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株式会社インフラコモンズ代表取締役の今泉大輔が、現在進行形で取り組んでいるコンシューマ向けITサービス、バイオマス燃料取引の他、これまで関わってきたデータ経営、海外起業、イノベーション、再エネなどの話題について書いて行きます。

ムンバイの都市鉄道インフラだけでも1兆円近い規模がある

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先日やらせていただいたセミナーでは内容構成を欲張りすぎたため(3カ国×3セクター)、それぞれの国の個別セクターについてはごくおおまかなところしかお伝えできませんでした。フォロー情報ということで、インドの都市鉄道のなかでももっともボリューム感のあるムンバイの状況について、全体像を調べて見ました。

■ムンバイ都市鉄道ビジネスへの参入機会

ムンバイでは複数の都市鉄道プロジェクトが動いており、よく整理してかからないと、どれがどれだかわからなくなる状況があります。背景を確認してみると、インドの大都市の鉄道プロジェクトはその都市を与る自治体が独占的に実施するわけではなく、「プロジェクトを動かす権利を持つことができる公的事業体」がいくつかあって、各事業体がいわば縄張り争いをして事業権を勝ち取るような状況があることがわかりました(Tram Actという法律が下敷きになっているようです)。

そのため、ムンバイ中心部の「ムンバイメトロ」(Mumbai Metro)はMumbai Metropolitan Region Development Authority(MMRDA)を中心としたコンソーシアムが事業権を得、ムンバイ郊外の新都市であるナビムンバイのナビムンバイメトロ(Navi Mumbai Metro)は同新都市の都市開発を行っているCity and Industrial Development Corporation of Maharashtra Ltd(CIDCO)が仕切るという状況が生まれています。日本の首都圏で東京メトロと都営地下鉄が併存しているのに近いと言えば近いです。ただ、日本と違うのは両社が競り合う関係にあり、新規案件の計画が出てくると「この案件はウチのものだ」と、権益を奪い合う図式が見られることです。

このような都市鉄道プロジェクトにおいて日本を含む外国企業がビジネスを行う余地としては、事業権を獲得するコンソーシアムに参加(出資)して「内輪のプレイヤー」となり、鉄道運営や車両納入などを自ら手がける形態と、事業主体から出る公開入札に応じる形で車両納入などを受注する形態とがあります。

また、都市鉄道の新線建設プロジェクトとは別に、ムンバイ都市圏ではアジア最古の都市鉄道網であるムンバイ近郊鉄道(Mumbai Suburban Railway)がインド国鉄(Indian Railways)によって運営されており、これが毎日724万人を運んでいます。3路線、465路線キロ、138駅から成るいわば老朽化が進んだインフラであり、こちらでも更新プロジェクトが進行中です。外国企業の参入機会は、おそらくはインド国鉄による車両調達の公開入札という形になるでしょう。

■ムンバイの公共交通利用者

ムンバイ都市圏の人口は約1,800万人。通勤者の88%が鉄道かバスを使って通勤しています。

古くからあるムンバイ近郊鉄道のラッシュは文字通り殺人的なもので、無理な乗車が原因となって命を落とす人が1日平均10数名もいるという記述を各所で見かけます。以下の動画にその混雑ぶりが表れています。

Youtube動画:How to get on a train in Mumbai

上述のように1日の乗客は724万人。ピークの時間帯には定員1,700名の9両編成に4,700名が乗車するそうです

ムンバイ近郊鉄道の駅の便宜が得られない地区ではバスが公共交通の主役です。そのバスに乗るにもこの通り、大変な苦労が強いられます。

Youtube動画:Catching the Bus in Mumbai

ムンバイの公共バス最大手事業者のBEST Undertakingは4,680台の車両を保有し、1日480万人の利用客があります。比較対象ということで東京都営バス(都バス)を見ると車両は約1,500台、1日の利用客は56万人強です。この数字がそのまま使えるとすれば、ムンバイでは1台当たり1,000人強、都バスでは1台当たり380人前後の乗客を運んでいます。通勤時間帯のムンバイのバス車内の混雑度は相当なものでしょうね。

