AI投資は「推論」へ。実需が押し上げる2026年のAIサーバーとASICの台頭
市場調査会社のTrendForceは2026年1月20日、2026年の世界のAIサーバー出荷台数が前年比で28%以上増加するとの予測を発表しました。生成AIブームの初期に見られた「学習」への投資が一巡し、実用化と収益化を目的とした「推論」フェーズへの移行が本格化することが、この成長の核心にあります。
北米の大手クラウドサービスプロバイダー(CSP)5社(Google、AWS、Meta、Microsoft、Oracle)による設備投資額は、前年比40%増と大幅な拡大が予想されています。これは、AIインフラの拡張に加え、2019年から2021年に導入された一般サーバーの更新需要が重なるためです。もはやAI投資は単なる実験ではなく、事業基盤の再構築を意味します。今回は、AIサーバー市場における「推論」需要の拡大、ASIC(特定用途向け集積回路)の台頭、そして汎用サーバー市場の再評価について取り上げたいと思います。

「推論」需要が牽引するサーバー市場の構造変化
2024年から2025年にかけての市場は、大規模言語モデル(LLM)の「学習」に必要なハイエンドGPUサーバーへの投資が中心でした。一方で、2026年は状況が大きく変化します。AIエージェントやMicrosoftのCopilotのようなサービスの普及に伴い、学習済みモデルを実際に動かす「推論」プロセスの需要が爆発的に増加すると想定されます。
この推論プロセスでは、必ずしも最高スペックのGPUだけが必要とされるわけではありません。推論の前処理や後処理、データの保存には汎用的な計算能力が求められます。そのため、AIサーバーの出荷増(28%超)だけでなく、サーバー市場全体の出荷台数も2025年から加速し、2026年には前年比12.8%の成長が見込まれています。AIの実装フェーズ進展が、停滞していた汎用サーバー市場をも再活性化させる構造が鮮明になっています。

出典:TrendForce 2026.1
北米CSPの巨額投資と「2019年組」の更新サイクル
GoogleやMicrosoftをはじめとする北米CSPが、2026年に向けて設備投資を加速させる背景には、ふたつの大きな波が存在します。ひとつは前述したAI推論インフラの構築、もうひとつは既存インフラの大規模な更新サイクルです。
パンデミック期の2019年から2021年にかけて、リモートワーク需要等に対応するために大量導入された一般サーバーが、2026年にリプレース時期を迎えます。これらが一斉に更新されることで、市場には巨大な調達圧力がかかります。各社は、AIによる収益化(マネタイズ)を見据え、推論トラフィックを処理するための汎用サーバーの調達を強化しています。この動きは、単なる設備の維持更新ではなく、AIを前提とした次世代データセンターへの完全な脱皮を意味しているといえます。
脱・NVIDIA一強? ASICが切り開くコスト最適化への道
AIサーバーの心臓部であるチップ市場にも、地殻変動が起きています。2026年には、GPUが依然として出荷の約7割(69.7%)を占めると予測されますが、注目すべきはASIC搭載サーバーのシェア拡大です。TrendForceのデータによれば、ASICのシェアは27.8%に達し、近年の最高水準を記録する見通しです。
特にGoogleやMetaは、自社サービスの特性に最適化した独自のASIC開発を加速させています。GoogleのTPUのように、汎用的なGPUよりも電力効率やコストパフォーマンスに優れた自社チップを用いることで、膨大な推論コストを抑制し、利益率を確保する狙いがあります。また、ソブリンクラウド(経済安全保障等の観点から自国内でデータを管理するクラウド)の進展も、独自チップや多様なAIソリューションの需要を後押しするでしょう。市場は「何でもGPU」の時代から、用途に応じた「最適解」を選ぶ時代へと移行しています。
出典:TrendForce 2026.1
今後の展望
2026年のサーバー市場予測からは、AIビジネスが「期待」から「採算性」を問われるフェーズに入ったことが読み取れます。推論コストの低減は、AIサービスを持続可能なビジネスにするための必須条件となります。そのため、今後は高価な汎用GPUに依存するだけでなく、特定の処理に特化したASICや、コスト対効果の高い汎用サーバーを組み合わせた「ハイブリッドなインフラ戦略」が重要となるでしょう。