オルタナティブ・ブログ > 『ビジネス2.0』の視点 >

ICT、クラウドコンピューティングをビジネスそして日本の力に!

データセンター、今後5年間で最大3兆ドル投資へ

»

米不動産サービス大手JLLは2026年1月6日、世界のデータセンター市場に関する最新の展望レポートを発表しました。本レポートでは、AIインフラ需要の爆発的な増加を背景に、世界のデータセンター容量が現在の103GWから2030年には約2倍の200GWへと急拡大する見通しが示されています。

Global data center sector to nearly double to 200GW amid AI infrastructure boom

この発表は、世界的なデジタルトランスフォーメーションが「AI実装フェーズ」へと完全に移行したことを示唆しています。特筆すべきは、今後5年間で最大3兆ドル(約450兆円相当)という巨額の投資が見込まれている点です。これは単なる建設ブームではなく、エネルギー供給の制約や地政学的な要請が絡み合う、インフラ産業の構造的な転換点といえます。

ITインフラの確保はもはやコストの問題ではなく、事業継続性と競争力を左右する経営課題となることが想定されます。今回は、3兆ドル規模の投資サイクル、AIワークロードの質的変化、そして深刻化するエネルギー課題と対応策について取り上げたいと思います。

スクリーンショット 2026-01-14 22.11.45.png

3兆ドルの「超周期」とバブル懸念の払拭

JLLのレポートによると、今後5年間でデータセンター分野への総投資額は最大3兆ドルに達すると予測されています。このうち不動産資産価値の創出が1.2兆ドル、新規の負債調達が約8,700億ドルを占める見込みです。これほどの巨額資金が動く状況下では、市場の過熱感やバブルを懸念する声が上がることも想定されます。

データセンターの基礎的条件(ファンダメンタルズ)は極めて健全な状況です。世界的な稼働率は97%という高水準を維持しており、建設中のパイプラインの77%がすでにテナントによる事前契約済みとなっています。これは投機的な供給過剰とは異なり、実需が供給を圧倒的に上回っていることを示しています。

2030年までに世界の賃料は年平均5%の上昇が見込まれ、供給制約の激しい北米市場では7%の成長が予測されています。この「インフラ投資スーパーサイクル」は、クラウド移行期以来の最大規模の変革であり、物理的な空間と電力の争奪戦が長期化することを示唆しています。

AI需要の質的転換:学習から「推論」へ

AIがデータセンター市場に与える影響は、量的な拡大だけにとどまりません。AIワークロード(処理負荷)は2030年までに全容量の50%を占めるようになると予想されていますが、その中身も大きく変化します。現在はAIモデルの「学習(Training)」が需要を牽引していますが、2027年には「推論(Inference)」が主要な要件として逆転する見通しです。

この変化は、インフラの立地戦略に影響を与えます。学習用施設は極めて高い電力密度と、従来型比で60%の賃料プレミアムを伴う大規模施設が必要となります。一方で、推論用施設はユーザーに近い場所での低遅延処理が求められるため、より分散型の配置が必要となります。

「ソブリンAI(国家主権に基づくAI)」の台頭も重要となります。各国政府は経済安全保障の観点から国内に計算能力を保持することを重視しており、これが2030年までに80億ドルの設備投資機会を生むと考えられます。データセンターはもはや一企業の設備ではなく、国家戦略上の重要資産としての性格を強めています。

「電力の壁」とエネルギー調達の自立化

市場拡大の最大のボトルネックとして浮上しているのがエネルギー供給の問題です。主要市場における送電網(グリッド)への接続リードタイムは平均で4年を超えており、開発のスピードにインフラが追いついていない状況です。ダブリンやテキサスなどの一部市場では、事業者自身が電力を確保する「Bring Your Own Power」が事実上の参入条件となっています。

これに対し、事業者はグリッド依存からの脱却を模索しています。米国では天然ガス発電が当面の有力な解決策として採用されているほか、ハイパースケーラー(巨大IT企業)は再生可能エネルギーの確保に奔走しています。太陽光発電と蓄電池(BESS)を組み合わせたシステムの導入が進み、2030年までには化石燃料に対するコスト競争力を持つようになると予想されます。

原子力発電への関心も高まっていますが、新規の原子炉が広く普及するのは2030年代以降となる見込みです。したがって、向こう数年間は、分散型電源の活用や、電力コストを40%削減可能とされる「プライベートワイヤー(自営線)」による再エネ直結モデルなど、エネルギー調達の巧拙が事業の成否を分けることになるでしょう。

サプライチェーンの逼迫とモジュール化の加速

建設資材や機器の供給制約も深刻化しています。機器の平均リードタイムは現在33週に達しており、2020年以前の水準から50%も長期化しました。開発事業者は24ヶ月前から資材を発注していますが、それでも2025年のプロジェクトの半数以上で3ヶ月以上の遅延が発生しています。

こうした状況下で、プレハブ工法やモジュール式データセンターへの注目が集まっています。建設期間の短縮と品質の均一化を可能にするモジュールシステムの市場は、2030年までに年間480億ドル規模に達すると予測されています。

地域別の動向を見ると、北米が世界容量の約50%を維持し成長を牽引する一方、アジア太平洋地域(APAC)も32GWから57GWへの拡大が見込まれています。APACではコロケーション(場所貸し)市場が成長を主導しており、企業のクラウド移行に伴いオンプレミス(自社運用)容量が減少するという、欧米とは異なる独自のダイナミズムが働いている点も注視が必要となります。

今後の展望

今回のJLLのレポートは、データセンター市場が「成長期」から、社会インフラとしての「定着・成熟期」へ向かう過渡期にあることを示しています。AIインフラへの投資は、単なるIT予算の枠を超え、エネルギー戦略および不動産戦略と不可分なものとなります。

今後は、企業がAIを活用する際、ソフトウェアの性能だけでなく「その計算リソースをどこで、どのようなエネルギーで賄うか」という物理的な制約が事業スピードを左右することになるでしょう。特に2027年の「推論」へのシフトを見据え、エッジコンピューティングを含めた分散型インフラの確保が競争力の源泉になると考えられます。

また、電力の「消費者」であったデータセンターが、蓄電池などを通じてグリッドの安定化に寄与する「調整役」へと役割を変えていく可能性もあります。読者の皆様には、自社のDX戦略において、サイバー空間(データ)とフィジカル空間(電力・場所)の統合的な視点を持つことが求められています。

スクリーンショット 2026-01-14 22.12.24.png

Comment(0)