オルタナティブ・ブログ > 『ビジネス2.0』の視点 >

ICT、クラウドコンピューティングをビジネスそして日本の力に!

ガートナー予測に見るAIの未来:インフラ偏重の投資が示す次なる一手

»

米ガートナーは2026年1月15日、世界的なAI支出が2026年に総額2兆5,200億ドル(約370兆円規模)に達し、前年比44%増となる見通しを発表しました。この数値は、AIが実験的なブームを超え、産業構造を支えるインフラとして定着し始めたことを示唆しています。しかし、この巨額投資の中身を詳細に分析すると、単純な「AIブームの再燃」ではない、よりシビアな現実が浮き彫りになります。

Gartner Says Worldwide AI Spending Will Total $2.5 Trillion in 2026

ガートナーが指摘する「幻滅期(Trough of Disillusionment)」への突入は、企業のAI活用が夢物語から実利追求へとシフトしたことを意味します。なぜ今、市場は過熱しながらも冷静さを取り戻そうとしているのか。そして、インフラ投資が過半を占める現状において、企業はどこに勝機を見出すべきか。本稿では、最新データが示す「インフラ偏重」の実態、ROI(投資対効果)への意識変化、そして既存ベンダーへの回帰という潮流について解説し、2027年に向けた展望を取り上げたいと思います。

インフラ投資が市場の過半を占める構造的意味

提示されたデータにおいて最も注目されるのは、「AI Infrastructure(AIインフラストラクチャ)」への支出額です。2026年の予測値は1兆3,663億ドルに達し、これはAI支出全体の約54%を占める規模となります。2025年の9,649億ドルと比較しても大幅な伸長を見せており、AI市場の成長エンジンは、依然としてアプリケーションそのものではなく、それを動かすための「足回り」にあることが読み取れます。

これは、多くの企業がAIの魔法のような成果を享受する前段階として、サーバーやデータセンター、ネットワークといった物理的・仮想的な基盤整備に追われている状況を示しています。テクノロジープロバイダーによるAIファウンデーション(基盤モデル等)の構築競争が続いていることが背景にあり、企業にとっては、独自モデルの開発よりも、まずは強固なインフラ環境を整えることが競争力の源泉となると考えられます。

スクリーンショット 2026-01-16 21.09.09.png

出典:ガートナー 2026.1.15

「幻滅期」は停滞ではなく、成熟への通過儀礼

ガートナーのアナリストであるジョン・デイビッド・ラブロック氏が指摘するように、2026年はAIが「幻滅期」にある状況です。これはネガティブな停滞を意味するものではありません。初期の過度な期待が落ち着き、企業が「AIで何ができるか」ではなく「AIでいくら儲かるか」というシビアな問いに向き合い始めた健全な調整局面といえます。

これまでのような、明確なゴールのない実験的な「ムーンショット(野心的な大型プロジェクト)」は影を潜めつつあります。代わって重視されているのは、ROIの予測可能性です。組織の成熟度が高まるにつれ、魔法のような変革よりも、確実な成果が見込める領域へと投資対象が選別され始めています。この時期に冷静な投資判断を下せるかどうかが、後の成長曲線を決定づけることになるでしょう。

「作るAI」から「使うAI」への戦略転換

「幻滅期」における企業の購買行動には、明確な変化が見込まれます。それは、ゼロからAIシステムを構築するのではなく、すでに取引のあるソフトウェアベンダーから、既存製品に組み込まれたAI機能を購入するスタイルへの回帰です。表中の「AI Software」が4,524億ドルと堅調に推移していることからも、既存業務プロセスへのAI統合が進んでいることがうかがえます。

信頼できる既存パートナー(インカムベント)からの導入は、導入リスクを低減し、早期の立ち上げを可能にします。未知のスタートアップ技術に飛びつくのではなく、マイクロソフトやセールスフォースといったプラットフォーマーが提供する「完成されたAI」を使いこなす能力が問われる局面です。これは、技術力そのものよりも、組織がいかに新しいツールを業務フローに定着させられるかという、組織変革力(チェンジマネジメント)の勝負になることを示唆しています。

データとサービスの成長が示唆する「人材」の価値

見落とされがちなのが、「AI Data」および「AI Services」の領域です。金額規模こそインフラには及びませんが、「AI Data」は2025年の8億2700万ドルから2026年には31億1900万ドルへと、約3.7倍の急成長が見込まれています。これは、AIを稼働させるための「燃料」であるデータの整備が、インフラ構築に遅れて、しかし急速に重要性を増していることを示しています。

また、「AI Services」が約5,886億ドルでインフラに次ぐ規模となっている点は、AI導入において「ヒト」の支援が不可欠であることを物語っています。コンサルティングやシステムインテグレーションへの需要は依然として高く、テクノロジーだけで解決できない課題が山積している状況です。インフラという「箱」と、データという「中身」をつなぐための専門的知見への投資は、今後も増加の一途をたどると想定されます。

今後の展望

2026年の「幻滅期」を経て、AI市場は2027年に向けてさらなる拡大(3兆3,366億ドル予測)が期待されます。このプロセスにおいて、企業は「過度な期待」を捨て、「確実な実装」へと舵を切る必要が生じます。AIインフラへの巨額投資が一巡した後、焦点はハードウェアから「その上で何を動かし、どうデータを活用するか」という運用フェーズへ完全に移行すると考えられます。

今後重要となるのは、AI導入自体を目的化せず、ビジネス課題に直結したユースケースを確立することです。具体的には、自社のデータガバナンスを再構築し、既存ベンダーの機能を最大限に活用しながら、スモールスタートで確実にROIを積み上げることが求められます。

スクリーンショット 2026-01-16 21.14.05.png

Comment(0)