術と統合可能なツール、API、SDKが含まれています。
Omniverseを活用することで、バーチャルワールド(仮想世界)、ワークフローパイプライン、産業やロボット向けのアプリケーションを構築することができます。

とのことです。このデジタルツインプラットフォームOmniverseには、デジタルツインを超高精細で描画するハードウェアが不可欠です。また、デジタルツインを顧客がゼロから構築するのはえらく手間ひまがかかりますから、あらかじめNVIDIAのソフトウェアエンジニアが用途を先取りして作っているデジタルツイン用テンプレートが「Blueprint」として存在しています。

例えば、未来のロボットが多数働く工場向けには "Mega" Blueprint for Robot Facilitiesというものが用意されています。これはAccenture(アクセンチュア)が最近注力している製造業や物流業向けの「AI Refinery」と呼ばれるサービスの中核になっています。つまりAccentureですらAIでNVIDIAとコラボレーションする時代に入っているのです。

自動運転技術の開発でもNVIDIAが活躍しつつある

また今年1月のジェンセン・フアンによるCESの基調講演では、トヨタとの提携が話題になりました。これが何かと調べてみると、産業用デジタルツインのプラットフォームであるOmniverseにぶら下がっているOmniverse Blueprint for AV simulationを活用しているものと思われます。自動運転技術を確立するためには無数の試験運転を行わなければならないのですが、それがNVIDIAのOmniverseの仮想空間内では低コストで実質的に無限回数行うことができるようになります。

中でも興味深いのが「センサーシミュレーション」です。自動運転は自動車に付けられた多数のセンサーから得られた情報をリアルタイムコンピュータで超高速処理することによって実現します。設計試作段階では仮想空間で複数のセンサーのシミュレーションを行うことで実車を走らせたのとほぼ同じ実験走行ができます。簡単に言うとセンサーシミュレーションの精度を上げることが極めて重要です。
それをNVIDIAのOmniverseを使うとソリューションとして非常に良いものができると言うことです。

具体的に自動運転で使われるセンサーにはビジョンカメラ、LiDAR、レーダー、超音波センサー、GPSなどがありますが、それらをリアルタイムでシミュレーションするためのNVIDIA Omniverse用の技術をイスラエルのForetellixという会社が持っています
(ただしForetellixをトヨタが使っているかどうかは未確認。マツダは採用している)

NVIDIAがどういう分野に踏み出しつつあるかがよくわかってきます。リアルな空間で動き回るAIを備えた自動車やロボットや工場内の自動生産です。

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