2026年半導体市場を押し上げるAI需要、メモリーICが売上高の過半を占める供給制約の構造
英調査会社Omdiaは2026年7月30日、2026年の世界半導体売上高が前年比94.1%増になるとの予測を公表しました。
Omdia: AI demand drives 94.1% surge in semiconductor forecast for 2026
英調査会社Omdiaは2026年7月30日、2026年の世界半導体売上高が前年比94.1%増になるとの予測を公表しました。AI向け計算需要がDRAMやNANDを押し上げ、メモリーICは半導体売上高の50%超を占める見通しです。一方、需要拡大に生産能力が追いつかず、高帯域幅メモリー(HBM)、先端パッケージ、先端プロセスでは2027年まで供給制約が続くとOmdiaはみています。焦点は市場規模の拡大だけでなく、限られた能力がAI向けに配分されることで、非AI製品のコストや開発計画まで変わる点にあります。
今回は、半導体市場の成長構造、三つの供給制約や非AI市場への波及、そして、今後の展望について取り上げたいと思います。

94.1%成長を支えるのは、数量だけでなくメモリー価格
Omdiaの予測では、2026年の半導体売上高は前年比94.1%増となり、メモリーICだけで市場全体の売上高の50%超を占めます。用途別では「Computing & Data Storage」の半導体売上高が前年比150%超増え、1兆ドル近くに達する見通しです。データセンターサーバーをはじめとするメモリー集約型用途の需要と、メモリーIC価格の上昇が寄与するとしています。
この数字を需要数量の増加だけとして読むと、市場の実態を捉えにくくなります。Omdiaが示しているのは、AIインフラ投資による半導体消費量の増加と、供給制約を背景とした価格上昇が同時に売上高を押し上げる構図です。半導体メーカーにとっては売上高拡大の機会になる一方、半導体を購入する側では同じ価格上昇が調達費の増加として表れます。
さらに成長は市場全体へ均等に広がっていません。AI関連用途とメモリーへの集中度が高まっています。このため、94.1%という市場全体の成長率だけで需要環境を判断するより、数量、平均販売価格、用途別構成を分けて見る必要があります。

出典:Omdia 2026.7
HBMだけではない、供給能力を縛る三つのボトルネック
供給側では、HBM、先端パッケージ、先端プロセスという異なる工程の制約が重なっています。HBMは標準的なDRAMより製造が複雑で、Omdiaは大規模生産が可能な企業としてSK hynix、Samsung、Micronの3社を挙げています。NVIDIA、AMD、Intel、GoogleなどのAIアクセラレーターがHBMを必要とすることも、需給を引き締める要因です。
HBMを確保しても製品が完成するとは限りません。TSMCでは先端パッケージ向け専用ラインがフル稼働しているとOmdiaは説明しています。専用装置のリードタイムが長く、ASMLや東京エレクトロンにも製造上の制約があるため、能力増強には時間がかかります。2.5Dや3Dパッケージを利用する製品は、AI向けGPUと同じ能力を奪い合う形になります。
先端プロセスでも同様です。Omdiaは、TSMCの2ナノメートル、3ナノメートルの能力がNVIDIA、AMD、Broadcom、Appleなどによって相当程度予約されているとしています。AIモデルの計算需要がファウンドリー能力の増強より速く伸びれば、半導体供給は一工程の増産だけでは解消しにくくなります。
AI向けへの生産配分が、汎用品の価格と納期を動かす
供給制約が非AI市場へ伝わる経路の一つが、生産能力の配分です。DRAMメーカーがHBMなど利益率の高い製品を優先すると、汎用メモリーに振り向ける能力との間に競合が生じます。Omdiaは、汎用メモリーの価格とリードタイムが不安定になっていると指摘しています。
スマートフォン、PC、家電では部品コストが上昇し、車載・産業機器もパッケージやメモリーの確保でAI需要との競争にさらされています。先端プロセスについてもAIプロセッサーが優先されれば、PCやスマートフォン向けCPU、SoC(システム・オン・チップ)は納期や平均販売価格への圧力を受けたり、従来プロセスを予定より長く利用したりする可能性があります。
ここには市場規模の拡大とは別の論点があります。供給能力の価値が高まるほど、どの顧客、用途、製品に能力を配分するかが収益性に直結します。購入側でも、必要数量を確保する調達活動に加え、どの世代のプロセスやパッケージが製品価値に不可欠なのかを見直す余地が生まれます。
価格転嫁だけでは決まらない、スマートフォンと家電の選択肢
コスト上昇は最終製品の値上げにつながり得ますが、需要が一様に縮小するとは限りません。Omdiaは、スマートフォンでは2025年第4四半期から価格上昇が始まり、2026年には利益率が比較的高くメモリー価格上昇を吸収しやすいプレミアム帯で、さらに価格が上がっていると説明しています。その結果、中価格帯との価格差が縮まり、上位機種を選ぶ動きにつながる可能性を示しています。
同社は2026年後半にAppleのiPhone 18とiPhone Fold、GoogleのPixel 11 Pro Foldが登場すると予測し、追加機能やAI機能による半導体搭載額の増加を見込んでいます。スマートウォッチ、健康・フィットネス向けウェアラブル、ゲーム機、OLEDテレビでも半導体売上高の増加を予測しています。
ただし、半導体売上高の増加と最終製品の出荷台数増加は同じではありません。部品価格が上がれば、数量が伸びにくい市場でも半導体売上高は増え得ます。製品戦略では市場全体の成長率より、販売数量、部品単価、製品ミックス、価格転嫁後の需要を個別に検証する必要があります。
投資判断の焦点は「需要量」から「どの能力を確保するか」へ
OmdiaのSenior Principal AnalystであるMyson Robles-Bruce氏は、2026年半ばから2027年初めにかけてAI需要が続き、生産能力の制約、先端ノードの高稼働、メモリーと先端パッケージのコスト上昇が継続すると予測しています。AIインフラに直接結び付く投資がシリコン消費を押し上げる一方、非AI市場にも供給制約が残るとの見方です。
この予測が示す判断軸は、半導体市場が伸びるか否かだけではなく、投資によってどの工程の能力が、いつ増えるかです。HBMを増産しても先端パッケージが不足すれば完成品の供給は増やせず、ファウンドリー能力を広げても周辺工程が追いつかなければ制約は残ります。
一方で、Omdiaの数字は2026年7月30日時点の予測です。今後の設備増強、AI投資のペース、顧客による発注調整、価格変動によって実績は変わり得ます。高い売上高成長率を恒常的な需要成長と置かず、各工程の能力増強時期と実需の差を継続的に確認することが、設備投資や長期調達契約の判断材料になります。
今後の展望
2027年に向けて焦点となるのは、AI需要が続くかという一点より、HBM、先端パッケージ、先端プロセスの能力増強がどの順番で実需に追いつくかです。三つの工程のうち一つでも供給不足が残れば、増設した別工程の能力を十分に使えず、AI向けと非AI向けの配分競争が長引く可能性があります。逆に設備増強が進む局面でAI投資の伸びが鈍れば、現在の価格環境が維持されるとは限りません。スマートフォンやPCなどでは、先端部品を確保して価格へ転嫁する選択と、旧世代プロセスを長く利用してコストを抑える選択が、製品ごとに分かれると考えられます。
市場売上高だけで投資や調達環境を測らず、HBMの供給量、先端パッケージの増設時期、先端ノードの稼働状況、メモリー価格、最終製品の販売数量を並べて確認し、能力確保の期間と製品計画を更新することが次の判断につながるでしょう。