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なぜ日本企業のデータ活用は「全社的な成果」につながらないのか

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ガートナージャパンは2026年1月8日、日本企業のデータ活用に関する最新の調査結果を発表しました。

Gartner、日本企業のデータ活用に関する最新の調査結果を発表:全社で十分な成果を得ている組織の割合は2.4%にとどまる

2025年9月時点の調査において、データ活用で「全社的に十分な成果を得ている」とする企業の割合はわずか2.4%にとどまることが明らかになった状況です。長年にわたり多くの日本企業がDX(デジタルトランスフォーメーション)やデータ基盤への投資を続けてきたにもかかわらず、本質的な競争優位につながる成果は限定的であるといえます。

なぜ、ツールは浸透しても成果は伴わないのか。そこには、「データ民主化」という言葉の裏に隠れた現場の疲弊や、投資配分の構造的な歪みが存在すると考えられます。

今回は、この「2.4%」という数字が示唆する日本企業の構造的な課題、現場が直面する見えない障壁、そして人的資本への再投資という解決策について取り上げたいと思います。

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「2.4%」が突きつけるDXの停滞と、成果の二極化

Gartnerの調査結果において最も注視が必要となるのは、全社規模で「十分な成果」を上げている層が2.4%と極めて少数にとどまり、数年にわたり横ばいで推移している点です。「一部で十分な成果を得ている(11.4%)」を合わせても1割強に過ぎません。一方で、「ある程度の成果」を含めた広義の成果実感層は全体の約7割に達しています。この乖離は、多くの企業がPoC(概念実証)や部門ごとの局所的な改善には成功しているものの、それが全社的な変革や収益モデルの刷新といった、経営インパクトのある成果には結びついていない現状を示唆しています。

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出典:ガートナージャパン 2026.1

部分最適の積み上げが必ずしも全体最適につながらないというジレンマは、日本企業の組織構造に根深く存在します。部門ごとに異なるデータ形式や、連携されないKPI(重要業績評価指標)がサイロ化を招き、全社横断での意思決定を阻害している可能性があります。7割が何らかの成果を感じているという安堵感こそが、抜本的な改革を先送りさせる要因になり得ると考えられます。経営層は「ある程度の成果」に満足することなく、その先にある「競争優位の確立」という本来の目的を見据えることが求められています。

「データ民主化」の副作用と現場の疲弊

データ活用の裾野を広げようとする「データの民主化」は、多くの企業でスローガンとして掲げられてきました。しかし、現場の従業員からは「必要と思うデータが手に入りにくい」「実務での活用が困難」といった声が多く挙がっています。これは、業務プロセスそのものを見直さずに、新たなツールや分析業務だけを現場に付加した結果、従業員の認知負荷が限界を超えている状況を示しています。本業で多忙な営業担当者や企画担当者に対し、専門的なスキルを要するデータ分析まで求めてしまうことは、かえって生産性を低下させるリスクがあります。

現場が求めているのは、高度な分析ツールそのものではなく、そこから得られる「意思決定の根拠」や「顧客への提供価値」です。それにもかかわらず、ツールを導入し研修を行えば活用が進むという短絡的な発想が、現場の受動的な姿勢や、データ活用に対する心理的なアレルギーを引き起こしていると推測されます。全員をデータサイエンティスト化しようとする無理なアプローチを見直し、適材適所の役割分担を再設計することが必要となります。

テクノロジー先行投資の限界と人的資本の欠如

Gartnerの指摘にもあるように、多くの企業ではデータ基盤やBIツールへの投資が先行し、それを使いこなすための「人」への投資が後回しにされてきた傾向があります。器を用意しても、料理人(専門人材)がいなければ質の高い料理(インサイト)は生まれません。専門人材の不足は、データ活用推進組織自体が十分な機能を発揮できない要因ともなっています。結果として、現場からの問い合わせに対応しきれない、あるいは現場の業務課題を深く理解できないままツールを推奨するといったミスマッチが生じている状況です。

テクノロジーはあくまで手段であり、価値を生み出すのは人間の知見です。高価なシステムを導入したことに満足し、その運用や活用を担う人材の育成、採用コストを惜しむ姿勢は、投資対効果を著しく低下させます。今後は、ハードウェアやライセンスへの予算配分を見直し、データとビジネスをつなぐ「トランスレーター」や、高度な分析を担う専門家の確保・育成へ資金を振り向けることが、停滞を打破する鍵となると考えられます。

信頼性という基盤の揺らぎとガバナンスの再定義

データ活用に対する積極性を阻害する要因として、「データの品質・信頼性が低い」ことが挙げられています。これは深刻な課題です。分析結果に対する信頼がなければ、意思決定者は最終的に自身の経験や勘を優先することになり、データ活用は形骸化します。データの欠損、定義の曖昧さ、更新頻度の遅れなどは、単なるシステムの問題ではなく、経営判断の質を左右するビジネスリスクとして捉える必要があります。

ここで求められるガバナンスは、利用を制限するための守りのルールだけではありません。ユーザーが安心して利用できる「品質保証」としての攻めのガバナンスが重要となります。データカタログの整備や、データリネージ(来歴管理)の可視化を通じて、データの透明性を確保することが、現場の信頼回復につながります。信頼できるデータ環境があって初めて、現場は安心して数値に基づいたアクションを起こすことが可能となるでしょう。

ビジネス部門とD&A組織の協働モデルへの転換

成果を創出している2.4%の企業とそれ以外の企業の分かれ目は、組織間の連携深度にあると想定されます。成功企業では、D&A(データ&アナリティクス)部門が単なる「集計屋」や「ツール管理者」ではなく、ビジネス部門の戦略パートナーとして機能しています。一方、成果が出ない組織では、両者の間に壁があり、リクエストベースの受動的な関係に終始しているケースが散見されます。

今後は、D&Aの専門家をビジネス部門の内部に配置する、あるいはプロジェクト単位で混成チームを組成するなど、物理的・心理的な距離を縮めるアプローチが有効です。現場の業務フローや顧客接点のリアリティを共有した上で、どのデータが真に価値を持つのかを共に探索するプロセスが不可欠です。外部のコンサルタントに依存するのではなく、社内でビジネスとデータの両言語を話せる人材を育て、組織知として蓄積していく取り組みが、持続的な成果を生む土台となります。

今後の展望

今回の調査結果は、日本企業のデータ活用が「導入フェーズ」から「実質的価値創出フェーズ」への過渡期にあることを示しています。今後、生成AIなどの技術革新がさらに進む中で、単にツールを導入するだけの企業と、組織設計や人材育成に踏み込んだ企業との格差は、より拡大していくと予想されます。

企業は、全社員一律のスキルアップを目指すのではなく、専門家と現場が有機的に連携できるエコシステムの構築を急ぐ必要があります。経営層には、短期的なROI(投資対効果)のみならず、データドリブンな文化を根付かせるための長期的な人的資本投資へのコミットメントが求められます。D&A戦略を「技術戦略」から「組織・人材戦略」へと昇華させることが、2.4%の壁を突破し、変化の激しい市場環境で生き残るための条件となるでしょう。

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