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生成AIが営業を不要にする日 〜AIエージェント時代の営業の真価とは〜

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今日のランチ、何にしよう?そうだ、カレーが食べたい。 かつて私たちは、スマホを取り出し「近くの美味しいカレー」と検索していました。表示された検索結果、口コミサイトの星の数、個人のブログ記事を一つひとつ見比べ、ようやく一軒の店を選んでいました。

しかし、2025年の今、私たちの行動は少し変わりました。

「これから向かう〇〇駅の周辺で、南インド系のスパイシーなカレーが食べたい。一人でも入りやすくて、予算は1,500円以内。できれば、食後に美味しいコーヒーも飲めるお店を3つ提案して。それぞれの特徴とGoogleマップのリンクも一緒に。」

この問いを投げかける相手は、検索エンジンではありません。対話型の生成AIです。AIは即座に条件に合致する店をリストアップし、それぞれの店の雰囲気や看板メニューまで要約してくれます。私たちは、その提案の中から最も気分に合うものを選ぶだけ。情報収集から比較検討、そして意思決定までのプロセスは、劇的に短縮され、その質も向上しました。

この変化は、私たちの日常生活に留まりません。BtoBのビジネスシーンでは、より大きな地殻変動が起きています。かつて営業担当者が担っていた役割の多くが、今やAIによって代替されようとしているのです。

これは、単なる効率化の話ではありません。「営業」という仕事の存在意義そのものが問われる、時代の大きな転換点なのです。

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第1章:情報収集の主役交代 - "ググる"から"AIに聞く"へ

企業の重要な意思決定であるERP(基幹業務システム)の刷新を考えてみましょう。

【かつての姿】 10年以上使い続けたシステム。ビジネス環境は変わり、もはや限界だ。しかし、何から手をつければいいのか。付き合いのあるSIerに相談すれば、自社製品を勧められるのは目に見えている。まずは自分たちで情報を集め、方向性を定めたい。担当者はネットで製品情報を調べ、事例記事を読み漁り、比較サイトを眺めては頭を抱えていました。

【現在の姿】 担当者は生成AIのプロンプトにこう入力します。 「当社は従業員500名の中堅製造業。現在の課題は、販売管理と生産管理のデータ連携が分断されていること、そしてサブスクリプション型の新事業に対応できていないこと。これらの課題を解決し、将来の事業拡大にも耐えうるクラウドERPを導入したい。主要な選択肢を5つ挙げ、それぞれのメリット・デメリット、想定される導入期間と概算コストを比較表形式でまとめて。特に、同規模の製造業での導入事例を重視してほしい。」

AIは、人間が何時間もかけて行っていた情報収集と一次分析を、わずか数十秒で完了させます。偏りのない客観的な情報、整理された比較表。これらを手にした顧客は、営業担当者に会う前に、すでに自分たちなりの課題認識と解決策の仮説を高いレベルで構築できています。

もはや、営業担当者が製品カタログを広げて機能説明をする場面はありません。顧客が知りたいのは、AIが提示した情報の「先」にある、より深く、本質的な価値なのです。

第2章:AIエージェントが営業プロセスを侵食する

生成AIによる情報収集の変革は、まだ序章に過ぎません。次に来る波は、自律的にタスクを遂行する「AIエージェント」です。

AIエージェントは、私たちの指示に基づき、複数のウェブサイトを横断して情報を収集し、資料請求を行い、さらには見積もりの依頼まで自動で実行します。

「先ほどリストアップしたERPベンダー3社に対して、当社の課題を伝えた上でRFP(提案依頼書)を送付し、初回ヒアリングのアポイントを打診して」

こんな指示を出すだけで、AIエージェントが営業担当者の代わりに動いてくれる。そんな時代はもう目前です。顧客の問い合わせに迅速・的確に応える、最適な提案をする、納期やリソースを調整する。こうした「御用聞き」や「調整役」としての仕事は、間違いなくAIに置き換わります。

銀行の窓口が開いていてもATMを使うように、気を使う必要も時間を合わせる必要もないAIとのやり取りを、顧客が選ぶのは当然の理屈です。

「担当が変わったのでご挨拶に」「新製品が出たのでご紹介に」 こうした一方的な都合による訪問は、もはや顧客の時間を奪うだけの「ノイズ」でしかありません。働き方改革が叫ばれ、誰もが時間に追われる現代において、その価値は完全に失われました。

第3章:それでも人間にしかできないこと - "お客様の頭脳"から"価値共創のパートナー"へ

では、人間の営業に未来はないのでしょうか?いいえ、そうではありません。役割が変わるのです。お客様の「手足」ではなく、AIという最強の武器を手にした「頭脳」へ。いや、それすらも超えた**「価値共創のパートナー」**へと進化しなければなりません。

AIが提示するのは、あくまで過去のデータに基づいた論理的な「最適解」です。しかし、ビジネスは論理だけで動くものではありません。そこには、企業の文化、担当者の情熱、言葉にならない想い、そして未来へのビジョンといった、数値化できない「人間的な文脈」が必ず存在します。

