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20年以上断続的にこのブログを書き継いできたインフラコモンズ代表の今泉大輔です。NVIDIAのフィジカルAIの世界が日本の上場企業多数に時価総額増大の事業機会を1つだけではなく複数与えることを確信してこの名前にしました。ネタは無限にあります。何卒よろしくお願い申し上げます。

産業のデジタルツイン化で商売をする独シーメンスが【EUデータ法】で勝負する「Xcelerator」の5製品

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ドイツのシーメンスは、日本でいえば日立製作所に近いポジションを持つ企業です。170年以上の歴史を持ち、エネルギー、産業機械、交通システム、さらには最先端の医療機器に至るまで、幅広い分野で事業を展開してきました。現在は多角化しすぎた事業を整理し、グループとして3つの中核事業会社を中心に再編されています。その3つを整理すると...

シーメンスの3つの中核事業会社

  1. Siemens Energy(シーメンス・エナジー)
    発電所、送電網、再生可能エネルギー関連を担う会社です。特にガスタービンや風力発電(スペインのGamesaを傘下に持つ)で有名で、欧州のエネルギー転換政策(脱炭素)に直結しています。

  2. Siemens Healthineers(シーメンス・ヘルシニアーズ)
    医療機器・ヘルスケア分野を担当。MRI、CT、超音波診断装置など画像診断機器に強く、世界市場でもGEヘルスケアやフィリップスと並ぶ存在感があります。

  3. Siemens AG(本体:特にDigital IndustriesとSmart Infrastructure)
    産業用オートメーション、ソフトウェア、ビルディングオートメーションなどを中心とする事業群。製造業のデジタル化(デジタルツインや産業IoT)を強力に推進しており、近年のシーメンスの成長ドライバーです。

このうち、「産業のデジタルツイン化こそが産業の未来!」というメッセージを掲げて製品やサービスを展開しているのが3番目のSiemens Digital Industriesです。この辺、以前に調べた事があるので土地勘があります。

デジタルツインにして意味のある対象とは?

Siemens Digital Industriesの主力製品/サービスは「Siemens Xcelerator」(英語のサイト、情報量が分厚い)と言い、簡単に言うと産業のデジタルツイン化を推進するための包括的なプラットフォームです。

デジタルツイン化とは、製造業の場合で簡単に言えば、生産ラインを持つ工場を丸ごと仮想空間の中に「ツイン」(双子)として構築し、そこの稼働状況を見ていれば実際の工場の稼働状況もわかる...というもの。具体的には現物工場内に無数のセンサーを取り付け、仮想空間で再現できるようにします。仮想空間では3D描画で現物工場とそっくりの仮想工場(デジタルツイン)が動いています。そしてセンサー群から得られたデータがリアルタイムで表示されているという訳です。

人間の工場長が現物工場を隈なくモニタリングするよりも、デジタルツインの仮装工場をディスプレイの前に座ってモニタリングする方が、モニタリング内容の精度が比較できないぐらい向上します。これによって生産の効率化、歩留率の向上、サプライチェーン全体と生産の同期化、生産ユニットのコスト削減などがしやすくなります。

上は製造業のデジタルツイン化の典型例ですが、発電所のデジタルツイン化、空港全体のデジタルツイン化、コンテナ港湾施設全体のデジタルツイン化、都市中心部をスマートシティ化した上で行うデジタルツイン化など、デジタルツインにして意味がある分野は多岐にわたります。これをガンガン推進しているのがSiemens Digital Industriesであり、その主力製品/サービスがSiemens Xceleratorです。

Digital Industriesのヘッドを務めているのが以前にシスコの営業部門でやり手だったCedrik Neike氏です。LinkedInではめちゃめちゃ目立つ情報発信をしています。

EUデータ法に適応したい顧客に便利なSiemensの製品(代表例)

産業のデジタルツイン化をSiemens Xceleratorによって推進しているSiemens Digital Industriesが、【EUデータ法】を自分達の商機にしようと思って様々な施策を打ち出していることは容易に推察できます。

何をやっているか?優秀な頭脳と調査能力を持つChatGPT 5に整理してもらいましょう。

Xceleratorはいくつかの製品スタックから成り立っているため、代表的な製品スタックについてビジネスパーソンがわかりやすいように説明します。


シーメンスの Xceleratorスタック は「産業のデジタル化」を支える総合プラットフォームで、EUデータ法(Data Act)が要求する データ共有・相互運用性・利用者アクセスの権利 にフィットする機能を多数備えています。
以下では、代表的な5つの製品・サービスを取り上げ、それぞれを導入した企業にとって EUデータ法のコンプライアンス面でどう役立つか をビジネスパーソン向けに整理しました。

1. Teamcenter(PLM:製品ライフサイクル管理)

  • 役割:製品開発から廃棄まで、設計図・部品情報・変更履歴などのデータを一元管理。

  • EUデータ法との関連

    • データ法は「ユーザーや第三者に製品利用データを提供する義務」を課しています。

    • Teamcenterはデータの所有権・アクセス権をきちんと管理できるため、「誰がどのデータにアクセスできるか」を明確化し、コンプライアンスを確保できます。

2. Simcenter(シミュレーション & デジタルツイン)

  • 役割:実機データをもとにデジタルツインを構築し、製品性能や稼働状況を仮想環境で再現。

  • EUデータ法との関連

    • 利用者が製品から得たIoTデータを「第三者(修理業者、パートナー企業)」と共有する際、Twin化されたデータは分かりやすく安全に利用可能。

    • 企業は「ユーザーに見せられる形のTwinデータ」を提供することで法令を満たしつつ、自社の知財を守れる。

3. Mendix(ローコード開発プラットフォーム)

  • 役割:専門知識がなくても、TwinやIoTデータを使った業務アプリを素早く開発できる。

  • EUデータ法との関連

    • データ法は「利用者や第三者がデータを再利用しやすい形にすること」を狙っています。

    • Mendixを使えば、顧客やパートナーが自社データを活用するアプリを簡単に構築でき、規制対応をビジネス機会に転換できます。

4. Industrial Edge & Insights Hub(旧MindSphere)

  • 役割:工場現場や機械からリアルタイムにデータを収集し、クラウドや分析基盤に接続。

  • EUデータ法との関連

    • データ法の肝は「データポータビリティ(持ち運び自由)」。

    • Industrial Edgeは現場データをクラウドに依存せず取得・変換・出力できるため、「クラウド切替の自由」を支援。結果としてマルチクラウド環境下でもコンプライアンスが守れる。

5. Catena-X参画(業界横断データスペース:特に自動車)

  • 役割:自動車メーカーやサプライヤーが共通の仕組みでデータを共有するための欧州主導プラットフォーム。

  • EUデータ法との関連

    • Catena-Xは、EUが目指す「B2Bデータ共有の実装例」としてそのまま機能。

    • シーメンスが積極的に関与しているため、導入企業は業界標準に沿った形でデータ法対応を進められる。


調査を進めていると、「Catena-X」が欧州で展開する日本の自動車メーカーにとって決定的な意味を持つことがわかってきました。次回はCatena-Xを取り上げたいと思います。

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