ムンバイ近郊鉄道とBEST Undertakingバスの利用者を合わせると約1,200万人。
国交省が2007年に行った大都市交通センサス調査によると、首都圏の鉄道利用者数は約4,000万人。これには及びませんが、近畿圏の鉄道利用者数1,300万人とほぼ同じ規模があり、依然としてかなり大きな都市交通需要です。

■ムンバイが抱える地理的なボトルネック

ムンバイの公共交通のラッシュが大変な背景には、ムンバイが地理的なボトルネックを抱えているということがあります。以下がムンバイの地図(出典:Google Map)。参考までに同縮尺の東京の地図をその下に掲げます(出典:Google Map)。

01

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ムンバイの西側にある半島の先端が英国の植民地時代から栄えた繁華街。そのやや北に現在の商都ムンバイの中心があります。この近辺に多くの企業が集まっているため、朝の通勤時にはムンバイ郊外からここに向けて混雑が発生します。特に東側にある計画的な新都市ナビムンバイのあたりから通う人は地峡のようになっているターネーを通過せざるを得ず、ここがかなりなボトルネックになります。

ムンバイ全域で交通渋滞がひどいという報告がありますが、このターネーの交通渋滞もかなりひどいようです。

Youtube動画:Traffic jam in Thane

その他、ムンバイの交通渋滞のひどさを伝える動画には、以下のようなものがあります。

Youtube動画:Longest Traffic Jam - Mumbai.
Youtube動画:Traffic in Mumbai after Rain

■3つの大きなプロジェクトが動きつつある

ムンバイの鉄道とバスの大変な混雑状況と自動車の交通渋滞の抜本的な緩和のためには、大きくは以下の3つの方策が必要です。

  1. ムンバイ近郊鉄道の駅がカバーしていないエリアに都市鉄道の路線を建設する。
  2. 新都市ナビムンバイ地域に新路線を建設し、ムンバイ旧市街を結ぶ路線も設ける。
  3. ムンバイ旧市街から新都市ナビムンバイ(特に建設中のナビムンバイ国際空港)に向けて、いわばバイパスのように海の上を渡る路線を建設する。

各々に対応したプロジェクトはすでにスタートしていて、1に対応したものが「ムンバイメトロ」、2が「ナビムンバイメトロ」、3が「ムンバイ・トランスハーバー・リンク」(Mumbai Trans Harbour Link)です。

なお、上の地図に見えている半島部分とナビムンバイを結ぶ橋は、ムンバイ・トランスハーバー・リンクとは別物のようです。これの詳細はまだよくわかりません。

これらができあがれば、1,200万以上いる通勤者のかなりの割合が新路線を利用するようになることが見込まれます。

ムンバイメトロの総投資額は、最初の区間の運行が始まろうとしているフェーズ1(2006〜2015年)にフェーズ2(2011〜2016)、フェーズ3(2016〜2021)を合わせると、こちらの記事によれば3,600億ルピー(5,400億円)。
ナビムンバイメトロの最初の区間の総投資額は、こちらの記事によれば約1,000億ルピー(約1,500億円)。
ムンバイ・トランスーハーバー・リンクの総投資額は、車両用レーンを含む橋全体で、こちらの記事によると880億ルピー(約1,320億円)。

3つのプロジェクトを合わせると約8,200億円という非常に大きな規模となります。

これらのプロジェクトがどのような進捗状況にあり、すでに関わっている外国企業はどんな顔ぶれか、今後日本企業が受注する機会はどのへんにありそうか、融資する主体(世界銀行など)や投資する主体から見て"Viableな"(採算が取れる)プロジェクトと見なされているかどうかということについては、機会を改めてまた書きたいと思います。

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