これからの営業に求められるのは、まさにこの部分です。

  1. お客様の「不安」や「迷い」に寄り添い、課題を再定義する 「このままではまずい」という漠然とした危機感。AIはこれを解決するための選択肢は示せますが、その不安の根源にある想いまで汲み取ることはできません。良き相談相手として、お客様以上に深くビジネスや組織を洞察し、「本当に解決すべき課題は何か?」を共に探求する。AIの分析結果をたたき台に、対話を通じてお客様自身も気づいていない本質的な課題を言語化し、進むべき道を照らし出すのです。

  2. AIの提案を超えた「未来の物語」をデザインする AIが示すのは、既存の枠組みの中での改善策かもしれません。しかし、真の変革は、常識を疑い、新しいビジネスモデルを構想するところから生まれます。テクノロジーの進化、社会の変化を織り込み、「お客様がこうなれたら、世界はもっと面白くなる」という未来の物語(ナラティブ)をデザインし、その実現可能性を情熱をもって語る。これは、過去のデータからは生まれない、人間ならではの創造的な仕事です。

  3. 多様な知恵を束ねるプロデューサーになる 解決策は、単一の製品やサービスで完結するとは限りません。社内外の技術者、コンサルタント、デザイナーといった多様な専門家たちの知恵を結集し、お客様にとって最高のチームを組成する。その中心に立ち、プロジェクト全体を牽引するプロデューサーとしての役割が、これからの営業には不可欠です。

求められるのは、「相手の求めに応じる」のではなく、**「相手も気づいていない、未来への求めを引き出す」**こと。その結果として、案件は自然と生まれてくるのです。

「営業」を再定義し、AI時代のプロフェッショナルへ

「営業」という言葉から、私たちは何を連想するでしょうか。足で稼ぐ、頭を下げる、数字に追われる...。もし、そんな古いイメージに囚われているとしたら、その考えは今すぐ捨て去るべきです。

会社が営業に「予算達成」という結果を期待する構造は、これからも変わらないでしょう。しかし、その結果に至るプロセスは、根本的に変わります。AIを恐れるのではなく、最強の相棒として使いこなし、人間にしかできない価値創造に集中する。

  • 共感力:お客様の言葉にならない想いを汲み取る力。

  • 構想力:未来のありたい姿を描き出す力。

  • 物語力:人の心を動かし、共感を呼ぶ物語を語る力。

  • プロデュース力:多様な才能を巻き込み、事を成し遂げる力。

これらは、AIには決して代替できない、人間ならではの能力です。

これまでの「営業」は、確かにもういらないのかもしれません。しかし、その代わりに生まれる新しい役割は、より創造的で、知的にエキサイティングなものになるはずです。私たちは今、自らの仕事を再定義し、AI時代の真のプロフェッショナルへと進化する岐路に立っているのです。

今年も開催!新入社員のための1日研修・1万円

AI前提の社会となり、DXは再定義を余儀なくされています。アジャイル開発やクラウドネイティブなどのモダンITはもはや前提です。しかし、AIが何かも知らず、DXとデジタル化を区別できず、なぜモダンITなのかがわからないままに、現場に放り出されてしまえば、お客様からの信頼は得られず、自信を無くしてしまいます。

営業のスタイルも、求められるスキルも変わります。AIを武器にできれば、経験が浅くてもお客様に刺さる提案もできるようになります。

本研修では、そんないまのITの常識を踏まえつつ、これからのITプロフェッショナルとしての働き方を学び、これから関わる自分の仕事に自信とやり甲斐を持ってもらおうことを目的としています。

参加費:

  • 1万円(税込)/今年社会人となった新入社員と社会人2年目
  • 2万円(税込)/上記以外

お客様の話していることが分かる、社内の議論についてゆける、仕事が楽しくなる。そんな自信を手にして下さい。

現場に出て困らないための最新トレンドをわかりやすく解説。 ITに関わる仕事の意義や楽しさ、自分のスキルを磨くためにはどうすればいいのかも考えます。詳しくはこちらをご覧下さい。

100名/回(オンライン/Zoom)

いずれも同じ内容です。

【第1回】 2025年6月10日(火) ※受付を終了しました
【第2回】 2025年7月10日(木) ※受付を終了しました
【第3回】 2025年8月20日(水)

営業とは何か、ソリューション営業とは何か、どのように実践すればいいのか。そんな、ソリューション営業活動の基本と実践のプロセスをわかりやすく解説。また、現場で困難にぶつかったり、迷ったりしたら立ち返ることができるポイントを、チェック・シートで確認しながら、学びます。詳しくはこちらをご覧下さい。

100名/回(オンライン/Zoom)

2025年8月27日(水)

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神社の杜のワーキング・プレイス 8MATO

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八ヶ岳南麓・山梨県北杜市大泉町、標高1000mの広葉樹の森の中にコワーキングプレイスがオープンしました。WiFiや電源、文房具類など、働くための機材や備品、お茶やコーヒー、お茶菓子などを用意してお待ちしています。

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